見出し画像

黒い魔術は死を喰らう

行灯がぼんやりと、だが、決して暗すぎない光で、地下街を照らす。ここは東京のはるか地下深く。有象無象の魔術の品が集う、魔術師たちの取引所だ。

赤いローブを羽織った一人の女魔術師が、1軒の屋台の前で足を止める。屋台には、黒く干からびた指の長さくらいの棒きれが、ずらりと並んでいる。
「30年モノが1本欲しい」
女魔術師アカネコは、手慣れた様子で品を求める。

「30年モノなら、ここらへんがどうかね」
老齢の店主は、1本の棒きれを手に取る。
「32年のメシラズモノ。最近入ったばかりの品だ」

「いくらだ?」
「親子揃いで30ってところだ」
「高いな。1本でいい。サシだけで5だ」
店主の示した値段に対し、アカネコは間髪入れずに交渉に出る。

「ホッホッホ。悪いがウチは親子揃いの5本売でね。バラなら他のところ行ってくれ」
店主は表情一つ変えずに答える。しかし、今日サシを売っているのはこの店だけだ。他のところに行くという選択肢が存在しないことは、アカネコもわかっている。

「わかった。親子揃いで25でどうだ」
「28だ。それ以上はまけられん。こっちも商売だ」
「……しかたない。買おう」
アカネコは渋々、懐から札束を出す。

「まいど
」老齢の店主は札束を数えて懐にしまい、5本の棒きれを差し出す。アカネコはそれを受け取ると、急ぎ足でその場を離れた。

「くそ、ボッタクリのじじいめ……」
アカネコは悪態をつく。誰も聞いていないはずだ。だが……。
「そういうことは、ここを出てから口にしたほうがいい。あの店主も魔術師だ。どこで声を聞いているかわからないぞ」

鳥の羽飾りを付けた青い帽子を被った男、アオカラスがアカネコに近づいてくる。
「では、今回の仕事について、おさらいしよう」

アオカラスは、1冊の本を開く。その本は奇妙な皮のハードカバーで、大きなファイルのようにも見える。開くと、何かの声のような音とともに、ひとりでにページがめくられる。

【続く】

サポートされると雀botが健康に近づき、創作のための時間が増えて記事が増えたり、ゲーム実況をする時間が増えたりします。