読書日記 フランクル『夜と霧』
この本は、私にとってはライフハックである。
生きていくために必要な技術が書かれている本。
この本に最初に出会ったのは、学生のころ、いま出版されている新版はまだ出ていなかったので、旧版を読んだのだと思う。自分が生きていていい理由が理解できず、右にも左にも進めなくなっていた私には、「あなたは自分の生きる意味を問う立場にはいない、あなたが生きる意味を、人生から問われているのだ」というフランクルの言葉は、とても斬新だった。大きなパラダイムシフトを経験した。
それ以来、人生に絶望し、もう一歩も前に進めなくなるたびに、この本を読み返し、視点を変えて希望を見出して、どうにかいままで生きながらえることができた。どうしてそんなに絶望ばかりしているのか、というのは、まぁ別の話だが。
自分にとっては大事なこの本であるが、他人に勧めたことは一度しかない。10年ほど前、本が好きな友人に、たぶん自己啓発本の類でなにかいい本はないかと言われて、この本を教えた。後日、読んだというので感想を訊いてみると、「民族紛争とかは自分は興味ないから」との答え。あれ?と思った。どうして伝わらなかったのかな…と。そのことは、ずっと少し心にひっかかっていた。
先日、近しい人がこの本を読んで、別の人とその話をしたというので、どんな話をしたのか尋ねると、ユダヤ人強制収容所についての情報としては既に知っていることが多かった、とか、そういう話をしたとのこと。
なるほど、わかった!私は膝を打った。世の中には、この本に書かれているようなことが必要ない人もいるんだ。自分にとってはすごく必要なものだったので、その単純なことに思い至らなかった。
私はこの本をホロコーストに関する本だと思ったことはなかったが、それ以外の内容が必要ない人たちにとっては、ホロコーストやユダヤ人強制収容所についての体験談という側面が主題になるんだな。当たり前の話。
なので、もし、レビューなどを読んでからこの本を読んだけど、みんなが言うほど感動したり影響を受けたりしなかった、という人がいたら、いまのあなたにはこの本に書かれているライフハックは必要がないということだ。そして、それが必要になるということは人生に絶望するということなので、必要ない人には今後も必要にならないことを願う。
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