ツール・ド・フランス2021 第11ステージ
第11ステージはソルグからマロセーヌまでの198.9km山岳ステージ。
今大会の目玉の1つである「死の山」モン・ヴァントゥ「2回登坂」ステージ。
そして最後は下りフィニッシュ。第1週に続き、タデイ・ポガチャルが圧倒的な力を見せつけるのか。それとも、これを凌駕する男が現れるのか。
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2つの「死の山」に挑む前に、プロトンはしばし平坦と小さな起伏を経験する。
32.1㎞地点に位置する最初の4級山岳は、序盤からアグレッシブに動いた世界王者ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)が山岳賞ジャージを着るナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)を突き放して先頭通過。
続く中間スプリントポイント(40.2km地点)もそのままアラフィリップが先着。さらに43.7㎞地点の4級山岳の登りでアラフィリップはダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション)と共に抜け出し、そこにアントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)とピエール・ローラン(B&Bホテルス・p/b ホテルス)が追いついて先頭は4名に。
最初彼らと共に動いていたヤコブ・フルサン(アスタナ・プレミアテック)やニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・NIPPO)などは集団に引き戻され、代わって抜け出してきた選手たちを含め以下の17名の逃げが形成されたところで集団が沈静化。ようやく逃げが確定した。
ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション)
ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
アントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)
ピエールリュック・ペリション(コフィディス・ソルシオンクレディ)
ピエール・ローラン(B&Bホテルス・p/b KTM)
カンタン・パシェ(B&Bホテルス・p/b KTM)
ヴェガールステイク・ラエンゲン(UAEチーム・エミレーツ)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)
ジュリアン・ベルナール(トレック・セガフレード)
ケニー・エリッソンド(トレック・セガフレード)
バウケ・モレマ(トレック・セガフレード)
ニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)
クサンドロ・ムーリッセ(アルペシン・フェニックス)
クリスティアン・ズバラーリ(アルペシン・フェニックス)
グレッグ・ファンアーヴェルマート(AG2Rシトロエン・チーム)
ブノワ・コヌフロワ(AG2Rシトロエン・チーム)
ルーク・ダーブリッジ(チーム・バイクエクスチェンジ)
もちろんこの逃げは、残り124.6㎞地点から始まる1級山岳コル・デ・リギエール(登坂距離9.3km、平均勾配6.7%)の登りでバラバラになり始め、その後一旦一つになったかと思えば、その直後から始まる1つ目の超級モン・ヴァントゥ(登坂距離22km、平均勾配5.1%)の登りで決定的に分裂した。
「ソー」から登る比較的緩やかな1回目のモン・ヴァントゥー登坂。それでも、最初の1級山岳を先頭通過したダニエル・マーティンも脱落し、先頭はベルナールとエリッソンドのトレックコンビニアラフィリップ、ペレス、ムーリッセ、ダーブリッジ、そしてワウト・ファンアールトの7名だけ。
先頭はアラフィリップが獲得し、一気に20ポイントを獲得。
続いて長い下りの先で残り37.7㎞地点から始まる2つ目の超級モン・ヴァントゥ(登坂距離15.7km、平均勾配8.8%)に突入。
「べドアン」からの、いつもの厳しい登り。ここでさすがにダーブリッジやムーリッセ、そしてペレスらが脱落する一方、一度遅れていたモレマが先頭に復帰してトレックは3名に。ベルナールが全力で牽引し、仕事を終えると共に、そこからエリッソンドがアタックを敢行した。
かつて、アングリルを制し、ティボー・ピノの「次」と期待された男。その後、チーム・スカイへと移籍し、2018年のジロ・デ・イタリアのあの「伝説」の80㎞独走勝利における最終発射台を務めた男。
このアタックに、即座に反応したアラフィリップだったが、そのパワーはすぐに萎んでしまい、エリッソンドは単独で山頂に向けて駆け上っていく。ファンアールトも無理せずペース走行を続け、モレマも当然前を牽く理由はないために、トレック・セガフレードにとって理想的な展開が形作られた。
しかし、ここからファンアールトがひたすら強かった。
決してアタックするわけでなく、TTスペシャリストらしい一定ペースのクライミングで静かにアラフィリップとモレマを突き放す。
一旦は30秒弱までタイム差を開いて先頭に立ったエリッソンドにあっという間に追いついたファンアールトは、そのままエリッソンドの前に立ってペースを維持。何度か背後のエリッソンドに前を牽くように促すものの、エリッソンドは後ろにモレマがいるからか――あるいは単純に、ファンアールトのペースが速すぎて前に出る余裕がないのか――これを拒否。
やがて残り33.1㎞。山頂までまだ10㎞以上残っている段階で、ファンアールトはエリッソンドを突き放し、単独先頭に立った。
後続では限界を迎えたアラフィリップを突き離してモレマが単独でブリッジを仕掛けてエリッソンドと合流。
2人で先頭のファンアールトを追いかけるが、結局このベルギー人シクロクロッサーでありかつ最強スプリンターでありながらオリンピックTTベルギー代表でもある男の背中を見ることは二度となかった。
そのまま2回目のモン・ヴァントゥー山頂を先頭通過し、危なげなく(むしろ後続とのタイム差を開いていく勢いで)長い下りを下り切り、そして前日のピュアスプリントステージで2位になった男が、翌日のこの超級山岳ステージで見事な逃げ切り勝利を果たした。
そして、この2回目モン・ヴァントゥーの登りで、総合勢も当然、ヒートアップ。
登り始めでは4枚いたUAEチーム・エミレーツのアシストも、イネオス・グレナディアーズが強力に牽引を続けていく中で次々と剥がれ落ちていき、山頂まで4㎞を切ったところで最後のアシストであるラファウ・マイカも脱落した。
そして先頭はミハウ・クフィアトコフスキ、リチャル・カラパス、タデイ・ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴー、アレクセイ・ルツェンコ、エンリク・マス、ウィルコ・ケルデルマンの7名だけに。
クフィアトコフスキが必死の形相で先頭を牽引。最後はいつも通りのオールアウトで完全に立ち止まったかのようなペースで脱落。山頂まで残り2㎞。総合6位マスはこのタイミングで失速。
そして山頂まで残り1.5㎞。
ここで、最初に攻撃を仕掛けたのは、総合4位ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)だった。
当然、すぐさまポガチャルが反応。カラパスもウランもこれに食らいつこうとするが、少し離される。さらにケルデルマンとルツェンコは完全に脱落。
山頂まで1㎞。ここでなんと、ヴィンゲゴーがポガチャルを突き放す。
着実にそのタイム差が開いていき、山頂に到達した段階では30秒差。
完全無欠と思われていたポガチャルが初めて弱みを見せた瞬間であった。
だが、そのあとの下りでポガチャルは冷静に後続のウラン、カラパスを待って共に安全に下ることを心掛け、最終的には無理なくヴィンゲゴーに追いついて同タイムフィニッシュとなった。
結局、ヴィンゲゴーのアタックは、結果だけを見れば無駄に終わった。
しかし、今回の彼の走りはとても重要な可能性を見せることとなった。
今週末にはアンドラの標高2,400m超えステージ。第3週には超級山岳山頂フィニッシュ×2が待ち構えており、まだまだ何が起こるかわからない。
今年のツール・ド・フランスはまだ終わっていない。
むしろ、ここからが本番である。
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