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ミラノ~サンレモ2022

シーズン最初のモニュメント、春の開幕を告げる「ラ・プリマヴェーラ」。全長293㎞という現代のロードレースでは最長のコースと、ラスト30㎞からの「チプレッサ」「ポッジョ・ディ・サンレモ」で繰り広げられるパンチャー・アタッカーたちの攻撃とこれを追いかけるスプリンター集団の追いかけっこが毎年白熱の、ドラマティックな展開を生み出す最高品質のレース。

とくにここ5年は毎年、ポッジョ・ディ・サンレモからのアタックで勝負が決まる展開が続いており、果たして今年は?


今年のミラノ~サンレモは開幕前から波乱に満ちていた。パリ~ニースでも猛威を振るった「謎の体調不良」によって昨年覇者ジャスパー・ストゥイヴェンや優勝候補筆頭のカレブ・ユアンほか、2019年覇者ジュリアン・アラフィリップ、2015年覇者ジョン・デゲンコルプ、ソンニ・コルブレッリ、サム・ベネットなど、優勝候補たちが次々と欠場を発表。

一方で元々はもう少し療養するはずだったマチュー・ファンデルプールがサプライズ復帰参戦するなど、例年以上に優勝予想の難しい状態でのスタートとなった。

8名の逃げ集団は予定通り着実にタイム差を縮められていき、残り30㎞を切って最初の勝負所チプレッサに到達する頃には4名に。アスタナ・カザフスタンチームのエフゲニー・ギディッチ(カザフスタン、25歳)、バルディアーニCSF・ファイザネのアレッサンドロ・トネッリ(イタリア、29歳)、EOLOコメタのサミュエーレ・リーヴィ(イタリア、23歳)とディエゴパブロ・セビーリャ(スペイン、26歳)。なお、残り50㎞を切った段階で、優勝候補の1人であったイネオス・グレナディアーズのトム・ピドコックは脱落している。


残り27.2㎞から始まる最初の勝負所チプレッサ。登坂距離5.6㎞、平均勾配4.1%、最大勾配9%で残り21.6㎞で頂上に達する長く厳しい登りではあるが、フィニッシュまでの距離もあり、例年アタッカーの飛び出しが見られるものの決定的なポジションにはなりづらい、そんなポイントである。

そのチプレッサの登りの直前で、トタルエナジーズのエース、過去2位も2回獲っている優勝候補の1人ペテル・サガン(スロバキア、32歳)がメカトラブル。バイク交換で完全に遅れたサガンだが、チームメートはとくに救出に降りてくる様子はなく、自力で戻れなければ昨年10位のもう1人のエース、アントニー・テュルジス(フランス、27歳)で勝負に出るという構えのようだ。

そして残り27.2㎞。チプレッサの登りが始まる。先頭はリ―ヴィが全力で牽引し、その後ろにトネッリがつく。

およそ1㎞差、タイム差でいえば2分10秒差でこれを追いかけるメイン集団ではユンボ・ヴィズマのエドアルド・アッフィニが先頭牽引し、2番手にネイサン・ファンフーイドンク。平坦要員がこの重要な勝負所に向けて、エースをしっかりと先頭付近に置くための仕事をしていく。バーレーン・ヴィクトリアスもジョナサン・ミランがダミアーノ・カルーゾを引き連れて先頭付近に。アルペシン・フェニックスもマチュー・ファンデルプール含め3枚が先頭付近に。

そしてメイン集団もいよいよチプレッサに。

すると、UAEチーム・エミレーツのオリヴェイロ・トロイア(イタリア、27歳)が先頭に立って一気に加速。

ユンボ・ヴィズマも負けずに新加入トッシュ・ファンデルサンド(ベルギー、31歳)が先頭に立ち、その背後にファンフーイドンク、ワウト・ファンアールト、クリストフ・ラポルトの順で隊列を作り主導権を握り返す。

エリア・ヴィヴィアーニがここで脱落。先頭はトネッリとリ―ヴィの2人だけが抜け出し、ギディッチとセビーリャは脱落。

メイン集団ではタデイ・ポガチャルがポジションを上げていく。

集団はすでに5~60名程度。UAEチーム・エミレーツのヤン・ポランツ(スロベニア、29歳)がさらに前に出て加速。

先頭ポランツの後ろにはクリストフ・ラポルト、ファンフーイドンク、ファンアールト、ポガチャルの順。ビニヤム・ギルマイやマチュー・ファンデルポールも前の方に姿を見せている一方、ジャスパー・フィリプセンの姿はない。クイックステップも集団コントロールに全く参加できておらず。

さらに先頭のUAEチーム・エミレーツはダヴィデ・フォルモロ(イタリア、29歳)に交代。次々とアシストを切り替えながら加速していく。

その結果、クイックステップのエース、ファビオ・ヤコブセンがここで遅れる。

先頭フォルモロ、ラポルト、ファンアールト、ポガチャル、ミハウ・クフィアトコフスキ、プリモシュ・ログリッチ。

集団はおそらく40名程度。山頂まではあと1.5㎞。

集団は30名を切る。ポガチャルは常にアシストが1枚という状態が続いており、元々可能性として考えられていた、コーヴィやウリッシがポッジョで勝負を仕掛け、ポガチャルはチプレッサからの独走を狙う――という形は、取るのが難しそうだ。それはユンボによるガチガチの体制が抑えたという見方もできるだろう。

残り21.8㎞。逃げからこぼれていたセビーリャとギディッチがフォルモロを先頭にしたメイン集団に飲み込まれ、先頭2名とは41秒差。

フォルモロ、ラポルト、ログリッチ、ファンアールト、ポガチャル、クフィアトコフスキの順番。ダミアーノ・カルーゾが、マテイ・モホリッチを牽き上げて前の方に上がっていく。

そして下りに突入。

メイン集団は27名。クイックステップはセネシャル、イネオス・グレナディアーズはクフィアトコフスキがそれぞれ単独の様子。

UAEはフォルモロが先頭でその後ろにウリッシ、ポガチャルの3枚。ユンボ・ヴィズマはラポルト、ログリッチ、ファンアールトの3枚。ほか、グルパマFDJがアルノー・デマールとカンタン・パシェの2枚、マイケル・マシューズ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)、アントニー・テュルジス(トタルエナジーズ)、マッス・ピーダスン(トレック・セガフレード)、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)、ブノワ・コヌフロワ(AG2Rシトロエン・チーム)、ミケル・ヴァルグレン(EFエデュケーション・イージーポスト)、ジャコモ・ニッツォーロ(イスラエル・プレミアテック)などが単独で残っている。

そしてバーレーン・ヴィクトリアスはダミアーノ・カルーゾとマテイ・モホリッチとあとはヤン・トラトニクかな? 3枚いる。モビスター・チームもイバン・ガルシアとアレックス・アランブル。

先頭からフォルモロ、ウリッシ、ポガチャル、ラポルト、ログリッチ、ファンアールト、クフィアトコフスキ、ピーダスン、ファンデルプール、デマール、パシェの順で並ぶ。

昨年もチプレッサで30名程度に絞り込まれてその後ポッジョまでの間に80名近くにまで膨れ上がっていたが、今年はフォルモロがポッジョの麓までの仕事と覚悟を決めて全力牽引をしたことで(あるいはチプレッサで上げまくったことで)後続集団が追いつく気配を見せず、絞り込まれた27名のままでポッジョ・ディ・サンレモに突入することに。

そしてポッジョ。

まずはラポルトが一気に先頭でペースアップ。その後ろにファンアールト。ログリッチは一旦下がる。逃げていた2名も吸収される。

ウリッシがたまらずポジションを下げ、ファンアールトの後ろの3番手の位置にはポガチャル。クフィアトコフスキが4番手。

だがウリッシもここで執念でポジションを上げる。残り8.5㎞。ウリッシの残る力をすべて出し尽くす全力のアシスト。

ウリッシ、ポガチャル、ファンアールト。ラポルトは脱落し、ログリッチが前の方に戻ってくる。そしてログリッチの後ろにマチュー・ファンデルプール。

そして残り8.2㎞。ポガチャルが早くもアタック。ファンアールトが反応。二人が少しだけ抜け出す。

ちょっと離れてミハウ・クフィアトコフスキ、さらにマチュー・ファンデルプールもそれを追い抜いてポガチャル&ファンアールトを引き戻した。

一旦落ち着く先頭。しかし残り7.7㎞。ポガチャルが2回目のアタック。今度はここに、アレックス・アランブルが飛びつく。少し離れてファンアールト、ログリッチ、ファンデルプール。

ファンアールトも焦らずマイペースでギャップを詰め、先頭2人を捕まえる。

残り7.4㎞。ポガチャルの3度目のアタック。後方では20番手くらいのところで落車が発生。

残り7.1㎞。今度はログリッチがアタック。ファンデルプールがここに食らいつく。

残り6.6㎞。ポガチャルの4度目のアタック。しかし、離れない。ポガチャル、首を振る。

残り6.4㎞。例年の勝負所となる山頂まで1㎞、最大勾配8%の激坂区間にて、昨年終盤にアタックして抜け出したセーアン・クラーウアナスンが加速。ここにポガチャルが飛びつく。

ポガチャルにとって、自らの力では抜け出せなかった中で、このクラーウアナスンのアタックはありがたいアシスト。クラーウアナスンもしばらくダンシングを続け、残り6.1㎞で腰を下ろす。

この先頭2名にファンアールトとファンデルプールが追いつく。先頭は4枚で山頂まで500m。追走集団の先頭はマイケル・マシューズ。


そして下りに。追走集団の中からこの下りで一気にマテイ・モホリッチが飛び出してきて、先頭4名に追い付いたかと思えばその先頭に躍り出る。

そして残り4.5㎞。

鋭角カーブの続く下りで、モホリッチが単独で抜け出す。

マウンテンバイクで使われているというドロッパーシートポストを持ち込んできたというモホリッチ。ロードでは重量が上がるということで決してメジャーではないその機構は、重心を下げエアロフォームを形成し下りでは圧倒的に速くなるらしい。その「完全下りシフト」の戦略通りに飛び出したモホリッチは、そのまま独走を開始した。

ラスト2.3㎞。下りが終わり、フィニッシュまでの平坦路「ヴィア・ローマ」。昨年はジャスパー・ストゥイヴェンが独走で駆け抜けたこの平坦路に突入したモホリッチは、後続の追走集団と7秒差。集団ではポガチャル、ファンアールト、ファンデルプールが互いに牽制状態。ペースが上がらない!

残り700mのクランクも単独で駆け抜け、集団からはアントニー・テュルジスが単独で飛び出してくるが、しかしモホリッチまでは遠い。

残り50m。後ろを振り返り、勝利を確信したモホリッチが上体を上げ、両腕を2回力強く振り下ろし、胸元のスポンサーを強調しながらフィニッシュ。そして最後は、両手を天に突き出した。

テュルジスが2位。そして集団の先頭を獲ったのはこれが復帰初戦となったファンデルプール。「いつもの」牽制合戦に巻き込まれて勝機を失ったファンアールトは8位に沈むこととなった。


これまでも5位(2019年)、10位(2020年)、11位(2021年)と常に上位には絡みつつ勝利までは遠かったモホリッチ。

最後のスプリント勝負になれば絶対に勝つことのできない彼が、得意の下りで「最初からの狙い通り」仕留めた見事な勝利によって、ロードレース界最高の栄誉の一つをその手に掴み取った。

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