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うたと思い出/推し短歌



15歳のころから30歳になった今まで、私の中で"推し"と言えばサクラメリーメンというバンドのフロントマン・小西透太(トータ)のことである。
これは気付いたらもう人生の半分がサクメリの、トータの音楽と一緒に在ったということで、ここまで来たらその記録は更新され続けるしかないっていうことだと思う。すごい話だ。
トータの音楽とうたの何がどれだけ好きかって話は今まで散々してきて、でもやっぱり15年も好きでいると、ただ単に彼の音楽やうたそのものについてだけ語るのは難しくなる。人生に癒着しすぎているのだ。どうしても私の思い入れと思い出が混入してしまって、純粋な作品の評価から遠ざかるから申し訳ない。
でもまあ、「推す」って言葉は能動的な言葉だし、それをしている私の内面が含まれないほうが不自然かなとも思う。完全に切り離そうというのが無理な話なんじゃないのか。でも作品をオススメするときにあんまり私の話ばかりしてもな…なんてことを日頃は考えているんですが。
今回は「推し短歌」の企画があるということで、ありがたくそれに乗っからせてもらい、サクメリというバンドおよび小西透太というアーティストの音楽に絡め、それをずっと「推し」続けている私個人の思い出にフィーチャーして短歌を詠んで、それぞれにエッセイみたいなものをくっつけてみました。
大義名分があれば自分語りだってしやすいのだ。

「ねえ、ダーリン? 日々どうだい?」
「アイラブユー」の意味だってようやくわかる

(サイハテホーム)

小西透太という人はどうにもSNS無精なので、昔も今も全然SNSを更新してくれないし、歌ってる動画も全然アップしてくれないんだけど、新型コロナの流行が始まって、世界がステイホームを謳い始め、ライブイベントがどんどん中止になっていた頃に珍しく弾き語り動画をTwitterに公開してくれた。選曲はデビュー曲の「サイハテホーム」だった。

結構いろいろな理由で気が滅入っていた当時、この弾き語り動画にどんなに救われたか、語ると数千字になるので割愛するけど、とにかくめちゃくちゃ救われた。ライブがどんどん中止になって、アーティストに会える機会が失われていってる最中で、「たまにしか逢えなくなったけど君を想ってる」「会いに行くよ」という歌を推しが歌ってくれるんだから、そりゃもう泣くしかないぜ。この1分半の弾き語りでめちゃくちゃ泣いたし救われた。
ちなみに私はこの投稿の2週間後に地元で行われるトータのソロライブに行く予定だったが、普通に中止になってそれはそれで泣いた。泣きながらこの動画を何回もくり返し見た。そういう意味でもこの投稿がされていて助かった。逢えなくたって大丈夫だとそう思えたので。

愛のうた 歌うあなたが泣いたわけ 答え合わせを聞いてまた泣く
(リリィの愛の歌)

「リリィの愛の歌」という曲があって、これはサクラメリーメンの7枚目のシングルなんだけれど、リリース当初のブログ記事とかからしても作ったトータ本人がめちゃくちゃ気に入っていた。「めっちゃいいラブソングができた!」と言って、リリースからしばらく(少なくとも私が知る範囲では)ライブで歌う度自分で泣いているくらいだった。
実際これはめちゃくちゃ良い曲なんだけど、作った本人が歌う度自分で泣いているというのはなかなか異様である。しかしトータは自分で泣くくらい感情がこもってるほうが歌も良くなるので、私も聞くたび泣いていた。他のファンもそうだったと思う。ライブの度にボーカルもファンも泣いている曲。異様である。確かにめちゃくちゃ良い曲なんだけどトータのこの思い入れはどこから来るんだよとビビっていた。
答え合わせはシングルリリースから何年か経ってからのライブのMCでされた。「これはみんなのことを想って作ったラブソングです」みたいなことを言われたんだったと思う。ド直球にファンに向けたラブソングだったらしい。ド直球にファンに向けたラブソングを作った上にしばらくライブで歌う度に泣いてたの!?
衝撃だった。トータは基本的にめちゃくちゃファン思いのフロントマンなんだけど、それにしたって…そんな…あんなに泣くほど私たちファンのことを想って…!?
びっくりしたので泣いた。今でもリリィを聞きながら歌詞を眺めながら「こんなに私たちファンのことを想ってくれてるんだな…」って噛みしめる日がある。推しがファンを愛してくれているって幸せなことですね。

カタカナが好きなんですと はにかんだひとの歌声 まろくやさしい
(アイコトバ)

アニメ「世界一初恋2」のED曲にサクメリが起用されたとき、何が起こったのかよくわからなかった。私はセカコイという作品にきちんと触れたことはないのだけれど、BLが好きなオタクなので当然存在は知っていた。あの超有名BL作品のアニメ2期のED曲がサクメリ!?とめちゃくちゃビビった。なんでそんなにビビったかを説明するには当時のBLというジャンルの立ち位置とか諸々の話になって長くなるので割愛する。
アニメセカコイは声優さんによるWEBラジオがあって、一期の頃から主題歌のアーティストをゲストに呼ぶ企画があった。その流れでトータがゲストとして声優さんたちとトークした回があって、アニメを見ていない私もその回だけは聞いた。
何かの流れでサクメリの曲名一覧を見た声優さんが「もしかしてカタカナが好き?」と訊ねて、トータが「そうなんですよ!」と答えたことを覚えている。別にこのラジオに限らずちょいちょいMCで言っていたと思うけど。
実際サクメリの、というかトータの作る曲の名前はカタカナが多い。デビュー曲の「サイハテホーム」からしてカタカナだ。バンド名もオールカタカナだし。「アイコトバ」はたぶん「合言葉」と「愛言葉」のダブルミーニングなんだろうけど、何にしてもカナカナだ。
カタカナって軽やかでポップなイメージだし、トータの作る音楽は確かにそういう印象のものが多い。
でも歌詞のメッセージ自体は常に愛情に溢れてやさしいものだし、それを歌うトータの歌声もいつも透き通ってやさしくて、全体の印象としてはひらがなっぽいんだよな~。なんてことを勝手に思い続けている。
実際にトータがセカコイ原作を読んで作ったっていう「アイコトバ」も本当に爽やかでかわいらしくてやさしいラブソングだ。(WEBラジオで「原作を読んだら胸キュンセンサーが反応してすぐできた」みたいなことを言ってたと思う)当時はこの曲をきっかけにファンになったって話もよく聞いたし、タイアップをくれたセカコイにはめちゃくちゃ感謝している。実質的にこれが最後のシングルCDになったしね…

くらがりを照らす明かりに似てひかる あなたがうたう「きっと世界は」
(きっと世界は)

20代前半までの私はめちゃくちゃ天邪鬼で斜に構えてて、この世界って結局のところは暗くて悪くてろくでもないものだよなと諦めていた。
それでも私が大好きな小西透太という人がサクラメリーメンというバンドで音楽をやる上でのテーマはずっと、「きっと世界は素晴らしいものだから」だった。ときどき「それでも」という言葉が先頭にひっつく。
いつだったかのライブのMCでトータが「こんな暗い世の中で明るい曲ばっかり作ってどうするの?って言われたことがあるけれど、逆にこんなに暗い世の中なのに明るい歌を歌わなくてどうするんだ」みたいな話をしていたことを覚えている。
この世界が明るくて楽しいことばかりじゃないことをわかっていて、“それでも”、「きっと世界は素晴らしいものだから」とトータは歌い続けている。その言葉を自分で心から信じているからというよりは、自分がそう信じ続けるために歌っているんだと思う。
要するに、「そうあってほしい」という祈りとか願いとかそういうものなのだ。これはときどき本人もMCで言っている。「祈りや願いみたいなことばかり歌ってきてる」とか何とか。
だから私はトータのことが好きだ。
昔の私は天邪鬼で斜に構えたひねくれ者だったけれど、トータがそう歌うのを聞いているときだけは「きっと世界は素晴らしい」を信じてもいいかなという気持ちになれた。私が大好きな人がこんな風に願ってることなんだから、本当のことになってほしいなとそう思えた。
そういう意味でサクメリの音楽とトータのうたはずっと私の中でひとつの光だった。どんなに暗くてつらい人生でも、世界を信じられないより信じられたほうがいいに決まっているので。ちょっとでも世界を信じようという気持ちにさせてくれるんだから、それが光じゃなくって何なんだ。

さいわい私の人生は言うほど暗くもつらくもなくてのんべんだらりとこの歳まで来ているけれど、それでもやっぱり、すぐそばにサクメリとトータの音楽があってよかったなと思う。
サクメリというバンドはいろいろなことがあって、今はほとんど活動していないに等しいし新曲の音源ももう何年も出ていなくて、先述の通りトータはSNS無精だし、それはまあ結構寂しいことなんだけれど、意外とあんまりつらくはない。
人生の半分を寄り添ってくれた音楽はこれからも寄り添ってくれるんだと思うし、今までのサクメリやトータのライブが楽しかったっていう思い出は揺るがないし、何回聞いて紐解いても、やっぱり自分はトータの音楽も歌もメッセージも大好きなので。

ただ、私の大好きな彼と彼らとその音楽が世界から忘れられていってしまうのは寂しい。どうにか新しい誰かにも聞いてほしいなという時はある。

……ということで短歌を詠んでこんな文章をダラダラと書きました。
「推し」てる気持ちがちょっとでも伝わって、あわよくば曲を聞いてもらえたら私が勝手にうれしくなります。
(Spotifyのリンクを張ってるのはYouTubeにある公式MVの音質と画質が死んでてとてもじゃないけど初見の人に勧められないからなので許してください)

#推し短歌


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