マキちゃんと夜のバス
1号棟から6号棟まであるN銀行の大きな社宅は学校のすぐそばにあった。
ご近所からはN銀村と呼ばれていたらしい。
マキちゃんはまだ低学年の頃に北海道からここへやって来て、
5年生で私と同じクラスになった時にはバリバリに頭が良い勉強家になっていた。
色んなことを知ってて面白いので、一緒にいると自分もちょっと大人?になったような気がして楽しかった。
勉強はまるで敵わなかったけど。
5年のある日に女子だけ視聴覚室に集められて『映画』を見るあのイベントも、
マキちゃんには「そんなのもう知ってるわ!」てな世界だったようで、
私は「さすがマキちゃんだ」と訳もなくリスペクトした(笑)。
モノははっきり言うけど威張らないし、やんちゃな男子にはきっちり文句を言う姉御肌なマキちゃんは女子に人気があった。
マキちゃんとは時々、夜のバスで会った。
6年の2学期ごろ、ふたりとも中学受験を目指して同じバス路線にある別々の塾に通ってたので、帰りに偶然乗り合わすことがあったのだ。
マキちゃんとこは超ハイレベルだったから終わる時間も1時間遅くて、私がたまに居残りなどすると同じバスになった。
マキちゃんの乗って来るバス停が近づくと、私は身を乗り出して前方の窓の外を見た。
他の学校の塾友達に混ざってバスを待ってたマキちゃんは、私に気がつくと暗いバス停前で飛び上がって両手を振ってた。
バスのベッドライトに浮かび上がったその姿は、ふだんのちょっと大人ぶった感じと違ってすごく無邪気で嬉しそう。
2人は他愛もないおしゃべりをしながら10分ほどバスに揺られて、同じ停留所で降りてバイバイした。
私はマキちゃんとの思い出でこの夜のバスで会ったことが妙に印象深い。
だからマキちゃんといえば夜のバス。
一生の中のあの10分って一瞬みたいなものだけど、
何故か思い出す夜のバス。
そのマキちゃんがめでたく志望校に合格して、
そしてなんとお父さんが転勤になった。
合格発表と辞令とがどんなタイミングだったのか、その辺の大人の事情はマキちゃんから一切聞こえてこなかったので、誰もその間の経緯は知らない。
ただ「マキちゃんは頑張って有名私立中学に合格してすごい!やったね‼」というみんなの賞賛モードのまま卒業式を終えて、
マキちゃんは「熊本」へ引っ越して行った。
中学校生活が始まって初めて届いた手紙には、体育祭のことが書いてあったから、
あれはもう秋だったんだね。
マキちゃんは、
「私はあれから熊本の私立○○中学に入学が決まり、
体操部に入って体育祭ではバトンガールになって、白い手袋して白いスコート履いて、長い足が見えてステキ‼」
と、自分で書いてきた。
そ、、そう(笑)。
相変わらずのマキちゃんに私も手紙を書いたけど、文通はそうは続かず。
色々と忙しい時を過ごしてみんな少しずつ本当の大人になって行ったのか??
私はいつも昔を振り返ってて、夜のバスとか思い出して、
あんまり成長してないけどねー。