夢日記


声がしたので振り返ると見知った顔がひとつ。夢でよく会う。最後に会ったのは10年以上前だけど。

夢にだけ出てきて、名前も知らない。


自分はそれを面白いと思った、もっと寄って近く感じたいと思った。長すぎる沈黙がそれを許さなかった。



屋上は静かで、その場だけ時間が止まってしまう。祈るように熱を帯びて固まった言葉の代わりに、命のことを考えた。

この時間が、死んでしまうまで続けばいいのにと思った。


鐘が鳴って、鳥が一斉に飛び立った。



教室の春色に染められた頭はまだ命のことを考えた。自分は隣にいるそいつに倣って、教室の窓から足をぷらぷらさせてみた。

風が吹いて、体が宙に浮いた。


青く透過して解けていくから、春というものは美しいのだろう。



雲が浮かんでいる。雲はおもしろい。
かたちがあって、不安定で、自由だ。自分は急に羨ましくなって、手を伸ばしてみた。伸ばした手が重なった。


掴んで、離して、千切っては離して、そうしているうちに、会話をしているような心地がした。掴んで離す、それだけが興味で、隣にいるもう1人の自分と、幾度となく繰り返した寡黙の延長に対話をした。そいつは余程気分が良いのか、ふふんと鼻歌をやっている。風が吹くたびに心は煽られて、沈む方に傾いていった。



本。

「金縛り。」とだけ書いてある。

目が見えないから、読んで聞かせてやると、うれしそうに笑って、死んだ。反省した記憶の一片を摘もうとして、目が覚めた。時間だけが澄み切って、懐かしく、声が聴こえた気がした。
寂しくて、ふふんとやってみた。

青く透過して解けていくから、春なんてものは美しいのだろう。

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