ストラーデビアンケ2021
イタリア・トスカーナ地方を舞台に繰り広げられる、未舗装路と丘陵のミックスレース。今年はJsportsにて初の放送ということで、多くの視聴者の目に触れることとなったこのレースは、ロード世界王者やツール覇者、そしてシクロクロス世界王者たちが覇を競い合う頂上決戦となった。
↓レースプレビューなどは以下から↓
逃げは8名。
フィリップ・ワルスレーベン(アルペシン・フェニックス)
フィリッポ・タグリアーニ(アンドローニジョカトリ・シデルメク)
サミュエーレ・ゾッカラート(バルディアーニCSF・ファイザネ)
サミュエーレ・リヴィ(EOLOコメタ)
シモーネ・ペティッリ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
トッシュ・ファンデルサンド(ロット・スーダル)
ケヴィン・ルダノワ(アルケア・サムシック)
シモーネ・ベヴィラックァ(ヴィーニザブ)
残り100㎞を切るとタイム差も急速に縮まっていき、1分未満に。
メイン集団からも新たにルディ・モラール(グルパマFDJ)やロイック・フリーヘン(アルペシン・フェニックス)などが抜け出し、タグリアーニ、リヴィ、ベヴィラックァなどが脱落した残り5名の先頭集団にジョインする。
残り70㎞で集団とのタイム差も20秒にまで縮まり、単独で抜け出したフリーヘン以外の逃げはすべてプロトンに吸収される。さらに新たに飛び出したジャンニ・フェルメールシュ(アルペシン・フェニックス)とゴンサロ・セラーノ(モビスター・チーム)が追いつくと今度はフリーヘンが脱落し、のちに追い付いてきたアンドレアス・クロン(ロット・スーダル)と合わせ先頭は新たな3名に。
最初の勝負所は残り55㎞から始まる「カンチェラーラセクター」こと「モンテ・サンテ・マリエ」。11㎞に及ぶ長い未舗装路と登りのセクションを前にしてグレッグ・ファンアーヴェルマート(AG2Rシトロエン・チーム)やカスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)、ダヴィデ・フォルモロ(UAEチーム・エミレーツ)といった有力勢が一旦抜け出す場面も見られたが、これもやがて吸収される。
そしてモンテ・サンテ・マリエ突入。
集団の先頭をワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィズマ)が牽引。そのすぐ後ろにはジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)。
明らかに勝負が動き始めようとするその瞬間に、ポジションを落としていたマチュー・ファンデルポール(アルペシン・フェニックス)が慌てて前に上がってくる。
そして残り52㎞。
アラフィリップのアタックのペースアップによって、集団が分裂。今年もまた、このモンテ・サンテ・マリエで重大なセレクションがかかることとなった。
モンテ・サンテ・マリエで形成された先頭8名
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィズマ)
ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)
トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
ミヒャエル・ゴグル(キュベカ・アソス)
クイン・シモンズ(トレック・セガフレード)
2019年2位のヤコブ・フルサン(アスタナ・プレミアテック)やファンアーヴェルマート、ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)などはここで遅れる。なんとかして先頭に追い付こうともがき続けるが、最後までそれは成し得なかった。
先頭8名のうち19歳のシモンズだけはパンクで脱落。のちに追走集団に合流し決死の追い上げを見せるが、最終盤で今度は自らタイヤを滑らせてスリップして落車するなど不運が重なり、失意のまま1日を終えることになる。
それでもこの精鋭集団しか残らないような重大なセレクションで一人先頭に飛び乗ることができた素質は本物で、これからが実に楽しみである。
残り30km時点で先頭集団と追走集団のメンバーは以下の通り。
先頭(7名)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィズマ)
ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)
トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
ミヒャエル・ゴグル(キュベカ・アソス)
追走(10名)
ペトル・ヴァコッチ(アルペシン・フェニックス)
ジャンニ・フェルメールシュ(アルペシン・フェニックス)
ヤコブ・フルサン(アスタナ・プレミアテック)
ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)
サイモン・カー(EFエデュケーション・NIPPO)
ケヴィン・ゲニッツ(グルパマFDJ)
ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
サイモン・クラーク(キュベカ・アソス)
ロブ・パワー(キュベカ・アソス)
クイン・シモンズ(トレック・セガフレード)
追走集団はシモンズが積極的に牽く場面などもあるが、10名中4名が先頭に選手を送り込んでいるチームということもあり、ペースが上がらず。20秒差や15秒差まで縮まったとしてもそこからさらに近づくことはなかった。
そうこうしているうちに第2の勝負所、残り23㎞の「モンテ・アペルティ」に突入。
ここでアラフィリップがアタックを仕掛けると、すかさずポガチャルが食らいつく。ファンデルプールとベルナル、ゴグルもくらいついていくが、ここでワウト・ファンアールトが脱落。さらにその後ろにいたピドコックも道ずれで遅れていった。
先頭5名に対し11秒差をつけられたファンアールトとピドコック。しかし先頭もそこまでペースを上げきれなかったのか、残り19㎞からの「ピンズート」にて再び7名が合流することに。
だがすでに足を失っていたことが明らかだった昨年覇者ファンアールトに、この先逆転の芽は残されていなかった。
残り13㎞。最後の勝負所、「レ・トルフェ」。最大勾配18%の超激坂で、勝負を仕掛けたのがマチュー・ファンデルプールだった。
残り12.2kmで一気にアクセルを踏んだファンデルプール。
ジュリアン・アラフィリップだけがかろうじてこれに食らいつき、エガン・ベルナルが単独でこれを追いかける。
ポガチャル、ファンアールト、ピドコック、ゴグルはここで完全に戦線離脱。
わずか30秒の攻撃で、ファンデルプールは局面を一気に破壊した。
あとは小刻みなアップダウンがありつつも残り1㎞までは基本的に平坦路。最後の1㎞で待ち構える最大16%勾配の「サンタカテリーナ通り」の石畳激坂に向けて、先頭のファンデルプール、アラフィリップ、ベルナルの3名は互いに互いを牽制しながら緊張感のある時間を過ごしていた。
残り4㎞。アラフィリップが牽制のためにローテーションを拒否してポジションを落としたその隙を突いて、ファンデルプールが一気に加速。
しかしあくまでも牽制の間隙を突いただけのそのアタックでは、本気を出したアラフィリップとベルナルを切り離すことはなかなか難しい。
案の定1㎞もしないうちに追い付かれ、再び先頭は3名に。
ファンデルプールにとってはここで「無駄足」を使ってしまった形に。
そしてラスト1㎞。シエナのカンポ広場に向かう定番の1㎞石畳激坂。
非常に狭いこの登りを先頭で入るファンデルプール。残り700mでアラフィリップが左にラインを変えて飛び出す準備をするかのような牽制状態。
先に仕掛けたのはファンデルプールだった。アラフィリップが一瞬ベルナルを見る。だがファンデルプールはその隙にどんどん前を突き抜けていく。
アラフィリップがアクセルを踏み始める。フレッシュ・ワロンヌを2度制し、2年前もこの石畳激坂でヤコブ・フルサンを突き放して勝利を掴み取った男。
普通に考えれば、ファンデルプールに勝ち目はなかった。
しかし、その予想に反し、アラフィリップとのギャップを開いていくファンデルプール。
常識を、再びひっくり返した。
ただ単に強いだけでなく、常に想像を超える走りを見せつける男、ファンデルプール。
今年ツール・ド・フランス初出場を予定しているという彼が、一体どんな走りを見せるのか・・・楽しみでもあり、恐ろしくもある。
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