ジロ・デ・イタリア2021 第5ステージ
イタリアを舞台に開催される今年最初のグランツール。サイモン・イェーツ、アレクサンドル・ウラソフ、エガン・ベルナル、レムコ・エヴェネプールなどが覇を競い合う、なかなか予想のつかない3週間。
第5ステージはモデナからカットーリカまでの177㎞平坦ステージ。エミリア=ロマーニャ州をまっすぐ横切っていくこの日は、一切の登りが登場しない実にジロ・デ・イタリアらしい真正のオールフラットステージ。
最後はどうあがいても集団スプリントが予想されたこの日ではあったが、その平穏無事なレイアウトとは裏腹に、様々な混乱が引き起こされた1日となった。
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最初に形成された逃げは2名。
フィリッポ・タリアーニ(アンドローニジョカトリ・シデルメク)
ウンベルト・マレンゴ(バルディアーニCSF・ファイザネ)
最大で5分弱のタイムを稼いだ彼らではあったが、残り107㎞地点に用意された1つ目のスプリントポイントを前にしてメイン集団が一気にペースを上げたことによってそのギャップは急速に縮まる。
最終的にスプリントポイントはタリアーニ、マレンゴの順で先着するが、そのすぐ後ろでガビリア、メルリール、ヴィヴィアーニ、サガン、ニッツォーロ、パスクアロンの順でそれぞれ6~1ポイントをゲットする。
そして通過直後に2人の逃げは捕まり、その後しばらく新たな逃げが生まれないまま残り距離が消化されていった。
このまま、最近のグランツールではありがちな、「逃げの生まれない平坦ステージ」になるかと思いきや、残り68.5㎞地点で新たに2名の逃げが形成される。
シモン・ペロー(アンドローニジョカトリ・シデルメク)
ダヴィデ・ガッブロ(バルディアーニCSF・ファイザネ)
最大で1分を超えるタイム差を形成した彼らではあったが、残り30㎞を切って集団のペースも上がり、タイム差は30秒未満へと縮まっていく。
そのタイミングで集団から飛び出したアレクシー・グジャール(AG2Rシトロエン・チーム)が先頭2人に合流するも、タイム差が再び大きく開くことはなかった。
メイン集団ではロット・スーダルやアルペシン・フェニックスといったこの日の勝利を狙うチームが中心となって牽引。緊張感が高まりつつあった。
ここからが波乱の連続であった。
まずは残り15.7㎞地点でパヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)が落車。集団の前方でモトカメラがスピードを落とすようにプロトンに指示を与えたのちに、集団全体がスローダウンした煽りを受けて、シヴァコフが側道に弾き飛ばされてしまった。
最終的に彼はバイクに再び跨り13分遅れでフィニッシュするが、その怪我は深刻で、翌日以降のレースには出走しないことを決めた。
そして、もう1つの悲劇は、残り4.3㎞地点で巻き起こった。
集団全体が最後のスプリントに向けて加速し、時速50㎞を超える速度で駆け抜けていたとき、前日のステージを優勝したばかりのマリア・アッズーラ、ジョセフロイド・ドンブロウスキー(UAEチーム・エミレーツ)が中央分離帯に激突。
弾き飛ばされた彼に衝突する形でミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)が地面に叩きつけられ、彼はしばらく立ち上がることができずにいた。
そして救急車がやってきて彼は運ばれていく。今シーズン順調な滑り出しを見せ、昨日の第4ステージの終盤でも率先してアタックして見せた、今大会総合優勝候補の1人であった彼の、あまりにも唐突な、早すぎる退場。
しかしこれもまたグランツールである。
そんな恐るべき災厄を経つつも、集団の先頭ではこの日期待されていた集団スプリントに向けて万全の態勢が整えられつつあった。
最大の優勝候補はカレブ・ユアン(ロット・スーダル)。第2ステージでは完全に位置取りに失敗し、大敗を喫した世界最強スプリンターの彼ではあるが、大体彼と彼のチームはステージレースの最初のスプリントステージではいつも位置取りが原因の敗北を喫している。
そして彼らはすぐさま反省会をして、そして次のスプリントステージからは、ただひたすらユアンを集団の先頭においてラスト1㎞を迎えることに集中し、そして集団先頭のスプリントへと向かう激しい動きの中でユアンは自由気ままに身を泳がせ、最後は完璧な加速で勝利を奪いとる——そんな、お決まりのパターンを彼は持っていた。
そして今回もまた、そんな展開であった。フィニッシュ前500mを切って、ユアンの周りにチームメートはいない。だが、第2ステージと違って、このとき彼はエリア・ヴィヴィアーニ(コフィディス・ソルシオンクレディ)の後ろという最適なポジションを確保して、先頭から10番目程度の位置に身を置くことができていた。
集団の先頭はダニエル・オス(ボーラ・ハンスグローエ)、そしてアレクサンダー・クリーガー(アルペシン・フェニックス)に牽引されて一気に加速していくが、残り300mでシモーネ・コンソンニ(コフィディス・ソルシオンクレディ)がエリア・ヴィヴィアーニを引き連れながらコースの右端から一気に前方へと上がっていく。ユアンはこの後ろにつきながら同様に番手を一気に上げていくことができた。
同じタイミングでユアンと並んで加速していったティム・メルリール(アルペシン・フェニックス)と軽く接触し、右端の壁に追いやられかけたユアンだがそこでも失速することなくヴィヴィアーニの後輪を捉え続け、残り200mを切ってコースの左端から一気に加速しながら先頭にまで躍り出てきたジャコモ・ニッツォーロ(キュベカ・アソス)と、同時にコンソンニの背中から発射したヴィヴィアーニとが並びかけるが、ユアンはこの2人を踏み台にしながら残り100mという彼の必勝のタイミングで初めて風の抵抗を受けながらスプリントを開始した。
ニッツォーロは間違いなく強かった。発射台を利用できたヴィヴィアーニを超える加速力で先頭に飛び出した。しかし彼はコースの左端から、風を受ける時間が長すぎた。それに対してユアンは極限ギリギリまでヴィヴィアーニたちの背後で足を貯めていることができており、そしてラスト100mからの加速力は世界一のものをもっていた。
ゆえに、勝てる理由は十分に揃っていた。
大方の予想通り、今大会最有力スプリンターが、2回目の集団スプリントにおいてついに頂点を掴んだ。
第2ステージの勝者メルリールもユアンと同じタイミングで加速できていたため、そのままいけば再び良いリザルトを残すことができそうだったものの、ユアンとの接触のタイミングでメカトラのような形になったようで、あえなく失速していった。
第6ステージは第4ステージ以上に本格的な山頂フィニッシュ。すでにして混沌と化してきている総合争いに、新たな動きが出てきそうだ。