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ラ・フレーシュ・ワロンヌ2021

登坂距離1.3km、平均勾配9.6%、最大勾配は一説では26%にも達するという、激坂中の激坂「ユイの壁」でお馴染みのフレーシュ・ワロンヌ。

今年は本来の4月にスケジュールを戻し、開催。

世界王者ジュリアン・アラフィリップ、過去5回の勝者アレハンドロ・バルベルデ、プリモシュ・ログリッチ、アムステルゴールドレース2位のトム・ピドコックなど優勝候補たちが連なる中、新たな激坂王の誕生を巡る激戦が繰り広げられる。


前日に行われた新型コロナウイルスのPCR検査の結果、一度陽性の反応が出たスタッフ・選手を抱えていたということでUAEチーム・エミレーツがチーム毎撤退することが決まる。

タデイ・ポガチャル、マルク・ヒルシ、ディエゴ・ウリッシなどの優勝候補を揃える豪華メンバーだっただけに、この撤退は非常に残念なことである。


それでももちろん、まだまだ十分に強力なメンバーが残っている。

以下8名の逃げ集団とのタイム差をじわじわと縮めつつ、優勝候補を抱えるイネオス・グレナディアーズやイスラエル・スタートアップネーション、モビスター・チーム、ドゥクーニンク・クイックステップなどが中心となって集団を牽引していった。

逃げ8名の内訳

ディエゴ・ローザ(アルケア・サムシック)
アレックス・ハウズ(EFエデュケーション・NIPPO)
シルヴァン・モニケ(ロット・スーダル)
ルイス・フェルファーケ(アルペシン・フェニックス)
サンデル・アルメ(キュベカ・アソス)
マウリッツ・ラメルティンク(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
シモーネ・ヴェラスコ(ガスプロム・ルスヴェロ)
ジュリアン・メルテンス(スポートフラーンデレン・バロワーズ)

タイム差は最大で6分近くまで開いていったものの、残り100㎞を切るあたりで少しずつ減少。

1回目のユイの壁を越える頃(残り62.5km地点)にはそのタイム差は3分を切る。

2回目のユイの壁を越える頃(残り31.5㎞地点)にはタイム差は1分ほどになっており、先頭からはメルテンスやヴェラスコ、ローザなどが落ちていき、5名になっていた。

メイン集団の先頭はイネオスやバーレーン、イスラエルなどが牽引していたが、ここからシモン・ゲシュケ(コフィディス)、マウリ・ファンセヴェナント(ドゥクーニンク・クイックステップ)などがアタック。

これは捕まえられるものの、集団のペースは確かに加速していき、ピドコックなどを巻き込む落車が発生したこともあり、この時点で集団は80名ほどにまで縮小されていた。


残り20㎞の最後のコート・デレッフ(登坂距離2.1km、平均勾配5.5%)の登りの途中で先頭からアレックス・ハウズが脱落。残り4名に。メイン集団とのタイム差は30秒を切る。

残り12㎞から始まる最後のコート・ド・シュマン・デ・ゲース(登坂距離1.8km、平均勾配6.1%)の登りでメイン集団からティム・ウェレンスがアタック。

先頭集団からもラメルティンクが単独で飛び出し、アルメが脱落し、残ったモニケとフェルファーケにウェレンスが追いつき、少しだけアルメがその前を牽いたあとに、さらに加速して先頭のラメルティンクに向けてブリッジを仕掛けようとした。

しかしメイン集団からさらにチームDSMのイラン・ファンワイルダーとアスタナ・プレミアテックのオマール・フライレが追いすがってきて第2集団は3名に。

さらに残り10㎞を切った段階でメイン集団からリチャル・カラパスがアタックしたことをきっかけに集団の速度が一気に上がり、結果としてウェレンスたち含む第2集団もすべてメイン集団に吸収されてしまった。

先頭はラメルティンクただ一人。タイム差は10秒~20秒程度を維持し、しばらくの間、下りと平坦とが、動きのないままに消化されていく。


そしていよいよ、残り1.3㎞から始まる本命「ユイの壁」。

ラメルティンクがついに吸収され、登りが始まると同時にドゥクーニンク・クイックステップのミケルフレーリク・ホノレがアタックし、ここにバーレーン・ヴィクトリアスのヤン・トラトニクが追随。

だがメイン集団はこれをミハウ・クフィアトコフスキとクリスツ・ニーランズを先頭に加速していき、難なく吸収。

アラフィリップは前から3番目、ログリッチはその後ろにつけている。

残り500m。ログリッチが先頭に躍り出る。その横に並ぶのはAG2Rシトロエン・チームのブノワ・コヌフロワ。アラフィリップは一旦、ログリッチの背後に回り、その右隣にはアレハンドロ・バルベルデの姿。トム・ピドコックもバルベルデの後ろに位置取っている。

そして残り350m。勾配20%に達しようとする最も厳しい区間において、プリモシュ・ログリッチが早めのアタック。

このフレーシュ・ワロンヌにおいては、この位置からの攻撃は正直、最後まで持たないことが多い。

だがそんなことお構いなしと言わんばかりの勢いで、ログリッチが一気に集団とのギャップを開いていく。

これを見てアラフィリップ、残り300mで加速を開始。一度右隣のバルベルデの様子をちらりと見たが、そのままアクセルを踏んだ。

そしてバルベルデもすぐさまこのアラフィリップの後輪につける。過去、このレースを5回、2回優勝している最強の激坂王たちが、昨年ツール・ド・フランス総合2位にしてリエージュ~バストーニュ~リエージュ覇者プリモシュ・ログリッチを追いかける。

残り200mを切ってもログリッチのリードは縮まらない。2秒近いタイム差をつけて先行する。

しかしアラフィリップはさらに加速。背後についていたバルベルデも完全に突き放される。

残り100mで一気にログリッチのすぐ後ろにまで迫ってきたアラフィリップ。

残り60mでログリッチ、左を振り向き、世界王者の姿を確認する。

残り50m。2人の車輪が並んだ。

ここでログリッチ、さらに加速。

小刻みに左右に触れながら、一度前に出るログリッチの前輪。

しかし残り25m。

大きく左右に振れるアラフィリップの前輪が、一気にログリッチを追い抜いていった。

最後は上体を上げ、胸のアルカンシェルを誇示する余裕は確かにあった。

ログリッチもさすがに諦め、昨年のリエージュ~バストーニュ~リエージュのような勝利は望むべくもなかった。


ジュリアン・アラフィリップ、3勝目。

常に最強であり続けるわけではないが、ここぞというときにはしっかりと強さを見せつける、これぞ、王者の走りであった。

4.ラ・フレーシュ・ワロンヌ

バルベルデはこれで8回目の表彰台。40歳にしてこの走りは、圧巻としか言いようがない。

日曜日には誕生日を迎えると共に、4勝しているリエージュ~バストーニュ~リエージュが控えている。

今の彼の勢いであれば、41歳のモニュメント勝者が生まれても何もおかしくはないだろう。


そして、一身に期待を背負っていた小さな天才、トム・ピドコック。

正直、そこまでフレーシュ・ワロンヌに向いている脚質のイメージはなかったのだが、途中落車に見舞われながらも見事な6位。途中のポジション取りに問題がなければ、もっと好成績を目指せたかもしれない。

彼は将来グランツールの成績も目指しているという点で、ワウト・ファンアールトやマチュー・ファンデルポールとはまた違った適性をもつ男。そもそも昨年のベイビー・ジロ覇者なのだから。

ひとまず一旦ロードレースシーズンはこれで中断となり、しばらくはマウンテンバイクに専念するという。

シーズン後半で再びロードに戻ってくるかとは思われるので、世界選手権を始め、その活躍にまた期待をしたい。

ちなみにシクロクロッサーとしては12位にアルペシン・フェニックスのベン・トゥレット、14位にアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオのクエンティン・ヘルマンスの姿も。

本当に彼らのポテンシャルは恐るべきものである・・・。

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