ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ第3話(ジャンププラス原作大賞応募作)

※線は場面の切り替わり

割下(わりした)たちは、課外授業で動物園にやってきてた。
「はーい!それじゃあお昼まで自由行動です。事前に決めた二人組で、しっかり動物観察をしましょう。12時になったら、この芝生広場に戻ってくること。いいですね?」
「はーい!」
先生の声にクラスのみんなが元気に答えると、それぞれ二人組になって散らばっていく。

(今日も割り箸持ってきてるプリ?)
割下(わりした)の心の中に直接話しかけてくるのはプリケッツ(※いつもは姿を隠すために透明になっている)。
(大丈夫だよ。ちゃんと持ってる)
(それならオイラも安心だプリ)
(この前みたいに、割り箸を探すのはもう嫌だからね)

「割下くん、私達も早く行こう」
声をかけてきたのは、運動神経抜群の女の子で、いつも元気いっぱいな折部(おりべ)。
「うん。折部さんは何から見たい?」
「私はねー、羊!」
「それじゃあ行こうか」

――――――――――

割下は折部に引っ張られるように、ふれあい広場へ到着。
「めぇ~」
柵の中で羊たちがのんびりしている。

「わー、羊だ!ねーねー!早く入ろうよ!」
折部の目がキラキラと輝く。
「飼育員さん、僕たちも入っていいですか?」

「ああ、もちろん!羊さんたちを驚かせないように、ゆっくり近づいてね」
飼育員さんが柵を開けて、割下と折部を中に入れてくれた。

「折部さん、そーっと、そーっと……だよ?」
「ふふ、わかってるよ……そーっと、そーっと」
折部は羊にゆっくりと近づき、羊の毛に触った。

「うわ……うわあああ、ふわふわ……ふっかふっか……」
折部は羊の毛に手を突っ込んだり、揉んでみたりする。

割下は、そんな折部を眺める。
「割下くんも触ってみなよ。すっごいよ!ふかふかなの!」
「あ、うん……」

割下も恐る恐る羊に触れる。
「うわ、すごい」
「ね?でしょ?」
「うん、すっごい……」
最初はちょっと怖がっていた割下も、折部と一緒に羊を撫でる。

その時!
「めぇ~ッ!!」
急降下してきた鳥に驚き、1匹の羊が暴れだした!

「めぇ~ッ!!」
羊はそのまま、割下と折部に向かって一直線に走る!
「うわわわわ!」
うろたえる割下!
「……っ!こっち!」
折部が割下の手を引いて走り出す!

割下は折部に引っ張られるように走る。その先には山積みの干し草ブロック!
「これに登って逃げよう!」
折部は割下の手を離して加速!そのまま干し草ブロックの手前で大ジャンプし、軽々とてっぺんに登った!

「割下くんも早く!」
「で、でも僕、そんな高く飛べないし……」
戸惑う割下!
「めぇ~ッ!!」
後ろからは暴れ羊!
「いいから飛んで!手を伸ばして!」
「エ、エーイッ!!」

割下は思い切ってジャンプして手を伸ばす!その手を折部が掴み、引っ張り上げる!
「よいしょっ!!」
引っ張り上げられた割下は、そのままの勢いで折部に抱きかかえられた。
「めぇ~ッ!?」
一歩遅れて羊が干し草ブロックに突撃!そのまま目を回してふらふらと倒れた。

「「ハァ……ハァ……ハァ……」」
折部と割下の息は荒い。お互いの心臓の音が、ドキドキと聞こえてくる。
「……あ!ご、ごめん!」
慌てて起き上がるのは割下。

「ふふ。それを言うなら、ありがとう、でしょ?」
(ああ、やっぱり折部さんはかっこいいし、それに可愛い……)
「ん?どうしたの?大丈夫?」
ちょっとぼんやりしていた割下が、ハッと我に返る。
「だ、大丈夫だよ!!ありがとう!!」

――――――――――

お昼ごはんの時間。みんな集まって芝生広場でお弁当を食べている。割下と佐々木は、二人で木陰にいた。
「で、割下。折部さんとはどうだったんだよ?ん?」
「どうって言われても……」

「おいおい、せっかくのチャンスだったのに、何もなかったのかよ!手ぇ繋いだりとかさ?」
「うーん、それは、その……」
割下は折部に抱きかかえられたことを思い出し、ちょっと顔が赤くなった。

「お、なんかあったんだな」
佐々木はニッコリと笑う。
「いつまでも遠くから見てるばっかりじゃダメだぜ。もっと自分からガッといかないと」
「佐々木くんみたいに、困ってる相手を助けてあげたり?」
割下は、ピザモンスターと戦っている時に佐々木に助けられたことを思い出す。

「あーそうさ。俺みたいに……って、ん?俺、そんなこと話したっけ?」
「ほ、ほら!この前セイントヒップを助けた話してくれたじゃない!」
「あー、そういやそうだったな」

「おーい!佐々木!割下!フリスビーやろうぜ!」
遠くからクラスメイトの声聞こえてくる。

「おーう!」
「あ、僕はトイレ行ってくるから、先に遊んでて」
「わかった!」
佐々木はクラスメイトのところに走り、割下は少し離れたトイレへ向かった。

――――――――――

佐々木がクラスメイトと遊び始めてからすぐのことだった。
「ん?なんだあれ?」
佐々木が空を見上げると、巨大な円盤が浮かんでいた。

「UFOだ!」
「え!?UFO」
「UFOだって?」
佐々木の声にみんなが空を見上げる!

「いや、あれは……パンケーキだ!」
「パパパパパパパパ……」
ジグザクに飛行するパンケーキモンスター!下部ハッチから大きなパンケーキがたくさん飛び出し、佐々木たちに襲いかかる!
「「「「「パパーン!!」」」」」
「うわーッ!」

――――――――――

一方その頃!
(プリプリ!佐々木くんたちの方から悪霊の気配を感じるプリ!)
プリケッツが悪霊の気配を感知!

「大変だ!」
割下は再びトイレに戻り、個室をロックして割り箸を割る!個室から一瞬光が漏れ出し、飛び出してきたのはセイントヒップだ!
「よし、行くぞ!」
大きく地面を蹴って大ジャンプ!

――――――――――

「みんな!大丈夫!?……ってあれ?」
駆けつけたセイントヒップを待ち構えていたのはいつもの大混乱ではなく、ふかふかのパンケーキで眠っているみんなの姿だった。

「えーっと……」
あたりをキョロキョロするセイントヒップ。パンケーキモンスターは真上にいるが、巨大すぎて気がつけない!

「パパーン!」
セイントヒップの死角からパンケーキが襲来!

「危ない!」
「キャッ!」
突然突き飛ばされるセイントヒップ!
「佐々木くん!?」
セイントヒップの身代わりとなった佐々木は、パンケーキに埋もれる!

「セイントヒップ……。う、上だ……スヤァ……」
佐々木はフカフカパンケーキに埋もれて、眠ってしまう。
「佐々木くん!佐々木くん!」
「スヤァ……」

「セイントヒップ!上を見るプリ!」
セイントヒップが上を見ると、巨大なパンケーキモンスターが!
「お、おおきい……」

「割り箸は真下にあるプリ!」
あまりの大きさに怯みそうになるセイントヒップだが、割り箸が見えた!
「うん!折ろう!そうすれば、みんなも目覚めるはず!」

「パパパパ!」
パンケーキモンスターがジグザグに飛びながら、パンケーキを連続で打ち出す!
「えい!えい!たあ!」
セイントヒップは連続バク転で華麗に回避!そのまま大ジャンプで割り箸を掴みに行く!

「くっ!届か……ない!」
だが、僅かに届かない!

「んんんんん……えーい!」
セイントヒップは力を溜めて大ジャンプ!
「パ!パパパ!」
パンケーキモンスターはジグザグ移動で回避!

「パパーン!」
更に飛来するパンケーキ!
「こうなったら一か八かだ!えーい!」
飛んでくるパンケーキを足場に、多段ジャンプを試みる!だが!

「あ、あれ?」
パンケーキを踏んだ足が動かない。
「え?あ……?」
セイントヒップはそのままパンケーキに倒れ込む!
「あ~……ふっかふかだぁ~♪」

「しっかりするプリ!寝ちゃダメだプリ!」
「うーん、でも、ふわふわでふっかふかで、もう……」
セイントヒップはパンケーキクッションに埋もれる。その目はぼんやりとして、顔はとろけて眠る寸前だ。
「もう、だ、だめぇ……。スヤァ……」

「セイントヒップ!しっかりするプリ!!」
「むにゃ~。ふっかふかぁ……」
完全に眠るセイントヒップ。

「うわーん!セイントヒップが負けちゃったプリーッ!」
泣き叫ぶプリケッツ。その声を聞き、立ち上がる男が!
「セイントヒップが……負けただって……?」

心地よい眠りを跳ね除けて目覚める佐々木!
「寝てる……場合じゃ……ねえ!」
セイントヒップの元に駆けつける!
「セイントヒップ!起きてくれ!」
「スヤァ……」

佐々木が呼びかけても、セイントヒップは目覚めない。
「くそ!俺には何もできないのか!?」

(……キミは、セイントヒップを助けたいプリ?)
「その声は……!」
(オイラはプリケッツ。セイントヒップの仲間だプリ。キミが望むなら、キミにも力を授けられるプリ)
「ほ、本当か!?」

(でも、一度オイラの力を授かったら、これからも協力してもらうプリ。いつもの生活には戻れないかもプリ。それでもいいプリ?)
「構うもんか!今動けるのは俺だけなんだろ?だったら、やるしかねえじゃねえか!」
(わかったプリ。それじゃあ、その割り箸を割るプリ!)
佐々木の手にはいつの間には割り箸が!

「ああ!やってやる!」
佐々木は迷わず、割り箸を割った!

パキン。

『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』
謎のBGMが鳴り響く!
「これは!?」

佐々木の体が宙に浮き、光に包まれる。これは……変身バンクだ!

全身が光のシルエットになり、スニーカーががはじけ飛ぶ!そして代わりに装着されるのはカウボーイブーツ!
次はズボンとTシャツがはじけ飛び、ショートパンツ、胸下で縛られたへそ出しTシャツ、そして茶色いカウガールジャケットが装着される!

腰には二丁のガンベルト。手にはレザーのグローブ。首元にはスカーフ。頭にはテンガロンハット。

そして最後に、蛍光イエローのバイザーサングラスが装着される!
『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』
BGM終了!
変身完了!サイバーカウガール魔法少女服に身を包んだ、セイントリングの誕生だ!
「お!え!?ええ~~~!?」

「今日からキミは、魔法少女セイントリングだプリ!」

サポートされると雀botが健康に近づき、創作のための時間が増えて記事が増えたり、ゲーム実況をする時間が増えたりします。