JOPT20GF チップダンピング事件のまとめと私見

現在、界隈を賑わせているJOPT20GF MainEvent(以下、大会のことを「20GFME」といい、JOPT運営のことを「JOPT」といいます。)チップダンピング事件につき、記録のため、私の観測範囲内で双方の主張をまとめた上で私見を述べました。
なお、私は、20GFMEには参加しておらず、参加した人から話を聞いたわけでもない上、ユチョン氏とは面識もなく、完全にネット上で収集できる情報のみを参照している点につき、ご留意ください。

まずは前提事実の「スプリンター賞」について。
20GFMEでは、「チップリーダー賞」及び「スプリンター賞」が導入されました。
本件で問題となったのはスプリンター賞であり、次のような賞でした。
https://twitter.com/japanopenpoker/status/1417425341300150277?s=20

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つまり、20GFME参加者の中で、いち早く30万点又は100万点に達した人にボーナスが出る、という内容です。1位がGG$1,000ということですから、大体20GFMEの24-27位入賞賞金と同額です。
20GFMEのエントリー数は507人、インマネは35位から(インマネ率6.9%)ですから、プレイヤーにとって「スプリンター賞」は相当大きいものだったと言ってよいでしょう。
https://twitter.com/japanopenpoker/status/1418887046781878277?s=20

ちなみに、JOPTのアナウンスによれば、30万点の入賞者は、せんべい氏、hacchi氏、とむ氏、100万点の入賞者はひろき氏、HOTOKE氏、はっとり氏であるとのことです。
https://twitter.com/japanopenpoker/status/1418192149116448772?s=20
https://twitter.com/japanopenpoker/status/1418740959085424644?s=20

そこで、100万点入賞に関するJOPTの告知ツイートを調査したところ、以下のツイートがありました。
https://twitter.com/japanopenpoker/status/1418488053702688770?s=20

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https://twitter.com/japanopenpoker/status/1418504121628332037?s=20

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これらのツイートによれば、7月23日午後5時28分には、ひろき氏のスプリンター賞入賞が告知されており、また、同日午後6時31分には、よーすけ氏、ユチョン氏が100万点を超えていることが告知されていますから、この間に、問題の事件が起きたのだろうと思われます。
(これらのツイートから、100万点の達成順は、ひろき氏→ユチョン氏→HOTOKE氏→はっとり氏、の順だったのではないかと想像しています。)

さて、本題に戻ります。

ゆっちー/ユチョン氏(以下「ユチョン氏」といいます。)がツイートした報告事項と、JOPT公式の説明は、事実関係についてほぼ一致していることから、概ね、以下のような事件があったと思われます。

https://twitter.com/yuchon0118/status/1422487723428831232?s=20

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https://japanopenpoker.com/archives/87255

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①プレイヤーが、フロアパーソンに「意図的にチップを渡して賞を獲得し、
 その賞をディールできるか?」という旨の質問をした(但し、質問者が
 ユチョン氏自身であったか否かは不明。)
(補足)当該プレイヤーの質問内容については、ユチョン氏とJOPTの説明は
    ほぼ一致していると思われます。
②フロアパーソンが、質問に回答した(但し、回答の内容については後述の
 とおり争いがある。)。
③ユチョン氏が友人Aに16万点を貸してほしいと依頼し、友人Aが応じた。
④ユチョン氏と友人Aが共謀し、ポットのやり取りを行って、友人Aから
 ユチョン氏に16万点が移転した
⑤ユチョン氏が100万点を達成した
⑥他のプレイヤーから、異論が述べられた
⑦JOPTイベントディレクターの宮田達宗氏は、トーナメントディレクター
 として以下の裁定を行った。
  ・ユチョン氏のスプリンター賞の授与権利を剥奪した
  ・ユチョン氏を別テーブルに移動させた
  ・ユチョン氏が受領した16万点は有効なものとみなし、返還も没収も行
   行わなかった
  ・ユチョン氏及び友人Aについて、失格とはせずプレイを継続させた。


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ここからは、私の私見になります。
この一連の経緯につき、何が問題であったかを分析すると、
(1)フロアパーソンの質問に対する回答が適切であったか?
(2)フロアパーソンから不適切な回答があったとして、ユチョン氏が、ソフトプレイによってスプリンター賞を達成してもよいと誤解してもやむを得なかったかと言えるか?
(3)TDの裁定は適切であったか?
という3点ではないかと思います。

このうち、(3)については、JOPT自身が「今回の裁定は公正性に損なうものであり、誤りであると結論づけました。」と述べています。
TDA 69項(倫理的なプレイ)は、「ポーカーは、個人のゲームである。ソフトプレイはペナルティとなり、そのペナルティにはチップの没収やイベントの失格も含まれる。チップダンピングやそのほかの様々な共謀も失格の原因となる。」と規定していますから、共謀が行われた上でのチップ移動の結果を追認した裁定について、JOPTは誤りであると認めたと評価できるでしょう。
JOPTは運営側の責任があったことを裁定の際に考慮したようですが、私は、本件の誤りが生じた原因を、裁定に際して、「テーブル上で行われたこと以外」を裁定の基礎として考慮したことなのだろうと考えています。

なお、「ソフトプレイ」とは「プレイにおいて手加減すること」、「チップダンピング」は「パートナーにチップが渡るようにわざと負けること」です。
(修羅のポーカー様から引用、https://shura-poker.com/poker-etiquette-rules/#i-11)


ここで興味深いのは、以下の点です。
JOPTは、上記説明において「チップダンピングを受けたプレイヤーは、スプリンター賞の獲得方法についてフロアパーソンに確認したとの主張していると説明を受け、事実であれば、運営側の責任があり、裁定の際に考慮すべきであると判断しました。」と説明しているところ、ユチョン氏は、「Day1の時にテーブルで30万点に到達しそうな方が2名いて(私以外)、チップの貸借をしてスプリンター賞のディールをしていいかをフロアに確認しました。」と述べていることです。

すなわち、「誰が質問し、フロアパーソンから説明を受けたか」という点について、以下のように両者の主張が対立しています。
 (JOPTの主張)
   ユチョン氏から、フロアパーソンに確認したと主張された
 (ユチョン氏の主張)
   同卓していた他の人が、Day1において質問しているのを聞いていた

なお、ユチョン氏は、上記報告事項にて、「事前にフロアに確認したことから、やってもいいものと錯覚してしまい」とも説明していますが、カジノちゃんねるにおけるユチョン氏のインタビュー(https://www.youtube.com/watch?v=geNMSmawSco)を踏まえれば、ユチョン氏自身がフロアパーソンに確認したものではないと思われます。

更に、フロアパーソンの回答についても、ユチョン氏とJOPTの主張は対立しています。
 (JOPTの主張)
   プレイヤーから「意図的にチップ渡して賞を獲得し、その賞をディー
   ルできるか?」と聞かれたところ、フロアパーソンは「ディールはで
   きない。送られるゲームマネーはプレイヤーのアカウントに入るた
   め、その後は認知しない」と回答した。
   ただし、フロアパーソンは、チップダンピングのと思われる行為に対
   して明確に否定をしなかった
 (ユチョン氏の主張)
   フロアパーソンに対し、同じテーブルの他人が「チップの貸し借りを
   行うことによって、スプリンター賞を得ること自体は可能なのか」と
   尋ねたところ、「運営は、そこは関知しない。しかし、プレイヤー間
   でやることに責任はとれないが、プレイヤーの自由である」と回答し
   たことを聞いた。(上記インタビュー8:33から要約)
   また、本件裁定の際、上記回答について、JOPT側から誤った回答を行
   ったことについて謝罪を受けた。(同16:48から要約)


どちらの説明が真実であるかは分かりませんが、チップダンピングが行われた当時、アベレージが40万点程度を推移している中での16万点(13~16bb)というのはかなり大きく、プレイに影響が出ることからすれば、少なくとも、JOPTは、仮にユチョン氏を失格にしないのだとしても、最低限、不正により取得された16万点はプレイから取り除くべきだったのだろうと思います。

私は、ポーカーにおいて共謀によるチップのやり取りが禁止されることは、TDAを読まなくとも、その競技性から自明のことであると考えています。例えば「残り5bbしかないので、私がオールインするから降りて」と周囲に依頼し、それに応じることは許されないでしょう。
初心者の方が、TDAを読むことは必要ないと思いますが、「ポーカーにおいて不公正なことは許されない」という大原則は、胸に刻んでおいてほしいと思います。
(この大原則は、色々な場面で顔を出します。具体例として、「自分の手札をほかの1人にだけに教えることは、他のプレイヤーにとって不利なことだから禁止される」といったものが挙げられます。個別のルールを知らなくても、この大原則を踏まえて考えれば、概ね誤った答えにはならないと思います。)

ポーカー歴3年を超える、しかも、自らポーカーを「知能ゲーム」と捉え、スポーツマンシップに則ったプレーが必要であると考えていた(同インタビュー26:50~)ユチョン氏が、上述のような基礎的な素養がなかったとは思えず、「ルールを知らず、トーナメントにおいて、チップを恣意的にやり取りしてもよいと考えていた」という旨のユチョン氏の主張については、そのまま受け取ることはできないと考えています。
また、ユチョン氏がチップダンピングを行ったことを認めたことを評価する意見もあるようですが、ユチョン氏がチップダンピングを行ったこと自体は、当該テーブル上で明らかになって裁定も行われていることからすれば、ユチョン氏にとって否定する余地がなかったものであって、評価する対象ではないと思います。

一方、ユチョン氏が、JOPTから裁定を受けたことから、この問題は終わったものと思っていたということは当然だと考えます。
TDA 1項(フロアの決定)には、「意思決定における最優先事項は、ゲームにおける徹底した利益と公平性である。通常とは異なる状況では、公平性を考慮した常識的な決定が、技術的なルールよりも優先されることがある。フロアの決定は最終となる。」と規定されていることからしても、そのように考えることは自然であると思われます。


ともあれ、ルール違反を行ったプレイヤーに対し、不適切な裁定を行ったJOPTへ批判が集中することは当然のことだろうと思います。
今後、JOPTが、失墜した信用を取り戻すため、どのようにどのような再発防止を打ち出すのか、また、チップダンピングが再度発覚した際には、どのような裁定を行うのかが注目されます。


(補足説明)
本件において、「ディール」という用語も出てきます。

「ディール」又は「ファイナル テーブル ディール」とは、残っている全てのプレイヤーが、賞金を何らかの方法で分割することに合意すること、を指します。
(Poker Strategy.com様から引用、https://ja.pokerstrategy.com/glossary/_281/)

ディールにおいて行われるのは、賞金の分割方法に関する協議であって、しかも、残っている全てのプレイヤーが同意しなければ成立しないことに留意する必要があります。

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