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「あんたはこれ好きやもんね」

 先日、久方ぶりに実家に寄った。このご時世、父母共に既往歴があるのであまり立ち寄らないようにはしているのだけど、用事があったのでやれる対策はやりながら。

 いついつ家に帰るよー、と声を掛けると大体母はご飯の話をする。「帰ってきたら食べるのか」とか「これがあるから帰ってきたら出してあげる」とか「食べたいものはないか」とか。私にとっては心底何でも嬉しいからこそなんだけど、母にとっては嬉しくない、お決まりの「何でもいいよ」を発動する。今回も同じような会話をしたのだけれど「だご汁食べる?」の一言に私は前のめりで乗っかった。
 「食べる!!」

 "だご"とは団子のこと、即ち"団子汁"。小麦粉.卵、水(出来れば更に団子粉を混ぜるとモチモチが増して更に良い)を少し緩めに練って、具材たっぷりの出汁に入れる汁物だ。汁物とは言うが、にんじんや牛蒡、練り物、白菜、椎茸、鶏肉、それに主役のだごがふんだんに入ることで汁の存在感は薄い。母の田舎は熊本の有明海沿岸なので、汁部分(?)は澄ましに近い。私にとってこれは母の味ではあるが、母にとっては自分の母の味である。

 ひと口食べて、素直に「美味しい」と声に出た。母が「美味しい?あんたはこれ好きやもんね。具はなーんでもいいよ。でも練り物は絶対入った方がいいね。あと白菜も!」とにこやかに言う。何気ない会話だけれど、ああ、これは口伝なのだ、継承なのだな…としみじみした。

 母が祖母に育てられた味を私に伝える。私が次の世代に繋げられるかは分からないけれど、私は少なくともこれを自分の為に作るし、誰かに何かを振舞うタイミングが来たら、これを思い出して作るんだろう。そしてこの日の話とか、作り方に悩んで訊いた日の電話とかを思い出して、その話をしたりするんだろうな、と頭の遠くで思った。

https://twitter.com/tweetssb/status/1094410609397919744?s=21

 尚、「美味しい、ホント美味しい」としつこく褒めると、母は必ずと言って良い程「お母さんよりばあちゃんの方が上手いわ。お母さんばあちゃんみたいに作れへん」と言う。多分私も同じように言うだろう。でも母のだご汁は美味しいのだ。

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