グランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズ2021
いよいよ2021シーズン最初のワールドツアーチーム出場のUCIレースが開催された。
その名も、グランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズ。毎年この1月末から2月頭の日曜日に南仏ブーシュ=デュ=ローヌ県で開催されるワンデーレースで、オーストラリアやアルゼンチン、南スペインでそれぞれシーズンインする選手たちとはまた違った「フランス組」がシーズンインを迎える開幕レースである。
そのため例年はフランスのワールドツアーチームやUCIプロチームの一部が出場しているような小さなレースだったのだが、今年はそのオーストラリア・南米・スペインの各開幕レースが軒並み中止・延期となったことを受け、今年のこのレースにはフランスチームだけでなくマッテオ・トレンティン率いるUAEチーム・エミレーツ、フィリップ・ジルベールやジョン・デゲンコルプ率いるロット・スーダル、あるいはEFエデュケーション・NIPPOなど、UCIワールドツアー7チームを含む豪華な顔ぶれが出場することとなった。
いつもとは違ったこのフランスの小さなパンチャー向けレースで、今年は果たしてどんなドラマが待ち受けるのか。
簡単にレポートしていきたい。
↓レースのプレビューはこちらの記事を参照↓
GCN Race Passで放送が始まった時点で残り81㎞。レースの半分以上を消化していた。
先頭の逃げは6名。
エリオット・リエター(B&Bホテルス・ヴィタルコンセプト)
イェンス・レインダース(スポートフラーンデレン・バロワーズ)
ジョン・バレネチェア(カハルラル・セグロスRGA)
ヴォイチェフ・レパ(エキッポ・ケルンファルマ)
ケニー・モリー(ビンゴール・ワロニーブリュッセル)
モーン・ヴァンニーケルク(サンミッシェル・ウーベル93)
このうちのケニー・モリーは2019年のジャパンカップに来日し、9位に入った選手のため、覚えている方も多いかもしれない。
逃げとメイン集団とのタイム差は残り81㎞時点で2分55秒あったものの、これが残り60㎞を切る頃には1分半、残り43㎞時点では40秒を切るほどとなり、着実に縮まっていく。
メイン集団を牽引するのは2019年のこのレースの覇者アントニー・テュルジやエドヴァルド・ボアッソンハーゲン、ピエール・ラトゥールなどを抱えるチーム・トタル・ディレクトエネルジーに、マッテオ・トレンティンを抱えるUAEチーム・エミレーツ、ジルベール&デゲンコルプ&ウェレンスという強豪を揃えてきているロット・スーダルなどが積極的に牽引。
残り35㎞地点くらいで逃げは完全にメイン集団に吸収されることとなった。
この後は激しいアップダウンと共に出入りの激しい展開に。AG2Rシトロエン・チームに移籍したばかりのリリアン・カルメジャーヌや、ティム・ウェレンス、あるいは昨年のプルエバ・ビリャフランカ=オルディシアコ・クラシカで優勝し別府や中根と共に今年EFエデュケーション・NIPPO入りを果たしたサイモン・カー、そしてグルパマFDJのバンジャマン・トマなど、若手から中堅・ベテランまで、あらゆるアタッカーたちが次々と飛び出しては捕まえられる、という展開が続いた。
そして残り16㎞地点ではこのバンジャマン・トマにサイモン・カー、アンドレアス・クロン(ロット・スーダル)、オドクリスティアン・エイキング(アンテルマルシェ・ワンティゴベール)の4名が先頭集団を形成し、メイン集団がこれを12秒差で追いかけるという状況に。
メイン集団も一時期は15名程度にまで絞り込まれていたためこのまま逃げ切れるかも、と思ったところもあったが、最終的にはそのメイン集団も随分と膨れ上がり、ブライアン・コカール(B&Bホテルス・ヴィタルコンセプト)などのスプリンターも生き残っている様子。
そうなればプロトンの勢いは逃げ集団にとっては敵うはずもなく、残り10㎞を切ると同時に全ての逃げが吸収された。
そうして、最終的には30名弱の中規模集団による集団スプリントが繰り広げられることに。
最も数を揃えていたのは、コカール率いるB&Bホテルス・ヴィタルコンセプト。コカール含め5名を揃え、集団の先頭を支配する。アントニー・テュルジ率いるチーム・トタル・ディレクトエネルジーも3名を揃えており、臨戦態勢だ。
ラスト4㎞を超え、集団の先頭からAG2Rシトロエン・チームの選手が1名、飛び出す。しかしこれは即座に捕まえられる。
スプリンターのいないAG2Rにとっては、この攻撃しかありえない。さっきも残り14㎞でオウレリアン・パレパントルがアタックしていたし。
引き続き集団の先頭はヴィタルコンセプトが完全支配。コカール必勝態勢か?
しかし、ヴィタルコンセプトのリードアウトトレインが離れていくのが早すぎる。右からアルケア・サムシックの選手。左からはUAE・・・ずっとコカールの番手を取っていたマッテオ・トレンティンか。
緩やかな登りスプリント。コカールの前にアルケアのトマ・ブダが飛び出すが、それをさらにトレンティンが抜いた。
だが、まだフィニッシュまでは遠い。これを抜いたブライアン・コカール。
そのままコカールか? いや、アルケアのブダか?
いや――右手を挙げたのは、AG2R。
AG2R????
誰だ?と思った中で、選手を追いかけるカメラが映し出したのはゼッケンNo.5。
なんと、さきほどアタックしていたオウレリアン・パレパントルその人だった。
オウレリアン・パレパントルはAG2Rの下部育成チーム「シャンベリーCF」(今年日本の津田悠義も加入することになったチーム)出身の生え抜きで、2018年のシーズン途中からAG2R入り。今年は実質的には4シーズン目に入るが、実はここまで1度も勝利なし。今回ようやくそれを掴み取った形だ。
昨年のジロ・デ・イタリアでは総合16位。エトワール・ド・ベセージュでは総合6位、ツール・ド・ルクセンブルクでは総合10位と、クライマーとは言わなくとも少なくともスプリンターとは言えない、どちらかというとパンチャーというべきリザルトを残しているパレパントル。今年もフレーシュ・ワロンヌやリエージュ~バストーニュ~リエージュなど、アルデンヌ・クラシック中心の出場スケジュールを用意していた。
そんな彼が、トマ・ブダとブライアン・コカールという、明確なスプリンターたちを相手取っての勝利。もちろん、パンチャー向けのこのレース、コカールたちがその全力を出し尽くすには疲弊しきっていたのは確かだろうが、そういうコンディションでは強いはずのトレンティンすらも打ち破って、途中アタックしていたこの男が勝つというのは、なかなか驚きというか、パレパントルという男のタフネスさや想像を超える力を感じさせる勝利だった。
これで昨年のブノワ・コヌフロワに続き、AG2Rの若手が2連勝となったこのグランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズ。
コヌフロワは昨年も非常に活躍しており、今やAG2Rの顔とも言うべき存在のため、パレパントルもまた、期待に応えるだけの走りをしていけるかどうか、楽しみである。