読書日記 吉野源三郎『君たちはどう生きるか』

この本は、1935年から1937年にかけて刊行された『日本少国民文庫』のうち、最後に出版された1冊である。

中学二年生・15歳の少年である主人公が、日々考えたこと、学校で起こった事件や悩みについて、哲学者である叔父に相談し、その叔父が、交換日記のような形で自分の考えを主人公に伝える、という形式で、物語が進んでいく。

主人公は、叔父の考えを受け止めて、行動に移して実践し、そして受け止めた考えをさらに発展させて、自分なりの思想を形成していく。

教育というのは、教科書に載っているような計算のやり方とか漢字の書き順とかを教えるだけのことではないな、とつくづく思う。大人が、それまでの人生での経験から実感として得た知恵や思想、生きるための指針を、幼い人に伝えていくことこそが、教育なんだと思う。それも、小難しいことを頭ごなしに押しつけるのではなく、幼い人それぞれの状況やタイミングを見計らって、そのときに必要なことを伝えなければ、相手には伝わらない。これは当然、とても難しいことだ。そのタイミングを計ることだけでも、深い知恵を必要とするだろう。

著者のあとがきによると、この本が出版された時期には、すでに日本は戦況に突入し、言論や出版の自由は制限され、様々な思想が弾圧されていた。そんななか、こんな時代だからこそ子供たちに伝えなければならないことがある、と立ち上がった山本有三をはじめとする有志により、『日本少国民文庫』が刊行された。

一歩間違えれば発禁を受け、検挙されるような危険な状況であったと推察される。著者らは、多大な勇気をもって、幼い人たちに自分らの思想を託したのだろう。大人たちが不安気に暗い時代へと進んでいっている時代に、これからサバイブしていくために、一足飛びに大人の知恵を身につけなければならないことを、子供たちも感じていただろう。そんな時代だからこそ、著者らの想いは幼い人たちに大きな影響を与えただろう。

現代も決して明るい時代ではない。希望が見えない、とボヤく大人たちを見て、幼い人たちも生きる指針を模索しているのだと思う。そんな、これからを生きていく人たちに、自分はどんな知恵を与えられるのか。与えるほどのなにかを持っているのだろうか。これは私たちに対する問いでもある。

君たちは、どう生きるか。

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