映画と影響力の話

ベランダの窓から、黄色か白か混ざったような朝日が差し込む。この季節の朝に、こんな色があるなんて、じっと観察したことはなかったな。息子を背中に乗せてお馬さんごっこをしながら、肌寒そうな空を見上げた。前髪が鼻にあたって痒くてたまらなくて、早々に息子を下ろして抱きしめて仕返しにとくすぐった。一歳になって少しの息子はまだこんなのでも笑って喜んでくれる。

7時が過ぎたらテレビはニュース番組から、息子が大好きな教育テレビへと移り変わるのがうちの日常。これでもかと右へ左へと動かして踊る小さな後ろ姿を見ていると、世の中の出来事なんてどうだってよくなってくる。だけども悲しいニュースは今この瞬間もどこかで起こっているのかも。踊るたびに短い髪の毛がふわふわ揺れる。綿毛みたいだな。友達からいただいたお古のパジャマ、やっぱりまだ大きいから裾を折らないとな。後ろにいた私に気づいて息子が走って寄ってきた。遠慮なく膝の上に腰を下ろすいきもの、空気みたいに軽い。テレビでは楽しそうにキャラクターたちがはしゃいでる。その雰囲気に触れて息子も楽しそうでノリノリ。こんなに小さくても楽しそうな空気がわかるんだね。

つい先日4年に1度の衆院選があった。開票番組がまるで年越しのそれで驚いた。蓋をあけるまではあんなに静かだったのに。今更お祭り気分になってどうするんだろう。
そのことと、ハロウィンの浮かれた雰囲気にみんなが心を費やしているときに悲惨な事件が起きた。
書き留めることもよくないかもしれないと思った。でも動画や写真を見てしまった。何度も文字にして消してを繰り返した。頭から離れなくなってしまった。

東日本大震災があったとき、津波の映像が日本のどこでも何度も流れて、その映像を見続けたことで精神的にやられてしまう人が多くいたという。
私のところにも何人も相談があった。東京や福島から遠く離れた場所なのに。
中でも驚いたのが、「何もできない自分」「元気で過ごしている自分」に対して強く罪悪感を持ってしまう人が多かったこと。普通に考えれば、それは悪いことではなかったり、仕方のないことだったりもする。それでも健康でない人や、繊細で優しすぎる人たちの中にはそういった二次災害に見舞われてしまう方がいたりした。

映像が人に与える影響は良くも悪くも大きい。
今回のような事件を生々しく写したものはもちろんだけど、私はフィクションにもその影響力があると思うんだよな。

映像や作品の影響力というのは、例えば何かをしようとする時の、1から100までを左右するような力ではないと思う。どちらかというと、スイッチを押すか押さないか、すでに出来上がった人間性を気づかない程度の風でさするくらい、というか。ささいなことには変わりないし、若干だとは思うけど、やっぱり健康でない状態で触れる作品の種類は選ばないといけないと思う。

でも難しい。とても難しい。良い作品が増えていくことで選択肢も広がった一方、選ぶ能力も育ったかといえば別に比例しない。ホアキン版ジョーカーはとても話題になった。世間を騒がせた。私はあんなに大々的にみんなが取り上げて世間を騒がせるような作品じゃないんじゃないかなってちょっと思ってた。ヴィランを作らない社会にしなきゃと捉えた人も多かったと思うけど、ヴィランに肩入れしてしまう人や、ただ単純に心が抉られた人も多かったんじゃないかな。「ジョーカーのダンスよかった」くらいの見方の方がむしろ健康的だと思った。
別にジョーカーという作品に罪はない。でもこうなってしまったのは社会のせいだからジョーカーは悪くない、は違う。あの映画から滲み出る狂気は見逃したらいけないと思うな。だってわざとやってんだもんね。

でも何が難しいかってね、そういう映画だって生き残ってほしいんだよね。まだまだ狂気に触れたような、どえらいもの見てしまった、、ってしばらく動けなくなったり、次の日から寝ても覚めてもあのワンシーンや、あのセリフのことで頭がいっぱいになったり、時間ができればスマホで感想を読み漁ったりする、あの衝動衝撃をまだまだ味わっていきたいんだよね。なんなら私は飛び散る肉片が多めの映画でも、しばらく脳裏に焼きつきはするけど、美術スタッフのすごさを切に感じ取れて好きだったりする。

でもそれらが影響し、また影響されあうような悪は生まれちゃいけない。

今回の事件は、まあどの事件もそうなんだけど、長い長い、裁判を経て真実がわかっていくのだろう、そうであってほしい。
同じことが繰り返されないためには私たちはノーと言い続けて、根本や背景におそらくある社会問題を解決できるように皆で動かないといけない。
皆んなの大切な映画のキャラクターを使われて、ジョーカーは悪くないって言いたくなる気持ちもわかる。
でもそういうこと言うような。。事態じゃないから考えていかなきゃな、って思う。
ほんでジョーカーは何がああさせたとかは置いといて悪いやつだからな???!
ダンスだけは良かった。

映画が大好きで、これからもたくさんの良い映画に触れて、楽しんだり衝撃を受けたり悲しくなったりしたい。映画が生き残るのって私たちにかかってる。だから見る側の選ぶ力とか、受け取る力とか、育んでいかないといけないんだけど、それってもう教育の話になっちゃうんだよね。

やらんといけんことがばかでかくてあんまりにも遠い未来のためにあるのね。
とりあえず一映画ファンとしては、偏りなく、わかりやすく、嘘はつかずお薦めをしなきゃということ。
どんなに自分は大好きな作品も、人によってはスイッチを押す風になりかねないと思うこと。
あとは、健康でいること。
健康でないときに見る映画はしっかり選ぶこと。
など大事にしていきたいなと思う。


あまりにも悲惨な出来事で、整理できていないけど、勝手なことを書き連ねて申し訳ない気持ちもあるけどここにとどめておく。

書き終える頃には、息子は横で昼寝をしている時間になった。初めは朝だったのに。ぷう、と鼻ちょうちんがでてる。この子の健やかな未来を願って割ってみたら眉毛がビクビクと動いた。もう少しだけおやすみ。起きたらボウロを食べよう。

どうか被害に遭われた方の回復をお祈りします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?