罪滅ぼし001

鈴木ザ転職戦記Wツインmk-2セカンドpart2続編母さん海が見えるよ

 半年前、鈴木ザ転職戦記はじまりのプロローグepisode1前編約束の大地という本当に狂ったとしか思えないタイトルで記事を投稿した。そのときは40日以上続く連続勤務の真っ最中で、すべての終電が車庫で寝ているような時間帯になって、ようやく上司から会社に泊まるか歩いて帰るかを選択する権利を与えられるような日々だった。連勤が20日を超えたタイミングで一度体調を崩し、定時後に上司に頭を下げて最寄りの病院に向かった。1時間に1回、血便が出るんです。どんなに我慢しても、出るんです。ぼくは25歳にして、情けなく、弱々しく、尻の状態の仔細を医師に伝えた。簡単な問診の後、医師はぼくに、ストレス性の急性胃腸炎であろうと教えてくれた。へぇ〜ストレスなんですか、と、ぼくはまるで自分が日曜日に休むことができる人間であるかのように振舞ってみせた。医師はぼくの芝居には全く興味がないようで、ストレスで腸がズタズタになっているかもしれないので、薬は服用するのではなく点滴で入れよう、という案を提示してくれた。また、だいぶ衰弱しているようだから、点滴に栄養剤も混ぜようとも言った。へぇ〜衰弱しているんですか、と、ぼくはまるで自分が毎日ちゃんと終電に乗れているかのように振舞ってみせた。医師はもう何も言わなかった。しばらく待って、ぼくは処置室に通された。もう夜の7時を過ぎていた。ぼくは点滴台の上に横になって、会社に戻りの時間が遅くなる旨を連絡した。電話に出た上司の機嫌をとるように、誰もいない処置室で、腕に点滴を刺したまま、ぼくは薄笑いを浮かべながら空にむかってへこへこ頭を下げた。驚くほど滑稽だった。絶対に、辞めてやる。それは思春期の中学生の劣情が爆発したような、驚くほど純度の高い殺意だった。

 そこから一気にあの記事を書いた。
 そして、それから半年が経ったのだった。

 状況は驚くほど悪くなっていた。仕事については言わずもがな暴力的であったが、それにプラスしてなぜか4月分の給与はゼロ円で、なぜだか5月分の給与も大きく天引きされて入ってくる。退職を決めれば、収入のないまま社宅を追い出され、即日で住所不定無職と化す。驚くほど簡単に、そうなってしまう。絶望だった。書き上げた退職届が、もう3日も鞄の中で眠っている。鳴り響いた筈の警鐘が、何故かどろりと溶けていく。しかし、このままではいけないということだけは、はっきりとわかっている。

 4月4日、本日であるが、本日を勝負の日と定める。終止符を打つのだ。半年ごしのパンチをあびせてやるのだ(本日は土曜日であるが、もちろん弊社は土曜日も仕事があるので、ぼくは当然この日にパンチを打つことができる)。この半年間でぼくもかなり成長した。上司の目の前で転職サイトから来たメールを吟味することができるまでに大きくなった。いいぞ、そうだ。やってやれ。あの血便を忘れるな。その血にまみれた退職届を、グーでぶちこんでいけ。

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