ラヴィット!

 朝5時前に家を出てまだ暗い道を駅まで歩きました。外はだいたい暗くなるけれど今日はこれから明るくなるんだという嬉しさが眠さを上回りました。太陽と時間と足がそれぞれ前に動いて、踏んでいる暗い道のアスファルトが塗りたてのように新しく感じられました。建物が眠ったように静かな駅前通りに進むとなおさら、今日が特別な一日になることは強い確信に変わっていきました。
 改札を抜けて乗った電車には思ったより多くの乗客がいらっしゃいました。これから仕事に向かう装いの方々が程よく着席した車両は、僕の一日が決して特別ではなく、日常の軒先に差す光のようにありふれた褒美であることを教えてくれました。悲しくはありませんでした。それはむしろ背中を押されるべき励ましだと理解しました。
 6時前のTBSに到着すると身なりのきちんとしたスタッフの方が「ラヴィットはこちらです!」と案内してくださいました。未来の宮殿のようなエレベーターに乗って大きな楽屋に移動しました。楽屋には等間隔に長机が並んでいて、その上に台本やお弁当、飲み物、おしぼり、ティッシュなどが置かれています。驚くべきはそれらの配置が徹底的に管理されていたことでした。明るいモデルルームのような整然さにスタッフの方々の本気を感じずにはいられませんでした。
 魔法のような目まぐるしさでリハーサルを終え、生放送が始まりました。テレビ局にしかない施設をいくつか抜けてスタジオ横に待機します。今まさに全国に流れている現場の声が大道具の壁越しに聞こえてきました。
 僕がやっていることはこのスタイルのネタをやり始めた1年半前から、それより芸人を志した7年前から、もっと言えば物心ついた26年前から、わがままを他人に見せつけるという点では何も進展がありません。目の前にある鏡のような原木に虚像を幻視して得意気に彫刻し続けています。そこに突然テレビに映る機会をいただきました。不思議でした。それはこの数日間に湧き立った誰かの勇気だと思いました。僕を見つける勇気、僕を起用しようとする勇気、その提案を承諾する勇気。僕以外の勇気が結集した結果として僕はカメラの前に立ちました。大人の背丈ほどのテレビカメラが太い首を回してこちらを向きました。カメラのレンズに僕が映りました。僕は僕の目を見つめながら、おまえを死ぬほど笑わせたいと思いました。ありがとうと言わせてください

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