読書日記 内澤旬子『ストーカーとの七〇〇日戦争』

 タイトル通り、ストーカー被害にあった著者が、加害者に対してどのような行動を起こしてきたかについての約2年間にわたる体験記である。

 実を言うと、著者の他の著作を、ご本人のキャラクターや文体への違和感からどうしても最後まで読めなかった経験があり、その点を危惧しながら読み始めたのであるが、本書には以前感じた違和感を超越する部分があって、一気に読み進めることができた。
 本作で軽く触れられている生育歴から考えるに、著者に対する私の違和感は、同類嫌悪であるかもしれず、それほど誰もが気になることではないのかもしれない。

 本書全体に通底する「ストーカー被害者が、身をひそめながら暮らしたり、職業その他に関して制約を受けたりという二次被害に遭うことは、絶対にあってはならない」というコンセプトには、全面的に賛成する。
 また、警察に事件として届けてから、訴追そして判決に至るまでの手続きが詳細に記載されているので、ストーカーに限らず自分が何らかの事件の被害者または加害者になった場合には、大変参考になるであろう。特に、検事や弁護士が人それぞれであって対応も考え方もさまざまであること、各種手続きに付随するオプションの存在などは、よく覚えておこうと思う。
 さらに、後半に著者が再三強調する通り、ストーカー加害者に対する治療が可能であることは、もっと周知されるべきであろう。ストーカー事件以外にも、依存症に起因する犯罪に対しては、刑を科すことに加えて適切な治療を行なうことが妥当である点にも強く同意する。これも著者が本書の終盤で再三強調していることであるが、被告人が治療を受け入れることが、減刑の理由になるかの如くとらえられることは理不尽であると、私も考える。なぜなら、この場合の治療は、当該事件の被害者または将来の被害者に対する再度の犯罪行為を抑止するために当然に行なわれるべきものであって、被告人の反省を証明することにはならないからである。

 上記の如く賛同する点は多いのであるが、とは言え、加害者に対する対応が明らかに悪手の連続であることなどは、あとがきで著者も『黒歴史』と表しているが、共感性羞恥を感じてしまうと読み進めることに強い抵抗感を生むことは否めない。特に、手書きのハガキを送りつける場面などは、耳を塞いでわーーーっと叫びたくなる衝動に駆られた。また、著者の文章の特徴であろうが、ヒステリックな表現が散見されることにも、若干食傷気味になってしまった。

 しかしながら、再度ストーカーのターゲットになる危険を冒しながらも、このような社会的意義の大きい体験記を発表してくださったことに関して、著者に感謝したい。ありがとうございました。安全に過ごされることを願っております。

 本書のなかで、著者が加害者に自力で内容証明を送ろうとする場面がある。一般的には弁護士などに依頼する手続きである。著者は近年設けられた『e内容証明』という郵便局のシステムを用いているので、もしかしたら最近は自分で作成しようとする人も多いのかもしれない。個人的な体験であるが、以前に家族が詐欺被害に遭ったために私も自力で相手方に内容証明を送ったことがある。作文以外に、細かく定められた書式を再現するのが素人には相当に根気のいる作業だったことを思い出した。その当時は『e内容証明』はなかったが、このシステムを使っても最終的にはその苦労が必要であるらしい。あれが面倒なのに、何のためのシステムなのだろうか。また、同じときに、地方自治体による無料法律相談も利用したが、相手の弁護士が最初からこちらを見下すような言動をとり続け、結局参考になることは何も教えてもらえず屈辱だけを味あわされて、帰りのバスでハンカチを握りしめて泣いたことも思い出した。斯様に、何かの事件に巻き込まれるというのは一般人にはかなりの精神的負担を強いるものであることを、本書の内容に加えて私の体験として書き添えておきたい。

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