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本田翼と結婚したい

帰省を終えて自宅に帰ると、シルバーウィークがいた。
「遅かったのね」
彼女の言葉には特に責める調子はなかった。料理はあらかた出来上がっており、炊き上がった白米と汁物の香りが鼻にとても心地良い。来ていると思わなかったと素直に白状し、帰省の土産を手渡すと、シルバーウィークは驚いたようだった。

「明日から仕事かあ」
独り言なのか、話しかけているのか、どちらともとれる物言いを、彼女はよくする。仕事なんだから仕方ない、という相槌を言い終わらないうちに、シルバーウィークは連休中のことを尋ねてきた。実家に戻ったこと、旧友と再会したこと、遊びや、食事や、贈り物のこと。思い返しながらのたどたどしい話にも、彼女はその都度大きな反応をかえす。時には食事の手を止め、目をきらきらとさせながら話の続きをねだる。

夕食を終え、ボンヤリとしていた。台所からは、かちゃかちゃと洗い物の音がしている。今度会うときは、旅行しよっか。先刻彼女はそう言ったが、仕事が始まれば、次に会えるのはいつなのか、全く見当もつかないのだ。彼女も、それはわかっているはずだった。旅行の話は、曖昧な返事をして流してしまっていた。台所のほうをちらりと見やったその時、彼女の、洗い物をする後姿に、ふと目を奪われた。もっと見ていたい、と思った。彼女と、シルバーウィークと暮らすということが、やけにはっきりとした実感を伴って部屋を覆った。なあ、と、彼女に声をかける。何も特別なことはない。本当に自然な、穏やかな心持ちになっていた。
「なあに」
伝えることはたったひとつだった。

九月二四日の朝は、代わり映えのしない平日だった。同じ服を着た人々が、これまでと同じ電車に乗り、これまで通り会社へと向かっていた。しかしただ一つだけ、アパートの一室で、ひとりの男が横になって、出勤時間になっても眠り続けていた。手には退職届が握られ、口元には優しい笑みが浮かんでいた。この遺体が発見されたのは、二日後のことであった。



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