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ブエルタ・ア・エスパーニャ2022 第15ステージ

高地トレーニングのメッカでもある「スペインの天井」シエラ・ネバダ。ここで今大会最大の戦いが繰り広げられることになる。最後は超級シエラ・ネバダ(登坂距離19.3㎞、平均勾配7.9%)。いよいよ、総合争いにおけるもっとも重要な戦いが始まる。


この日も序盤から激しいアタック合戦。最初にローハン・デニス、ヴィンツェンツォ・ニバリ、ヒュー・カーシーという実に豪華な3名が抜け出し、その後マッス・ピーダスンを含む追走集団が追いついてきて先頭は29名に。

ローハン・デニス(ユンボ・ヴィズマ)
サム・オーメン(ユンボ・ヴィズマ)
ニコラ・プロドム(AG2Rシトロエン・チーム)
ダビ・デラクルス(アスタナ・カザフスタンチーム)
ヴィンツェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザフスタンチーム)
ジーノ・マーダー(バーレーン・ヴィクトリアス)
フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)
ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)
ルーベン・フェルナンデス(コフィディス)
リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)
ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)
ルディ・モラール(グルパマFDJ)
セバスティアン・ライヒェンバッハ(グルパマFDJ)
リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)
ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
オメル・ゴールドスタイン(イスラエル・プレミアテック)
ネルソン・オリヴェイラ(モビスター・チーム)
ファウスト・マスナダ(クイックステップ・アルファヴィニル)
ルイス・フェルヴァーケ(クイックステップ・アルファヴィニル)
ローソン・クラドック(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
テイメン・アレンスマン(チームDSM)
マッス・ピーダスン(トレック・セガフレード)
アントニオ・ティベッリ(トレック・セガフレード)
マルク・ソレル(UAEチーム・エミレーツ)
ブランドン・マクナルティ(UAEチーム・エミレーツ)
クサンドロ・ムーリッセ(アルペシン・ドゥクーニンク)
ジェイ・ヴァイン(アルペシン・ドゥクーニンク)
シャビエルミケル・アスパレン(エウスカルテル・エウスカディ)
エリー・ジェスベール(アルケア・サムシック)

ステージ2勝と絶好調のリチャル・カラパスのほか、ユンボ・ヴィズマがローハン・デニスとサム・オーメン、クイックステップ・アルファヴィニルがファウスト・マスナダとルイス・フェルヴァーケという、それぞれセカンド・サードエースアシストを逃げに乗せている完璧な前待ち体制。

激しい戦いを予感させる布陣となった。


タイム差は残り90㎞を切った時点で5分半近くまで広がっていったが、そこから少しずつAG2Rシトロエン・チームのクレモン・シャンプッサンやボブ・ユンゲルスなどが積極的に前を牽き始める。

逃げに乗っているメンバーの中には総合11位のテイメン・アレンスマンや総合13位のジェイ・ヒンドレー、総合14位のルイス・メインチェスなども含まれており、彼らから1分ちょっとしかタイム差のない総合10位ベン・オコーナーの総合順位を守るため、AG2Rとしても何としてでもこの逃げを捕まえる必要があった。

逃げ集団からはローソン・クラドックが単独で飛び出し、最大で1分半のタイム差を残りの逃げ集団からつける。だが、残り48.6㎞地点から1級山岳アルト・デル・プルシェ(登坂距離9.1㎞、平均勾配7.6%)の登りが始まると少しずつそのタイム差を失っていき、山頂間際では追走集団から飛び出したジェイ・ヴァインに追い抜かれ、ヴァインはそのまま1級山岳山頂を先頭通過。山岳賞ジャージを守るための追加点をきっちりと稼ぎ取った。

メイン集団では大きな動きが起きないまま残り30㎞を通過。プロトンの先頭はユンボ・ヴィズマのロベルト・ヘーシンクとクリス・ハーパー。レムコ・エヴェネプールのアシストはイラン・ファンヴィルダーのみ。先頭とのタイム差は4分50秒。

そしていよいよ超級シエラ・ネバダ(登坂距離19.3㎞、平均勾配7.9%)の登りが始まる。その登り口にいきなりの20%勾配区間が存在し、この日最大の勝負が予想されていた。

だが、ここで思いがけず、先頭からユンボ・ヴィズマのアシスト、サム・オーメンとローハン・デニスが落ちてくる。てっきり激坂区間を終えたあとの緩斜面で合流すると思っていたが、かなり早いタイミングでの合流であった。クイックステップも同じく逃げに乗せていたマスナダがここで合流するが、まだルイス・フェルヴァーケが先頭に残っている。なおこのマスナダが、直後の下り区間で落車して早速脱落。今大会は実力ほどの活躍ができずに終わっている。

先頭集団では登り口の激坂でマルク・ソレルがアタックして独走を開始。メイン集団ではサム・オーメンがアタックする・・・が、ログリッチはここに食らいつけず、攻撃は失敗。

直後にオーメンもデニスも脱落し、結局ログリッチのアシストはハーパーただ一人に。エヴェネプールもファンヴィルダーが脱落したものの、まだ先頭にフェルヴァーケが残っており、前待ち作戦はユンボ・ヴィズマが一方的に失敗に終わった形となる。

残り19㎞。先頭ソレルから3分6秒差のメイン集団からハーパーが脱落し、ログリッチは一人だけに。逃げ集団からは2勝しているカラパスが脱落し、アレンスマンがこの集団先頭で一気にペースアップしていく。

ログリッチはひたすら前を牽いて加速。エヴェネプールに休ませないため、足を削り続けるため、ここはやれることをやるしかない。

だが、エヴェネプールも離れず、逆に残り18㎞地点から先頭でペースを上げていく。その後ろについていたログリッチもあえてマスやロペスの背後に番手を下げる姿。これは彼にしては珍しい。きついのか?

残り16㎞。逃げに乗っていたルイス・フェルヴァーケがここでエヴェネプールたちと合流。そのまま先頭を牽き続け、これは前待ち作戦としては理想的な展開。

そして残り11㎞。このエヴェネプール集団(フェルヴァーケ、エヴェネプール、ロペス、マス、ログリッチ、オコーナー)から総合6位(6分2秒差)ミゲルアンヘル・ロペスがアタックする。2017年の第15ステージで同じくこのシエラ・ネバダ山頂フィニッシュとなったときに勝利した男だ。

さらに残り10.5㎞地点で今度は総合3位(2分43秒差)のエンリク・マスがアタック。彼から54秒差しかない総合2位ログリッチはこれを静観。行かないのか、行けないのか。

飛び出したロペスには逃げから落ちてきたダビ・デラクルスが合流し、前を牽く。アスタナ・カザフスタンチームもこの日は前待ちを成功させた形だ。

残り9.5㎞。フェルヴァーケが力尽きて脱落。エヴェネプールが先頭に立つ。本来であればマスが飛び出して総合2位の座が危うくなっているログリッチが前を牽かなくてはいけないはずだが、やはり行けないのか、前に出ようとしない。エヴェネプールも何度か背後のオコーナーに先頭交代を要求しているようだが、あまり強くは言わず、黙々と前を牽いていく。

このまま最後までエヴェネプールのペースで終わるのか?


残り7㎞。単独で追走し続けていたテイメン・アレンスマンが先頭のソレルに合流。そのまま彼を突き放して独走を開始する。

残り5㎞。デラクルスが脱落し、ロペスがマスを引き連れて加速。残り4㎞でこの2人がジェイ・ヴァインらを含んだ第2集団に合流した。

そして残り1.5㎞。ここまでひたすらエヴェネプールに前を牽かせ後ろで耐えていたプリモシュ・ログリッチが、ここでアタック! オコーナーはすぐさまその背後につくが、ここでエヴェネプールがついていけない!

ログリッチはやはり残していた。そしてエヴェネプールはしっかりと足を削られていた。ここまでエヴェネプールに力の差を見せつけられていたログリッチも慌てず、しっかりとやれることをやりながら食らいつき、そしてこの第14ステージ・第15ステージで、冷静に状況を判断しながら効果的なタイミングでの攻撃を繰り出した。

まさに、不屈の男。


そして先頭ではアレンスマンがそのまま単独のままフィニッシュラインに到達。2018年ツール・ド・ラヴニール総合2位。若手育成に定評のあるサンウェブ~DSMで武者修行を積み、今年ツアー・オブ・ジ・アルプス総合3位とジロ・デ・イタリアでの(TT含む区間2位2回&区間5位といった)活躍を経て、今年DSM最終年。イネオス・グレナディアーズへの移籍なども囁かれるが、その可能性を十分に感じさせる強さを発揮して見せた。

年齢表記はすべて2022/12/31時点のものとなります。


マスはログリッチからボーナスタイム込みで27秒奪い、そしてログリッチはエヴェネプールから15秒を奪った。

逆にエヴェネプールもまた、この日想定されていた最悪のシナリオを考えればかなり守り切ることができたと言っても良いだろう。何しろ、これで今大会最も厳しいステージを乗り切ることができた。ログリッチとのタイム差は1分34秒。ログリッチにとっても、決して低い壁とは言えないだろう。


とは言え、ログリッチの連日の攻撃に、着実に貯金を切り崩しつつあるエヴェネプール。この先、第3週に向けて、さらにコンディションが下り坂となり、逆にログリッチが上り坂となるのであれば、最後までどうなるかわからない。もちろん、エンリク・マスの存在もまだまだ、恐い。

最後まで何が起こるか分からない、実に白熱するブエルタ・ア・エスパーニャ。いよいよ、第3週が始まる。第2週よりもイージーと思われていたこの3週目のグアダラマ山脈決戦が、思わぬドラマの舞台となるかもしれない。

何しろ2015年ブエルタのあの最後の奇跡の逆転劇を演出したのは、まさにこのマドリード近郊の山脈なのだから。


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