サモン&マジック所感
0.まえがき
2022年5月28日に発売したTCG、サモン&マジック。
発売から2周間が経過し、そろそろどんなゲームなのかを紹介するブログや何かが出てきそうなものだと思って検索したが、ほぼ無いという不思議な結果になった(過去バージョンの記事はいくつかあるが、5月28日以降の記事はこれくらいしかない)。
実は、この記事に書かれている対戦を見学させてもらっており、また、公式が配信している対戦動画も全て見た。その上でこのゲームに感じるところはいくつかあった。面白い試みが多く、だが同時に大きな問題も抱えていると感じた。
「そんなに大きな問題があるならばすでに話題になっているのでは?」と思ったが、実際はあまり話題になっていない。公式動画の再生数が3桁でそもそも知名度が低いのではないかという予感もあるが、それ以上に、サモン&マジックのシステム的な考察は書きにくいのだ(詳細は後述)。
その前提の上で、あくまで自分が感じた事を整理して書いてみようと思う。
1.このゲームの欠点?
まず、いくつかの対戦動画を見て感じたのは、このゲームには欠点があるのではないかという疑問だった(後ほどそれは誤りだったと覆される)。
1.1.逆転がほぼ不可能なゲーム設計?
サモン&マジックの大まかな勝利条件は「お互いにモンスターを場に出して攻撃しあい、相手のモンスターを全滅させてダイレクトアタックしたら勝ち」というものである。
一見するとよくあるTCGのルールだが、実際の対戦では以下の様なことが起こる。
例えば、プレイヤーAがATTACK値2400のモンスターを場に出したとする。ゲームの基本的な勝利条件は「相手のモンスターを全滅させてダイレクトアタック」なので、プレイヤーBが勝利するためには、ATTACK値2400のモンスターなんとかして場から取り除かなければならない。
ところが、このゲームには「相手モンスターを破壊する」といった魔法カードの存在が確認できない。また、複数のモンスターを出したとしても、ATTACK値を合計して攻撃することはできない(一回の攻撃で倒さなければならない)。よって、プレイヤーBが勝つためにはATTACK値2400以上のモンスターを場に出す必要がある。
しかし、ATTACK値2400というのはこのゲームでのほぼ最大値なので、デッキ次第では絶対に突破できない値となる。こうなると詰みだ。毎ターンどうにかして防御モンスターを出して耐えたとしても、敗北の先延ばしに過ぎない。
実際のところ、公式配信されている対戦動画はほぼ全て「先に高いATTACK値のモンスターを出したほうがそのまま押し切って勝つ」という流れになっている。
「とにかく先に高いATTACK値のモンスターを引けるデッキを作るか、そして高いATTACK値のモンスターを引ける運を持つか」というのが、このゲームのキモとなる。
ただし、この思考には大きな過ちがある。あるのだが、とある理由によってこの思考に陥ってしまう(詳細は後述)。
2.勝利条件2つが機能していない?
サモン&マジックの大まかな勝利条件は「お互いにモンスターを場に出して攻撃しあい、相手のモンスターを全滅させてダイレクトアタックしたら勝ち」というものであるが、これ以外にも2つの勝利条件がある。
1つは「手札が8枚以上になったら即敗北」というものである。だが、はっきり言ってこの条件はほぼ無意味になっている。
というのも、このゲームは引いたカードを手札に温存する意味があまりなく、かつ、基本的に増える手札取り使う手札のほうが多い。初期手札は4枚だが、これが8枚まで貯まることはまず無い。
このルールを見た時、「もしかしたら相手の手札を強制的に増やす効果を持つカードが有るのでは?」と思ったが、そういったカードの存在は確認できない。結果として、この条件が満たされることは実質ありえない。
ただし、この思考には大きな過ちがある。あるのだが、とある理由によってこの思考に陥ってしまう(詳細は後述)。
最後の条件は「デッキがなくなった状態でターンが終了したら敗北」というものである。
このゲームでは、デッキ枚数はライフであり、同時にカードを使うためのコストでもある。モンスターカード以外は基本的に使用時にデッキのカードを1~3枚程度を墓地に送る。また、強力なモンスター(例えばATTACK値2400のモンスターなど)は、場に出すだけで5枚もデッキを墓地に送る。
このゲームのデッキ枚数は37枚。最初の手札が4枚なので、残りは33枚。強力なカードを乱発すると思ったよりすぐに山札が無くなりそうに見えるが、実際の対戦を見ると思っていたより山札が減らない。だいたいの勝負は、山札が無くなる前に決着がつくのだ。
一応、耐久デッキだと、「モンスターが破壊されたときにデッキからモンスターを場に出す」といった持久戦ができるが、そういった持久戦をしている段階で相手に高いATTACK値のモンスターを出されてジリ貧になっていることが多く、結果的にデッキ切れの前に押し切られてしまう。
逆に、高コストのカードをどんどん使っていくデッキではどうかというと、スターターデッキの1つが高コストデッキなのだが、デッキが切れる前に押し切るか、先に相手に高いATTACK値のモンスターを引かれて負けるかの2パターンになることがほとんどだった。
結果として、この条件が満たされることは実質ありえない。
ただし、この思考には大きな過ちがある。あるのだが、とある理由によってこの思考に陥ってしまう(詳細は後述)。
3.思考を誤った理由
これまで、このゲームには色々と欠点があるように記述していたが、それら全ては自分の主観であり、このゲームの全てではない。しかし、プレイ動画や公式サイトを見た段階では、このように誤った判断をしてしまう。それはなぜか?
その答えは「カードリストが存在しない」からだ。
このゲームでは、公式サイトでカードリストを公開していない。これには『「そんなカードあったの??」という新しい発見と興奮が数多くあるゲームにしていきたい』という明確な狙いがあり、『カードを発見する楽しさや達成感のために、現在公式からはカードを一覧としての公開を行いません』という明記もある(2022年6月10日現在)。
実際のところ、スターターデッキの内容すら公開されていないので、初めてのプレイではプレイヤー同士お互いに新しい発見と興奮の連続であったことは、見学していた自分もとても良く感じた。そういった意味では、この施策はコンセプト通りの効果を発揮するという点において素晴らしい成果を出している。
しかし、同時にいくつかの大きなデメリットを持ってしまった。
4.このゲームのデメリット
4.1.初見のイメージ
1つは初見のイメージだ。
先に「相手モンスターを破壊する」といった魔法カードの存在が確認できないと記述したが、これはあくまで自分が見たカードに限ってのことである。
もしかしたら(あるいは当然のように)、高いATTACK値のモンスターを出されても挽回できるカードが有るのかもしれない。しかし、それを知るすべがなければ、「とにかく先に高いATTACK値のモンスターを引けるデッキを作るか、そして高いATTACK値のモンスターを引ける運を持つか」というのがゲームの肝であると錯覚してしまう。
「手札が8枚以上になったら即敗北」「デッキがなくなった状態でターンが終了したら敗北」という2つの条件についても同様だ。相手のデッキを削るカードがあるかもしれないし、強制的に手札を増やすカードがあるかもしれない。しかし、それを知るすべがなければ、それらのルールはほぼ無意味であると錯覚してしまう。
このイメージを払拭するためには、実際にそういったカードや戦略があることを紹介するのが手っ取り早いが、それ自体が『「そんなカードあったの??」という新しい発見と興奮』を減らすものであり、それはすなわちゲームコンセプトと合致しない。
公式が発する情報からではゲームの真の魅力が伝わらないどころか誤解されてしまうというのが、1つ目のデメリットだ。
4.2.Q&Aを充実させにくい
2つ目のデメリットは、Q&Aを充実させにくいということだ(1つ目のデメリットと比較してこちらのほうがよほど深刻だ)。
公式サイトにはQ&Aがあり、すでにいくつかの項目がある。これ以降も問い合わせなどにより更に充実していくことだろう。
ここでの問題は、個別のカードに対するQ&Aを表記できないということだ。
例えば、「○○が場にある時△△の効果は使えますか?」といった質問があったとする。しかし、公式でカードリストを用意していないので、たとえQ&Aで回答したとしても、そのカードを持っていない人にとっては意味の無いQ&Aになってしまう。
カードリストが公開されている場合、似たような効果などで推測することもできるが、それすらもできない。
もちろん、個別カードのQ&Aにのみカード効果を詳細に記述するということもできる。ただし、それ自体が『「そんなカードあったの??」という新しい発見と興奮』を減らすものであり、それはすなわちゲームコンセプトと合致しない。
コンセプト維持のためにQ&Aを犠牲にするか、Q&Aのためにコンセプトを犠牲にするかの二択に迫られてしまうのが2つ目のデメリットだ。
4.3.非常に面白い読み合いルールのほぼ無意味化
3つ目のデメリットは、非常に面白い読み合いルールの無意味化だ(2つ目のデメリットよりもある意味では深刻だ)。
このゲームはデッキ相性が大きいが、それをカバーするルールがある。
このゲームは、ゲーム開始時にデッキを2つまで持ち込むことができ、「お互いのアバターカードを見てから使用するデッキを選ぶ」というルールになっている。アバターカードとは、ざっくりいうと「特定のデッキを使う時に有利になる永続効果を持つカード」だ。つまり、相手のアバターカード見るということは、相手が使用するデッキの方向性を予測できるということである。
相手のアバターカードからデッキを読み、それに対策できるデッキを選択するか、あるいはその裏をかいてデッキを選択するかという読み合いがある。
また、「あえてアバターカードを選択しない」という選択もある。アバターカードはメリットもあるがデメリットもあるため、相手に合わせてアバターカードが噛み合わないデッキを選択するくらいなら、いっそのことアバターカードを使わないという選択も十分にある。このゲームはゲーム開始時、デッキを選択するどころか、アバターカードの使用有無を考える時点から始まっているのだ。
……と書くと非常に面白そうな要素であるが、実際は「カードリストが公開されていないので相手のデッキを読むことが困難」になってしまっている。
相手のアバターカードからデッキを読むためには、ある程度はカードリストを把握している必要がある。そうでなければ、アバターカードを見てもどんなデッキか予測困難だからだ。
ところが、このゲームはカードリストを公開していないので、結局アバターカードに一致するデッキを選ぶことになってしまう。
アバターカードからデッキを読み合うという非常に面白い試みのルールが、カードリスト未公開によりほぼ無意味化されてしまっているのは、3つ目のデメリットだ(個人的に非常にもったいないと思っている)。
4.4.致命的なデメリット
最後のデメリットは、これこそコンセプト的にはおそらく最も致命的なデメリットであるかもしれない。それは「中古カードショップが実質カードリスト化してしまうこと」だ(値段でソートすれば大まかに強いカードまで判明してしまう)。
TCG専門店では中古カードも扱う。そして、扱うカードは当然カード内容を確認することができる。オンラインショップとなれば、実質すべてのカードの内容を確認することができてしまう。実質的なカードリスト化だ。
公式が様々なデメリットを受け入れた上で『「そんなカードあったの??」という新しい発見と興奮が数多くあるゲームにしていきたい』というコンセプトのためにカードリストを非公開にしても、調べようと思えば調べることができてしまうのが現状だ。
オンライン中古カードショップが存在している段階で、「カードリストの非公開」というのが実質不可能になってしまっている。これは、コンセプトを揺るがす最も致命的なデメリットである。競技大会参加者であれば当然チェックしてくるだろう。公式でカードリストを公開していない以上、非公式でもカードの情報を知っている方が相手のデッキを予測でき、そして勝利にも近づくのだから。
5.最後に
対戦動画視聴や対戦見学を行った時は様々な思考が渦巻いたが、それらはすべて「あえて公式からカードリストを公開しない」というコンセプトに繋がっていた。
実際のところ、そのコンセプトは所見対戦では生きており、特にカジュアル環境では大いに効果を発揮されることだろう。
しかし、大会などではどうだろうかという疑問は残る。情報を握っている方が有利ならば、当然情報を求める者が現れる。
情報発信者が多い現在で、あえて公式からの情報非公開がどれだけ有効になっていくか、そしてそれがケームの魅力発信へと繋がっていくかというのは未知数であるが、同時に、非常に興味深いものである。
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