見出し画像

生まれて初めて観たホラー映画『牛首村』

大好きな萩原利久が出ているので『牛首村』を観た。

ーーあの、ホラー映画って、これが観るの初めてなんですけど、こういうのが普通なんでしょうか??

と、誰に聞くでもなく聞きたくなるような、そんな映画。

萩原利久は美人の同級生の周りをチャカチャカうろつく軽薄な男子高校生・蓮(れん)役。
陰のある高橋文哉とは対照的な役柄で、序盤から登場して強烈な印象を残す。

この映画を観て思ったのは「ああ、映画って順番に撮るわけじゃないんだな」ということ。
編集の段階で、撮影した物を矛盾がないように繋ぎ合わせなければならないんだな、と。

まあ、この作品は脚本の段階で「見せたいシーン」「動かしたい物語」に向けて力技でねじ伏せる作りになっているので、矛盾を言い出したらキリがないし、むしろ野暮なのだろうと思う。

ただ、観ていて戸惑うことが何度かあり、逆に言えば、これまで観た映画はそういうことがないよう、編集段階でちゃんと「物語」として整えられてたんだな、と気づかされた。

(普通にネタバレするのでよろしくお願いします)

主演を務める女優さんは、これが初めての映画出演。それもあってか、ちゃんとお稽古をしてから撮影に入ったことがわかる演技だった。

台本に「ここで振り向く」「顔をしかめながら」といった細かい書き込みをして、その通りにお芝居しているような印象。
つまり、プロの演技指導をきちんと受けた上で初主演に臨んでいる。

なので、一昔前のアイドル映画のようにとんでもない棒読みだったり、少ないセリフをビジュアルでカバーしたりといったことはない。
少なくとも、ちゃんと「演技」している。

ただ、ワンシーンごとの「演技」が物語全体を通して繋がっているかというと微妙だった。

冒頭から女子高生である彼女と、同級生である蓮のシーンがあるのだが、蓮への当たりがとにかくキツい。
ほとんど蛇蝎のごとく嫌っているかのような態度だ。

だが、いくつかの怪奇現象に遭遇した彼女は、その蓮に自分と一緒に富山へ行ってくれるよう頼む。
決して同性の友達には頼めない。自分のことを好きだとわかっている異性に頼むこのお願いはとてもリアルだ。

つまり、萩原利久演じる蓮は、美人の高校生がつき合うつもりはないけれど、まあ偶に便利なこともあるからと、適当にあしらっている異性の同級生という位置付けになる。
それはある種のステレオタイプであり、非常にわかりやすい人物関係でもある。

だが、それにしてはヒロインの態度が、蓮に対してキツすぎるのである。
富山へ向かうバスの中で、彼女が子供に見せる柔らかい笑顔は、彼女の素の部分が垣間見える印象的なシーンなのだが、直前の蓮へのキツい態度と合わせて見ると、ほとんどサイコパスのようである(苦笑)

付け加えれば、実の父親(ココリコの田中直樹)に対する態度もかなりキツい。
それは「一人二役」を強調するためのキャラクターなのかもしれないが、残念ながらヒロインが「嫌なヤツ」に見えてしまい、彼女が怖い思いをしても一向に感情移入できないし、可哀相とも思えないのである。

蓮との友達以上恋人未満の関係が、後半の展開に生きてくる……はずなのだが、蓮が死んで泣き叫ぶヒロインが突然すぎて、ますますサイコパスに見えてしまう(笑)
この辺りは、普段はバカにしていて憎まれ口ばかり聞いていたけれど、本当は大切な友達だったということを描きたかったんだろうな、と頭の中で補いながら観ていた。

だが、もし台本の順番通りに撮っていたら、主演女優がもっと自然にヒロインの感情を追うことができ、観る者にここまでの違和感を覚えさせることはなかったかもしれない。

瞬間瞬間の演技を一つに繋ぎ合わせるというのは、素人が思うよりずっと難しいことなのだろうと思った。

台本を最初に貰っていても、現場で変わることもあるだろうし、俳優自身が「なぜここでこういうセリフを言うのか」と役の人物を理解して、頭の中で組み立てていかなければならない。

萩原利久は朝ドラ『エール』の中で、たった2回の出演ながらとても印象的な役を演じているのだが、この記事を読むと途中で設定変更があって大変だったらしい。

おそらく、ドラマや映画の撮影現場では、こんなことはしょっちゅうで、役者はそれに合わせて臨機応変に対応しなければいけないのだろう。

『エール』で萩原利久が登場するのは、第87回と第88回である。
NHK+やU-NEXTに入っている方はぜひ見てほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?