新刊

「トキワ荘の青春」という映画をテレビで観て、懐かしいような切ないような気持ちになった。
映画を観ながら、子どもの頃に自分が憧れた暮らしはあのようなものだったのではないかと思った。体験していないのに、自分がその中にいるように感じた。
小学校低学年の頃に、同じようなアパートに住むともだちの家に遊びに行っていたころの記憶とも重なった。

寺田さんという方のマンガが可愛く、ああいうのが描けたらいいなあと思った。
ビジネス上、売れるものではなければならない一方で、自分が描きたいものを描きたいという気持ち、それに加えて児童向けの作品という性格から、社会的な責任も負う。
映画終盤で、子どもの野球を見てる寺田さん。ボールを拾いに来た子どものユニフォームの背番号が「ゼロ」。じーんと来た。
そう、あの気持ちを味わいたい。たくさん売れるのはそれは嬉しいこと。でもそれより、数少ない人にでもいいから「好き」になってもらいたい。自分の絵をまねして描くような子どもを見てみたい。自分が描いた絵に夢中で見入る子どもを見てみたい。
以前、自分が書いた本にたくさんのマーカーを入れてたくさんの付箋をつけた様子の写真をもらったことがある。そういうときのような思いをしたい。売れたらそれに越したことはないのだけど、何冊出版したとか、何万部売れたとか、そんな自慢でなく、数少なくていいから、面白いと思った人の反応を味わいたい。

こんどの新刊は忍者が出てくる本。学習本なのにマンガっぽい。いや、私の意識は50%はマンガだ。子どもの頃に描きたいと思っていたマンガ。
作りながら、ずっと「花のピュンピュン丸」が頭の中にあった。アニメを観ていたのは小さいときだったから、どんなマンガかだったかはほとんど記憶に残っていない。でもテーマソングは今でも歌える。再放送を何度も観て、そのナンセンスさに大笑いしていたのは覚えている。思えばトキワ荘に出入りしていた、つのだじろうさんの作品だ。

こんどの新刊を見て、その先何年も記憶にとどめてくれる人が、一人でもいれば、私は嬉しい。

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