イツリア・バスクカントリー2021 第6ステージ
スペイン・バスク地方で開催される、パンチャーとオールラウンダーのためのステージレース。
今年はタデイ・ポガチャル、プリモシュ・ログリッチ、アダム・イェーツといった今年の「3強」が初めて激突するレースであり、今年最注目の1週間である。
最終ステージとなる第6ステージはバスク定番のアラーテ(ウサルツァ)山頂フィニッシュ。
ただ、最後のアラーテの登り意外にも合計7つの山岳ポイントが用意され、それが111.9㎞というごく短い距離の中に詰め込まれている。
波乱が巻き起こるには最適の高難易度ステージ。そしてここで、実際に激しいバトルが繰り広げられることとなった。
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この日はひたすら最初から最後まで止まることのない展開が続いた。
まずはアクチュアルスタートと同時にヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO)がアタック。これはすぐに捕まえられる。
スタート直後の3級山岳の登りをイスラエル・スタートアップネーションとモビスター・チームが中心となって集団を牽引し、いきなりプロトンの数が50名を切るような状況に陥る。
プリモシュ・ログリッチも先頭から3番目に位置するなど、すでに事態が深刻なものとなっていることがよくわかる状況だった。
山頂を超えたあとに今度はアントワン・トールク(ユンボ・ヴィスマ)がアタック。ここにオマール・フライレやアレックス・アランブル(共にアスタナ・プレミアテック)を含む数名が追随し、集団はモビスターやEFが中心となって牽引。プロトンの数はいまだ70名程度。
一度は捕まえられたトールク。しかし再びアタックし、そこにイスラエル・スタートアップネーションのパトリック・ベヴィンやバイクエクスチェンジのクリストファー・ユールイェンセンなどがついていく。
この日3つ目の登りである1級山岳Azurkiの登りが始まるとカーシーが再びアタックし、先頭のトールクたちに追い付く。ユールイェンセンは脱落したが、入れ替わりでエンリク・マス(モビスター・チーム)、リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)、オマール・フライレ(アスタナ・プレミアテック)といった強力な選手たちも合流する。
レース開始から40分が経過して20㎞が消化。先頭は以下の6名に。
オマール・フライレ(アスタナ・プレミアテック)
ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO)
パトリック・ベヴィン(イスラエル・スタートアップネーション)
エンリク・マス(モビスター・チーム)
リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)
アントワン・トールク(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
集団はすでに40名程度。
完全にサバイバルレースの様相を呈していた。
この日4つ目の登りを控えた残り75㎞。
先頭集団には新たにAG2Rシトロエン・チームのベン・オコーナーやコフィディス・ソルシオンクレディのギヨーム・マルタンなど複数名の選手がジョイン。
さらに集団もまだまだ先頭と16秒差ということで活発化しており、ときにプリモシュ・ログリッチ自ら加速する場面も。
その中でドゥクーニンク・クイックステップのマウリ・ファンセヴェナントのアタックをきっかけに、ユンボ・ヴィスマのサム・オーメンがこれに追随。
先頭にはすでにトールクがおり、このオーメンの動きを許せば先頭にはユンボのアシストが2枚という状態に。
さすがにUAEチーム・エミレーツもこれを静観しているわけにはいかず、マルク・ヒルシをチェックに使った。
集団の先頭はUAEチーム・エミレーツのディエゴ・ウリッシとラファウ・マイカが牽引。
残り67㎞時点でタイム差は1分を超え、逃げは以下の14名に膨れ上がった。
ベン・オコーナー(AG2Rシトロエン・チーム)
オマール・フライレ(アスタナ・プレミアテック)
マーク・パドゥン(バーレーン・ヴィクトリアス)
ギヨーム・マルタン(コフィディス・ソルシオンクレディ)
マウリ・ファンセヴェナント(ドゥクーニンク・クイックステップ)
ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO)
パトリック・ベヴィン(イスラエル・スタートアップネーション)
エンリク・マス(モビスター・チーム)
カルロス・ベローナ(モビスター・チーム)
リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)
アントワン・トールク(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
サム・オーメン(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
マルク・ヒルシ(UAEチーム・エミレーツ)
ピエール・ラトゥール(チーム・トタル・ディレクトエネルジー)
このあと、決定的な動きが巻き起こる。
すなわち、Elosua-Gorlaからの長い下りでアスタナ・プレミアテックのヨン・イサギレとアレックス・アランブルが先導するハイ・ペースの下りで、プリモシュ・ログリッチ、ダヴィド・ゴデュ、アレハンドロ・バルベルデ、ミケル・ランダの計6名が抜け出した一方、タデイ・ポガチャルとブランドン・マクナルティがエステバン・チャベスやヨナス・ヴィンゲゴー、アダム・イェーツ、ペリョ・ビルバオらと共に後方に取り残されたのである。
最初は6秒程度。しかし協調体制が築かれて順調にローテーションが回るログリッチ集団に対し、ポガチャル集団はすぐさま他チームがUAEに全責任を押し付ける形となり、ペースダウン。
たちまちこの2集団のギャップは開いていった。
残り53㎞。
ログリッチ集団が先頭集団に追い付き、先頭は新たに18名に。
この集団からマルク・ヒルシが後続のポガチャル集団の救援に降りてきてジョイン。早速集団の先頭を牽引し始める。
だが先頭集団ももちろんサム・オーメンとアントワン・トールクがログリッチのための全力牽引を開始する。
対するポガチャル集団は完全にヒルシの一人牽き。しかも、彼が決して得意ではない平坦を牽かされ続けていった結果、次の登りに突入する前に力尽きて脱落してしまった。
もはや総合リーダーのブランドン・マクナルティと二人きりになってしまったポガチャルは、自らその前を牽いて牽引することに。
たしかに、ポガチャルとログリッチはすでに20秒のビハインドを抱えており、なんとかログリッチに追い付いたとしてもこれを追い抜くにはさらに20秒差を付けて前でゴールしないといけなかった。
それよりはなんとか、総合リーダーのマクナルティを先頭に復帰させることが、チームとしての勝利を目指す最大の優先事項。
そんな考えでポガチャルは牽引を開始したのだろうが――残り49㎞地点から始まる1級山岳クラベリン。
登坂距離5㎞、平均勾配9.6%、最大勾配17%という凶悪なこの登りで、いきなりマクナルティが脱落。
これでポガチャルは完全に一人となり、その戦略のすべてが崩壊することとなった。
この情報を耳にしたのか、先頭のログリッチも一気にペースアップ。
すでにオーメンもトールクも脱落している中で、この最強の男のペースアップによって集団は一気に絞り込まれ、山頂間近で先頭はログリッチ、バルベルデ、ゴデュ、カーシーの4名だけに。
間もなくバルベルデも脱落し、3名のまま山頂を通過した。
対する追走集団の方はポガチャル、ヴィンゲゴー、アダム・イェーツ、マウリ・ファンセヴェナントの4名。
そこに前から落ちてきたバルベルデとランダが合流して6名になるが、相変わらずポガチャルばかりが前を牽かされる事態に彼も珍しく怒りを顕にしてローテーションを要求する。
しかし結局ペースは上がらずに30秒差が45秒差、そして50秒差へと開いていく。
やがて後方から遅れていたビルバオやチャベスも合流してきて、11名にまで膨れ上がった。
その後の2つの中間スプリントポイントはいずれもログリッチが先頭通過し、合計6秒のボーナスタイムを手に入れて総合優勝を盤石なものへとしていく。
ゴデュもそれぞれ2位通過で合計4秒のボーナスタイムを獲得。現在、バーチャルで総合5位まで浮上してきており、総合4位のアダム・イェーツとは前日までの総合タイム差でいうと30秒差。
このままうまくいけば、逆転もありえる。
しかし何よりもまずは、ステージ優勝。
残り6㎞でゴデュがアタックすると、少し離れたログリッチもやがて追いついてくる。しかしカーシーはここで脱落。
ポガチャルも負けじと自身の集団内で加速し、バルベルデ、アダム・イェーツ以外のライバルたちをほとんど振るい落とす。
ただ、ヴィンゲゴーはしっかりとその後輪を捉えて離さない。彼がいる限り、たとえログリッチたちに追い付いたとしても、どうしようもない。
とはいえ、いずれにせよ追いつくというのはありえない話だった。
先頭の2名はすでに、勝利を確信。そしてラスト2㎞の下りで、ログリッチとゴデュは静かにグータッチを行う。
そのままフィニッシュへとなだれ込んでいく二人。
最後はログリッチが明確にゴデュに勝利を譲る。カタルーニャであまりのノーギフトぶりに、やや批判が巻き起こったのを少し意識していたのかもしれない。
いずれにせよ、昨年のブエルタ同様に熱く喜びを表現するゴデュの後ろで、ログリッチもまた、1年ぶりの対ポガチャル勝利を自ら祝福する笑顔とガッツポーズで2位フィニッシュ。
1年越しのリベンジを果たした瞬間だった。
ログリッチ「リベンジ」の軌跡はこちらを参照
総合では結局、ポガチャルを離れることのなかったヴィンゲゴーが総合2位となり、ユンボ・ヴィスマのワンツー独占。ポガチャルは総合3位に終わった。
アダム・イェーツはギリギリ1秒で総合4位を死守。
今回、あまりにもログリッチとポガチャルが強すぎて目立たなかったが、個人TTではカタルーニャ同様に好成績を残し、山岳ステージでも常に先頭付近に陣取っていた彼は間違いなくログリッチ&ポガチャルに次ぐ「3強」の一人である。
現時点ではツール・ド・フランスに出場予定はないという彼だが、目標とするブエルタ・ア・エスパーニャでの総合優勝であれば十分に狙っていけそうな気がしている。
やや残念だったのがミケル・ランダ。今期ここまで調子が良く、今大会も上位入賞は狙える存在だっただけに、終盤でアダム・イェーツやバルベルデに突き放される場面がしばしば見られたのは不安を感じさせる。
一方で、今年あまり振るわなかったビルバオに復調の兆しが見えているのは良いこと。ランダ&ビルバオ、そしてワウト・プールスの3人のエースが、今年のバーレーンに可能性をもたらしてくれるだろうか。
今年のグランツールを占ううえで、色々と面白い材料の揃った今年のイツリア・バスクカントリー。
これが終わればいよいよ、本格的なグランツールシーズンへと突入していく。
まずはジロ・デ・イタリア。一体どんなドラマが待ち受けているのか。