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わたしらしくないこと

 ……とタイトルを書いて、私は部屋を見渡す。ああ、あまりにも私らし過ぎる。今日は12月31日大晦日。いつもと変わらないー否、下手に触った結果下手をすれば普段より片付いてない部屋、まだ家にある年賀状……。帰郷して母に「家片づいたん?」と訊かれ、「いや……」と言葉を濁し、「またあんたは……普段からやってないから云々」と小言を言われるまでまあ見事な様式美だ。

 そんなことはさておき、せめて頭の中くらいは適当な整理をつけたい。

 今年は私には珍しいこととか、らしくないことを幾つかやった気がする。
 月々の星々に140字小説を投稿したのは1月だから、ちょうどほぼ1年前だ。私はわたしが苦手なくせに、何故か文章は創作ではなくパーソナルなものに寄っていたので、創作をするのは部活と、手遊びにやっていた学生時代以来だ。やってみて、あんまり想像力がないことに気がついた。どちらかと言えば空想癖を拗らせていると思っていたけれど、風の温度や匂いや色が見せる波、聞こえるような気がする声を拾うように書いている。多分それらには正解がないからだ。自分の箱庭に正解も不正解も、本当はないのに。

 それから、Twitterにspaceが実装されて、「アイコンとアカウントが出る以上相手に分かるのは恥ずかしいし、ましてや自分が参加するなんて」と思っていたけれど、今では抵抗はなくなった。限定的ではあるけれど、通話アプリで知らない人と喋ったりもする。誰とでも、とはいかないし、楽しそうだから参加したいというアマテラス的要素が大きいけれど、それでも天秤はそちらに傾いたのだからえらい変化だ。誰よりもびっくりしているのは自分だ。

 ふたつほど例を挙げたけれど、何よりわたしらしくないのは、"わたしらしくない"を捨ておこうというそのメンタリティだ。そもそもわたしが思っている"わたしらしさ"とは何だろう。それは"自他から否定されない自分の形"なんだと分析する。自分が求められるロールを意識し、どんな風に見られるか、誰にとってそれがどう作用するのかを反射的に考える。それは気を遣えるとかそんな綺麗なものではなく、あくまで後で自分の気持ちがしんどくならない為の忌避行動だ。

 好きな歌の歌詞に「好きなものを好きだって言える/それだけでとても幸せな気持ちになれるんだ/だから堂々としていればいいのさ/心と同じ声になるように」というフレーズがある。高校生の頃から口ずさみながら「それができたら苦労はしないや」と思っていたけれど、今年はわたしが好きだと思うことを好きだと口にすることに、急に意味を見出したように思う。それはある種のフィードバック。最初に書いた小さな創作に反応や評価を貰えたこともひとつだし、他の人の作品に感想を伝えたらはっきりと"嬉しい"と返事を貰えたりしたことが大きく寄与していると思う。
 創作に寄って話をしているけれど、これはそんな限定的な話ではなくて、単純明快で原始的なキャッチボールだ。呼吸のようにインプットとアウトプットを繰り返すこと。ああ、わたしはそういうものに対して不精していたんだな、と気付かされた。そういう自分に対して目を背けないこと、それも弱いわたしには"わたしらしくないこと"のひとつだ。

 "わたしらしさ"の否定はわたしの否定になるのだろうかと考える。多分NOだ。"わたしらしさ"はわたしではないから。"わたしらしさ"の前に叩かれ、閉口させられ、捩じ伏せられ、閉じ込められていたわたしもわたしなんじゃないか、と急に、本当に急にパラダイムシフトが起こった。私はわたしの何を守ろうとしてたんだろう。えらく長く勿体ないことをしてたな…としみじみ思った。

 氷はゆっくりと、だが確実に溶けている。それは言うまでもなく自分のお陰ではなく、自分を温める誰かの存在のおかげだ。投げるボールの先に、大声で歌う先に、電子のその先に誰かがいる。いないかもしれないけれど、それを信じることができる。信じる振りが出来るだけの経験を積む事ができたからなんだと有難く思う。

 目の前に現れたどこへでもいけそうな靴を手放す事がないように、来年も"わたしらしくない"ことを色々やってみようかな、とワクワクしている。気づけば最後の30代の1年だ。はちゃめちゃやって集大成、なんて素敵じゃないか、なんてのはとってもわたしらしくなくて良い。

 今年も一年、本当にありがとうございました。蔓延する病は収まりを見せず、疲弊と不安と混沌の中で同じ船に乗りながらも周りを労り、声を掛け、ひとを思いやる皆さんは本当に素晴らしいと思います。有難くも、わたしはそうした人の輪の中で生きる事ができ、こうして年末に温かい気持ちで振り返り、来年を想うことができています。こんな幸せなことはないでしょう。

 来年が皆様にとって楽しく明るく幸せで温かな光に満ちた一年になりますように。時に辛いことや悲しいことがあっても、羽を休め心癒せますように。心からお祈り申し上げます。

 また来年お会いしましょう。良いお年をお迎えください!

もし心に届くものがあったならお願いします。頂いたお心は自分の成長に充てられるものに使わせていただきます