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ツール・ド・フランス2021 第13ステージ

第13ステージはニームからカルカソンヌまでの219.9km平坦ステージ。

山岳ポイントも1つしかなく、集団スプリントが約束されたステージ。その中でマーク・カヴェンディッシュによる今大会4勝目、そして、伝説の男エディ・メルクスの記録に並ぶ瞬間が期待された。

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この日は明確なスプリンター向けステージではあったが、フィニッシュ地点のカルカソンヌは集団スプリントとはものすごく相性が悪い。過去7回のカルカソンヌフィニッシュはいずれも逃げ切りである。

さらに同じくスプリントステージと思われていた第12ステージも大きな逃げ集団が作られての逃げ切りだったこともあり、この日もアクチュアルスタート直後はやや出入りの激しい展開に。

それでも25㎞ほど消化したタイミングで、3名の逃げが確定する。

オメル・ゴールドスタイン(イスラエル・スタートアップネーション)
ショーン・ベネット(チーム・キュベカ・ネクストハッシュ)
ピエール・ラトゥール(チーム・トタルエナジーズ)

この危険度の低い逃げ手段が出来たことでメイン集団は落ち着いた雰囲気に。ドゥクーニンク・クイックステップがしっかりと責任をもって集団を牽引し、タイム差は最大でも3~4分差を維持し続けた。

残り115.7㎞地点の中間スプリントポイントではいつも通りソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)マイケル・マシューズ(チーム・バイクエクスチェンジ)の争いが繰り広げられ、いつも通りコルブレッリが先着(4位、13ポイント)。そしていつも通りカヴェンディッシュはここには一切興味を見せず、フィニッシュに向けて足を貯めていた。


残り67㎞を切ったタイミングでメイン集団からフィリップ・ジルベール(ロット・スーダル)ピエール・ロラン(B&Bホテルス・p/b KTM)がアタック。これが引き戻されると今度はカウンターでアレックス・アランブル(アスタナ・プレミアテック)が飛び出すなど、単純な集団スプリントにしたくないチームが搦め手を狙って動き始める。

その都度、カスパー・アスグリーンなどのドゥクーニンク・クイックステップ、あるいはアルペシン・フェニックスといったスプリンターチームの面々が抑えにかかり、この意図を封じ込めていく。

さらに、その高まった緊張感の中、残り62㎞地点の高速の下りで大きなクラッシュが発生。サイモン・イェーツルーカス・ハミルトン(ともにバイクエクスチェンジ)などが巻き込まれ、ともにリタイアに。集団牽引の役割を果たし続けていたティム・デクレルク(ドゥクーニンク・クイックステップ)や、この日の勝利を狙うナセル・ブアニ(アルケア・サムシック)なども巻き込まれていた。

牽引役が離脱したことで、本来であればフィニッシュ直前で動き始める世界王者ジュリアン・アラフィリップが早くも集団コントロールの役割を担い始める。そして残り52.8㎞で、最後まで逃げていたゴールドスタインとラトゥールが吸収された。


もちろん、これで終わりではない。残り45㎞地点でカンタン・パシェ(B&Bホテルス・p/b KTM)が単独でアタック。さらに残り35㎞地点で今度はヤン・バークランツ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)がこちらも単独でアタック。

最終的には先頭パシェと1分差でバークランツ、そこから30秒差でメイン集団という距離間で残り30㎞を切っていくが、メイン集団も引き続きアラフィリップが先頭に陣取ってコントロール。

途中、カヴェンディッシュがバイク交換を余儀なくされるなどのトラブルがありながらも、本日のカヴェンディッシュ4勝目のために、確実に逃げをすべて捕まえる意思をもって残り距離を消化していく。

残り27.8㎞地点でバークランツは吸収。そして残り19㎞地点でパシェも吸収。

直後に横風区間に入り、イネオス・グレナディアーズのミハウ・クフィアトコフスキジョナタン・カストロビエホリッチー・ポートなどがローテーションを回しながら集団分裂を仕掛けていき、仕事をしていたアラフィリップが後続に取り残されるなどの動きがあったものの、致命的な結果を生むことはなく、やがて予定通りの集団スプリントへと突入していく。

残り3㎞を切って集団の先頭にマッティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ)が飛び出してきて加速を開始する。その後ろにカスパー・アスグリーン、ダヴィデ・バッレリーニ、ミケル・モルコフ、そしてカヴェンディッシュという完璧な布陣。

残り2㎞でアスグリーンが先頭に。この時点でカヴェンディッシュの前にはアシストが3名。しかもここでアスグリーンがひたすら牽引し続けながら離れない! 残り1㎞を切って、700mでもまだ、アスグリーンが先頭。ドゥクーニンク・クイックステップ、完璧な体制。

だが残り600mの左直角カーブでチームDSMが一気に先頭にまくり上げる。「幻の世界王者」ニルス・エークホフケース・ボルを牽き上げ、先頭を奪い取る。

これをバッレリーニが加速して先頭を奪い返すが、しかし登り基調ということもあって、この混乱の中で、カヴェンディッシュが番手を下げてしまう!


ここで最強リードアウター、モルコフが巧みな判断力を発揮した。

抜け出したバッレリーニに無理についていかず、あえて足を止め、後続のカヴェンディッシュが背後につくのを待ったのだ。

さらに後ろについたカヴェンディッシュを牽き上げながらエークホフとボルとの間に割って入り、万全の体制に。

しかし、この日のフィニッシュは登り基調。ここで、パンチャータイプのイバン・ガルシア(モビスター・チーム)が残り300mで加速し、先行するバッレリーニの背後に。

ガルシアのスプリントに対し、カヴェンディッシュもすぐさま反応し、自ら飛び出そうとする動きを見せる。彼のスプリンターとして嗅覚が、ここでガルシアを逃がしてはいけないと判断したのだろう。

だが、ここでモルコフは再度、素晴らしい動きを見せる。登り基調で、カヴの「射程範囲」ではない残り300mでのスプリントは、確実な勝利のために見逃すわけにはいかない。スプリント仕様としたカヴェンディッシュの前に入り込み、これを牽き上げながら、ガルシアの背中を捉えて加速していく。

抜け出しての勝利を狙っていたガルシアをしっかりと捉え続ける、ハンターのような恐ろしきモルコフのリードアウト。仲間には優しく、的には苛烈な男だ。

残り50m。「必勝エリア」までいつも通り牽き上げてもらったカヴは、あとはただ、勝つだけだった。

シーズン開始前は、いや、ツアー・オブ・ターキーで4勝したときも、このツール・ド・フランスへの出場が決まったときも、第4ステージで「31勝目」を記録したときでさえも、予想できなかった瞬間。

マーク・カヴェンディッシュが、「伝説の男」エディ・メルクスの記録「34勝」に並んだ瞬間であった。

第13ステージ


このリザルトを見ても、この日が決してピュアスプリンター向けではなかったことが非常によくわかる。つまり、カヴェンディッシュにとっては、決して得意ではないフィニッシュだ。

それでもなお、勝てたのは、間違いなくモルコフという男の存在。そしてそんな彼が最後に力を果たせるように、残り2㎞から残り600mまでひたすら牽引し続けたカスパー・アスグリーンの存在もまた、欠かせないものであった。

チームで掴んだ勝利。チームで掴んだ、歴史的な瞬間。


そしてそれはまだ終わりではない。

残る平坦ステージはあと2つ。

ピレネーの厳しい山岳もまたチームの力で乗り越えて、カヴェンディッシュは、メルクスを追い抜いて世界の頂点に立つことができるか。

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