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キボウガオカのナミちゃん

りみっとさんが小学生時代に転校生だった話を読んで、
あの、どこに行っても明るくしっかりと新しい友達を作って楽しく過ごしてしまう転校生、昔りぼんコミック?で読んだ「陽気な転校生」みたいだなぁ、と思った。

りみっとさんは、
せっかく出来た友達とまた別れなければならない、転校生にしかわからないツラさも知っている。

私の小学校の同級生にも転勤族の子が何人かいて、
私はいつも転校生を迎えたり見送ったりする側だった。
うちの学区には銀行の社宅が3つもあったので、毎年どこかしらのクラスで転校生がやって来たり、転校して行ったりよくしていた。


3つある社宅のうちの1つ、M銀行のアパートに、
ナミちゃんは住んでいた。

ナミちゃんがいつからいたのかは覚えていないけど、
4年生の時には同じクラスで友達になっていた。

男子がナミちゃんにつけた渾名が、ナミヘイ。
たぶんサザエさんの波平さんから来てるんだけど、
得てして当時小4~5くらいの男子はこういうデリカシーのデの字もない渾名をつけるんだ。
りみっとさんの場合もしかり。

男子からたびたびナミヘイと呼ばれることにもめげず、
ナミちゃんはとても運動神経が発達してるスポーツウーマンで、特にかけっこが速かった。
私も唯一得意だった徒競走で何度となくナミちゃんと1等2等を争った。

それからナミちゃんはドッチボールも強く、
これには手も足も出ずいつも私は逃げ回っていたが、
狭いコートの中でナミちゃんの豪速球にはすぐ当てられてしまう。
でもあんまり強くぶつけてしまった時には、必ずナミちゃんは当たった人に「ゴメンネっ!」と声をかける、優しい子だった。

ある年の運動会で私が1等になった時も、ナミちゃんは見に来ていたお母さんに、
「今日はRちゃんに負けちゃった~!」と屈託なく照れ笑いしながら報告していて、
もっと悔しがってるかと思ったのにナミちゃんのサワヤカな素直さったらない。
私など、ナミちゃんに負けてしかも屈辱の3等(ガーン!!)になった時なんか、3等賞の緑リボンを胸につけるのがイヤでお弁当包みのナフキンにつけてこっそり持ち帰ったのにさ。

そんな優しく素直なナミちゃんが5年生のある日、転校することになった。
仲良しの女子達が5、6人、ナミちゃん家のお別れ会に呼ばれた。

「お誕生日会じゃないから、プレゼントは無しでね」というお達しが前もってナミちゃんからあったものの、
私は、何か記念になるような物くらいそっと渡そうと思い、自分で作ったアンダリヤ手芸の箱に、持っていた木のペンダントを入れて送別品として持って行くことにした。

お別れ会当日、ナミちゃんの社宅に集まったみんなは、何やらそれぞれピカピカのリボンがかかったステキなプレゼントの包みを持っていた。
そしてパーティーもたけなわの頃、誰かがナミちゃんにプレゼントを差し出すと、他のみんなも一斉に各自用意してきた包みを渡し始めた。

わーっ‼ こ、これは・・
いつものお誕生日会と同じ景色じゃないか。
気まずい。

私は、家にあった綺麗めな中古包装紙に使い回しのリボンを自分で結んだ、

お金持ちの家の子の誕生日会に呼ばれたちょっと貧乏な家の娘が下手だけど一生懸命作った手編みの手袋の贈り物を持ってお屋敷の門を叩いて中に入れてもらったけど、すでに集まっている着飾った令嬢たちが手にしているフランス製の抱き人形とかクリスタルガラスの子馬とかが入っていそうな立派なプレゼント包みを見て初めてハッと場違いな我に気づくみたいな、

その持参品を、手提げぶくろの中に仕舞いこんだまま、
トボけてひとりだけ私はおとなしくしていた。
(実際、そんな大仰な妄想はしていない。)

みんなもナミちゃんもそれについては何も触れず。

1つずつプレゼントが開けられるたびに、
「わ~!」「かわいい〜!!」
「ありがとう~~」だのと、みんなの感嘆の声が沸き立ち、
それはお誕生日会と同じ流れのままやがてパーティーは滞りなくお開きとなった。
もちろんみんな庶民の子なのでフランス製の抱き人形もガラスの子馬も出て来なかった。


そのあと、社宅の外でまだお喋りなどしてみんなで遊んでいた時、
私は持ってたプレゼントをこっそりナミちゃんに渡した。

「これ、家にあったやつなんだけどあげる。」

ナミちゃんはすぐ包みを開いて、
「わー、すごい!自分で作ったの?」
と、箱をあけて中のペンダントを取り出した。

「うん、箱は作ったの。ペンダントは私が持ってたやつ。」

するとナミちゃんは、
「ありがとう‼大切にするね‼‼」
と、少女マンガのセリフのように言ったので、私は少しくすぐったかった。
でもナミちゃんだからすごく素直で自然に聞こえた。

周りのみんなもすぐに覗きに来て、
「わー、かわいいー」といういつもの称賛でこの件は終わった。

それより、この日のトピックスはこのあともうひとつ起こる。
今までのは長い序章だった(いや、ちがうけど)。

ナミちゃんの社宅に、もう1人同じクラスのオオツボ君という男子がいた。
彼は転校して来てからまだ1年もたっていなかったと思う。
せっかく同じ社宅のナミちゃんと同じクラスに入ったのに、今度はナミちゃんちが転勤である。

オオツボ君はニコニコと愛想がよく、うちのクラスにもすぐに溶け込んでいつも楽しそうだった。
というか、ちょっとお調子乗り。

転校して来てわりとすぐに、隣のクラスが給食の大食缶(汁物などが入ってる大きなバケツ)を廊下でひっくり返した時とか、
真っ先に教室のみんなにスクープして来て一番騒いで怒られたおっちょこちょいだけど、
どこか憎めない男子だった。

でもナミちゃんは、何かというと
「あ、またオオツボ君て調子に乗ってふざけてる。バカみたい。」などと、
オオツボ君に関しては少し過敏なくらい反応してるきらいがあった。

ナミちゃんて、ほんとにオオツボ君が苦手みたいだな。
私はつねづね思っていた。
本気でそう思ってた。
..のだが。

そのオオツボ君が、お別れ会が終わった私達の方にやって来て、ナミちゃんを呼んで何か渡している。

みんなは遠巻きにしっかり見ていた。

オオツボ君は、ナミちゃんに何かブツを渡すと、あっさり行ってしまった。

戻って来たナミちゃんは
「これ、もらった。」
と、みんなの前でその包みをすぐ開いた。

たぶんその中身は、オオツボ君のお母さんが選んだハンカチとかスカーフとかそんな感じだったと思うけど..


...実は肝心のここからの記憶が私には無い。残念(笑)。

オオツボ君のプレゼントが何だったのかも、ナミちゃんの反応がどうだったのかも、この時のみんなの様子のことも、
そして2人の間にどんな会話があったかも。
案外これもサラッと終わったのかもしれないけど、
空想はドラマチックにもベタにも展開出来るっちゃ出来る。
思い出はいつも美しい、なんちゃって。

でも、ナミちゃん、
私はこのお別れ会のあとの思い出せないオオツボ君のくだりを、ナミちゃんだけの思い出としてプレゼントみたいに包んでおくよ。
もしかしたらナミちゃんももう忘れてしまってるかもしれないけどね。


ナミちゃんは、新しい住所を教えてくれた。
ヨコハマ市...キボウガオカ..

この世にこんな、サリーちゃんが住んでる街みたいな場所があるなんて‼!!
この時、私は「魔法使いサリー」の学校と同じ名前の小学校があることを初めて知った。

それから、
転校して行ったナミちゃんに何通も手紙を出して2年くらい文通してた。
キボウガオカと住所を書くたび、それは夢みたいな街に思えた。
(幼少期に夢見てたサリーのイメージは根強い。)
ナミちゃんはどんな所で、どんな学校生活を送っているのかな。

ナミちゃんから、
『今日、体育の走り幅跳びで、女子で私だけ4メートル跳べました。』
と、ある日の便り。

自慢の運動神経はますます絶好調のようだ。


キボウガオカのナミちゃん、
夢みたいな名前の街で4メートル跳んで、
そのあとどんな大人になって、
今どうしているんだろう。

そして、あのあと卒業も待たずに自分もまたどこかへ転校して行ってしまったオオツボ君は...?

陽気な転校生たちは今頃どこかの空の下で、
こんなふうに遠い日を思い出すことがあるかしらん。。


P.S.
キボウガオカ小学校というのは、全国に結構何校もあるんですねぇ。キボウガオカ商店街ってのもあるしね。どこかでキボウガオカサミットもありそうですね。