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絵の上手なエナリさんがやって来た

銀行の社宅が3つもあった学区の小学校で、私が会った転校生達の思い出が何となくりみっとさんと重なるのは、幅跳びが得意とかマンガを書くのが上手とかやっぱりみんなそれぞれ得意分野を発揮してたからかも..
それってまんまりみっとさんじゃん(笑)。
N銀行の大きな社宅に住んでいた転勤族の友達の話その②です。

5年生の頃に関西から転校して来たエナリさんは、最初大人しくて目立たなそうな女子だったけど、
お姫様のイラストを描いたら右に出る者がなく、
そのダントツな腕前を見に女子たちはわらわらと集まって来た。
お姫様になど興味がない男子も、
「あいつ絵が上手いんだよ、だから『エナリ』っていうんだよ。」
などとワケがわからないことを言って一目置いていた。

エナリさんは、パフスリーブでドレープのドレス(私もよくわかってないけど兎に角そんな感じのステキなやつ)を着て斜め横向きに笑ってる可愛らしいお姫様を、ツツツーっと簡単に描いてしまう。
姫ばかりじゃなくて、普段着の女の子も少女雑誌のモデルさんみたいに、みんなが着たいなと思うような服を着てポーズを取っている。上手い。

私もつい真似して描いてみるけど、自分の拙いマンガや落書きとはどうも根本的にちがうような気がして。
ああいうのを絵心があるというのかしらん、やっぱりエナリさんには敵わない。
敵わないんだけど、この頃の私の絵は完全にエナリさんを意識してたし、今お姫様を描けば、それはエナリさんのお姫様を何気にビミョーに踏襲してる。

卒業間近にみんなに書いてもらったサイン帳にも、エナリさんは女の子の絵を描いてくれた。横に、
「ゴメンね、おかしくなっちゃった!笑うな!!」
って、たしか書いてあった。
少し失敗したのかな。
失敗してもダントツに上手い。

サイン帳、とっておけばよかったな。今はもう無いサイン帳の1ページを一生懸命思い出そうとしてる。
エナリさんは、卒業のあとにまた引越しが決まっていて、絵の下に新しい住所も書いてくれた。

お父さんの次の転勤先は、この年に返還となる「沖縄」。

そして、私は初めて沖縄県に手紙を出すという体験をした。

その後のエナリさんの行方はわからないけど、絵心があるっていうことは必ず何か役に立つと思う。
絵心って、心の中にいつも絵があるというか、いつまでもその人の手が絵を覚えているというか、
上手く言えないけどそんな感じかな。
だから絵心は一生ものだよね。

たとえお姫様の絵だってね。