読書日記 長田悠幸『キッドアイラック!』全三巻
ひとことで言えば、大喜利をモチーフにした漫画。
ケンカが強いだけが取り柄の男子高校生が、とある事件のせいで傷ついて心を閉ざしてしまった幼馴染の女の子を『笑い』で救うために、大喜利に挑戦する、というようなお話である。
泣いている人を笑わせよう、とすることは、小さな子供でもやることで、人間にとって結構プリミティブな行動なのかもしれない。
このお話が清々しく感じられる理由は、主人公が大喜利のトレーニングをして、徐々に上達し、たくさんの人にウケる体験をして、なんというか味をしめるわけだが、彼が努力する動機が、やはりその幼馴染を救いたいということからブレていないところだ。笑いを取るために頑張る、ではこうはならない。手段が目的になってしまってはダメなのだ。
そしてその目的を達成しようとする過程で、主人公は笑いのエネルギーに気づいていく。
たくさんの人が笑っているときの、空気に発散されるあれは、なんだろうか。祭り、というのは、トランス状態を多くの人が共有することで、共同体の一体感を高め、結束を強くする目的で行なわれてきたそうだ。現代では、祭りは「共同体の一体感を高める」というよりも、たくさんの人とつながっている感覚を体験することで、「孤立している」という個々人の根源的な不安を一時でも解消し、また心安らかに日々を過ごすことができるためのものであろうが(多くの人がこぞってフェスとかに行く理由もそれだろう)、たくさんの人が笑っている場所にも、同じ作用があるように思う。
そんな場を、技術でつくり出すことができる。つくり出そうとする人がいる。大袈裟ではなく、その人たちはちょっとずつ人類を救っていると思う。
あと、作者の大喜利愛が、すごい。
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