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投棄/disposal カバーストーリー「敬虔な無神論者」
※こちらは,私のコレクション「The loser's howling collection」の作品「投棄/disposal」の背景を描いた記事になります.まずは作品をよく眺めてみてから,こちらの記事を読んでいただけると嬉しいです.
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なお,こちらはNFTgiveaway企画「祈り」における3連作の2作目になります.全て集められた方には特別なNFTをプレゼントいたしますので,集められた際にはご連絡ください.
私のことや,コレクションのことを知らない方はこちらの記事をご覧ください.
もう住んでいない実家の近くに,寂れた小さな神社があった.
人手が足りないのか,掃除もろくに行き届いておらず,細かな砂が敷かれた境内にはまつぼっくりが年中散乱していた.地面はところどころ不自然に凹み,小学生が砂を蹴散らして遊んだ様子を残していた.まあ,どこにでもある,いわゆる地元の神社,というやつだ.
この神社が賑わうのは一年にたった一度だ.自治体が開催する夏祭りの時にのみ,この神社は人の暖かさを見せる.祭りでしか人を呼べない神社に祀られて,さぞ神様も退屈でしょうがないだろう.
でも私は,この寂れた神社が大好きだった.
静かに,ただ自分の願い事だけに集中できる瞬間は他の神社にはない.わずかな風の音のみが響く中で,手を合わせて祈るのが,まるで神様と1対1で話せているかのようで好きだった.
この瞬間を,私は何度も何度も繰り返した.
人事を尽くして天命を待つ,とはいうが,私は人事を尽くしながら天命を待ち続けるくらいの熱心さだった.
そして,きまってその願い事は叶うことはなかった.
神様,どうかお願いします.隣の席の佐野くんと両想いになれますように.佐野くんは4ヶ月後に転校し,東京に行ってしまった.
神様,どうかお願いします.授業中のイタズラが松本先生にバレませんように.
翌日,先生に職員室に呼び出され,説教を食らった.
神様,どうかお願いします.第一志望の大学に行かせてください.
センター試験で数学を解いている時,マークがずれ,大幅に失点したために志望校を変えねばならなかった.
これだけ祈りを無下にされたのなら.普通もう祈ることなんてしないだろう.それでも私は,祈り続けた.
神様が意地悪をしているようにはとても思えなかったからだ.
それくらい,この神社は私のお気に入りで,落ち着く場所だった.
結局私は,祈りも虚しく第二志望の大学に通うことになり,東京へ引っ越した.実家に父を一人残して.
東京の生活は新鮮なものばかりが溢れていた.田舎出身の私には,毎日が新しいことの連続であった.目前のことにのめり込むことが多くなり,自然と祈る機会も減っていった.
東京に来てから2年が過ぎようとしていた.
大学二年の冬のことだった.12月の中頃になるだろうか.
父からの連絡が途絶えた.先日まで,いつ実家に帰ってくるのか,なんて話をしていたはずなのに,いつまでたっても「了解」の一言を返してこない.
いつも返信はすぐ帰ってくるからこそ,それを待つ時間がとても長くて怖かった.
電話をかけてみたが,出ない.
私は不安を抑えきれず,午後の授業も忘れて新幹線に飛び乗った.
頭の中で巡る思考を抑え,久しぶりに祈った.汗ばんだ両手を組み,額に近づけた.
神様,どうかお願いします.父が無事でありますように.
祈りなんて意味がないことなのかもしれない.今まで生きてきて,そう思わされ続けてきたのに.
また祈ってしまった.
この祈りが,果たして何を変えるのか?私はこれでどう救われるのか?
もう一人の自分が後ろから問いかけ続ける.
わからない.でも私にはこれしかできない.
これしかできなかった.
新幹線が駅に着く.急いでタクシーを捕まえ,実家へと向かう.
あの神社が窓越しに見える.
お願いします.神様.どうか,どうか.
息を切らして実家のドアを開けると,父は私を出迎えた.
玄関にはよく見慣れた父がいた.
いや,
父はそこに”あった“.
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