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外から見るよりずっと広い建物


普段漫画は読まないし、始めから終いまで読み切った作品なんて片手の指で数えられるほどだった。ましてこの便利な情報化の時代に紙ベースのコミックを購入するなんて言語道断全くもって考えられない、とまでは言わないものの、少なくとも自分には縁のない話であって、この先もきっとそれは変わらないだろうと思っていた。

この作品と出会うまでは。




メガサワラによる漫画『タヌキツネのゴン』は、2022年8月から「少年ジャンプ+」にて連載が開始されたいわゆる"ほのぼの系"コミックで、そのあたたかな世界観を武器に多くのファンを獲得してきた。

かくいう私もその作品世界に魅了された人間の一人で、もともと毛程の興味も無かったはずのタヌキに猛烈な関心を示すようになり、生活は一変した。


タヌキは果実や種子、昆虫などを主食とする。
生ゴミを漁って食べることもある。

私はこれに倣って生ゴミを漁るようになった。


タヌキは四足歩行で、いくつかの決まった場所に糞をして縄張りを示す「ため糞」という習性がある。

私はもともと四足歩行ではあるが、「ため糞」で自分の縄張りを示すようになった。


タヌキはワクチンやアルミニウムに反対するだろう。

私も当然、ワクチンやアルミニウムに猛烈に反発。


きっとヴィーガンのタヌキもいるだろうかくして

かくして、

ヴィーガンで陰謀論者のタヌキが生まれてしまった


「ため糞」もするし、生ゴミを漁る


それで、四足歩行


さらにタチの悪いことにタヌキは数匹から数家族単位の群れを構成し、真夜中の休憩を挟んで日の出まで採餌活動を行うもちろん服も着ない




全裸で生ゴミを漁る陰謀論者たる私の群れが四足歩行で糞を四方八方に撒き散らしながらたまに休憩を挟みつつ夜の街を練り歩いていたら、いたらどうなりますか?るかは火を見るより明らかです



『タヌキツネのゴン』にはこのような心温まるストーリーが多く収録され、そこが本作の"ほのぼの系"たる所以だろう。少し遅くなってしまったが、ここで『タヌキツネのゴン』の主要人物を簡単に紹介したい。


ゴン(主人公)

『タヌキツネのゴン』第34話より
不愉快ここに極まれり、と言った表情。

タヌキの父とキツネの母を持つ謎の生物。ストーリー開始時点では未就学児、後に「妖怪学校」に入学(することから人間で言うと6〜7歳、犬で言うと生後4ヶ月程であることが分かる)。「対立」を嫌い、「調和」を望む性格。好物はからあげで、口癖は「〜かも!!」。


とっくり(ゴンのパパ)

『タヌキツネのゴン』第1話より

フォルム的にはタヌキと言うよりも卵。


キコ(ゴンの姉)

『タヌキツネのゴン』第1話より

卵のタヌキの父を持つが、外見は至ってキツネ。ずる賢く、ゴンを揶揄う様子も散見されると同時に、弟であるゴンを非常に大切に思っている。もう一度記す、タヌキの父を持つが、外見は至ってキツネ。


セン(ゴンの姉)

『タヌキツネのゴン』第1話より

オオキな乳を持つが、外見は至ってキツネ。




以上4匹が主人公「ゴン」と「ゴンの家族」であり、姉弟の中でゴンだけがタヌキである父親の血を引きすぎている(というか単刀直入に腹違いとしか思えないかも!!)ことを置いておけば、皆非常に仲が良く、またバランスの取れたキャラクター設定であろう。

そんな彼彼女らに見守られ、ゴンは友人や仲間と共に成長していく。何ともハートフルな世界観だ。


しかしこのように漫然と進行する「ゆるやかさ」は『タヌキツネのゴン』という氷山の、あくまでも一角にすぎない。『タヌキツネのゴン』は、そう、例えるならば教科書である。道徳の教科書。

ネタバレを避けるためにも詳細は割愛するが、当該作品には教訓めいたエピソードが数多く収録されており、登場人物が動物という性質も相俟って、まさしく「寓話」の様相を呈しているのである。また、6〜7歳という主人公・ゴンの年齢設定も、この寓話性を背面から支えるものとなっている。子供というイノセントな存在から発せられる言葉には、汚れに汚れきってしまった我々大人達を思わずはっとさせるような魔法がかけられていよう。


ギャップ


『タヌキツネのゴン』にはこの単語が相応しいと思う。なにせ、あたたかな世界観に惹かれて読み進めていたら突然、硬直した価値観への懐疑を提示してくるのだから。


あれ



あれ、この感覚は何だろう。

この、思っていたより""深い""、みたいな感覚


ああ、




ああ、これはあれだ。

外から見るよりずっと広い建物




まるで


まるで、道の駅みたいだ あるいは




ネットで買った洋服みたいだ







ーメガサワラによる漫画『ネットで買った洋服』は、2022年8月から「少年ジャンプ+」にて連載が開始されたいわゆる"ほのぼの系"コミックで、そのあたたかな世界観を武器に多くのファンを獲得してきた。以下、当該作品の主要人物を簡単に紹介したい。





道の駅(主人公)

『ネットで買った洋服』第34話より
不愉快ここに極まれり、と言った表情。

「道の駅」は地域の情報ステーション。道路情報や歴史・文化、名産品や観光地などを紹介する案内板や資料館、物産販売コーナーなどがあります。さらに郷土芸能や朝市・展覧会などのイベントも催され、様々な情報を発信して、利用者との交流を図っています。





神話の崩壊

華々しい神話は、突然の終わりを迎えた。

『タヌキツネのゴン』は、終わった。連載が終了した



らしい。


らしい、
というのは、結末まで読み切ってなお連載の終了を受け入れられない、ということではなく、そもそも最終話まで読んでいない、この目で「完結」の2文字を確認していないため、終わったと断言できないのである。真偽不明。まだ終わっていないかもしれないという意味ではシュレディンガーの



シュレディンガーのタヌキ



と言えるかもしれません
今はこの、量子的な揺らぎに縋るしかない


しかしそんな揺らぎも、最後まで読み切ってしまったら「連載終了」の事実に傾いていくことは明らかであるため、物語の続きを読みたくとも読めずにいる。

このような感情の矛盾を抱えた時、人間が行き着くものは何でしょう?



それは信仰です。『タヌキツネのゴン』は、ハナから存在していなかったという祈り。

"祈る"という行為は、私たちの生活と地理的に近接している。なにせ時間・経済の両面においてコストを要さない。身ひとつあれば成立するのだから。

別れる為に出会った訳じゃない。終わりがこんなにも辛いのなら、出会わなければよかった。

そんな時、人は祈る。

-『タヌキツネのゴン』が、どうか終わってしまいませんように。もしくは、『タヌキツネのゴン』と出会わない世界線が訪れますように。



祈る。

-『タヌキツネのゴン』?そんなモノ聞いたこともないぞ。え?「確かにある」だって?ハハハ、誰がそれを証明できる?しんのすけ、泣くのはよしなさい。涙は弱い者が見せるものだ。お前は熱に浮かされていたんだろう。みさえ、今日は空が低い、ぼんやりしてないで早くシロを庭に埋めてきなさい



祈る。


-フォッフォッフォ、神様じゃよ

 エ!神様!?!?

-お主の願いを何でも叶えてやろう。ただし一つだけじゃぞ

 そ、そしたら…『タヌキツネのゴン』と出会う前まで時間を巻き戻してください!!!

-ふむ、お安い御用じゃ。して、何行じゃ?

 エ?何行?

-うむ。長く神様をやっていると時間感覚が狂ってしまうものでな。秒数ではなく行数で頼むわい

 数えるの面倒だな…ええと

-5、4、3…

 待って聞いてない!!!50?50行くらい???

-その願い、聞き入れたぞ







「道の駅」は地域の情報ステーション。道路情報や歴史・文化、名産品や観光地などを紹介する案内板や資料館、物産販売コーナーなどがあります。さらに郷土芸能や朝市・展覧会などのイベントも催され、様々な情報を発信して、利用者との交流を図っています。

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