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パリ~ニース2021 第3ステージ

「太陽へと向かうレース」「ミニ・ツール・ド・フランス」の異名で知られる、サイクルロードレースシーズンの本格開幕を告げる8日間のステージレース。

第3ステージはサントル=ヴァル・ド・ロワール地域圏の町ジアンを舞台にした14.4㎞の個人TT。

全体的には平坦基調ながらラスト400mが平均6.3%の勾配。実際に映像で見ると数値以上の厳しさを誇るフィニッシュレイアウトを舞台に、単純な平坦TTに強いTTスペシャリストだけでなく、総合系ライダーも交えた熾烈な争いが繰り広げられる。

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最初にトップタイムを叩き出したのは当然この人。過去2回の世界王者に輝いている稀代のTTスペシャリスト、ローハン・デニス。

現世界王者フィリッポ・ガンナがいない中、本日の優勝候補筆頭である彼は、昨年のジロ・デ・イタリアでの強烈な山岳アシストからも分かるように登坂も苦にしないタイプのオールラウンダーでもあり、本日のフィニッシュレイアウトもその走りを阻害するものではなかった。

とはいえ、パトリック・ベヴィンに3秒差にまで迫られているその記録は、決して彼の実力を十分に発揮できた結果とは言えなさそうであった。

きっと塗り替えられるタイミングがこの後にくる。その予想は、デニスのフィニッシュから1時間半以上が経過したそのときに実現した。

セーアン・クラーウアナスン。チームDSMに所属するデンマーク人。昨年のパリ~ニースの個人TTでも優勝した彼は、この日のような厳しすぎない程度のアップダウンを特徴とする短~中距離のTTを最も得意としていた。

その実力を遺憾なく発揮し、デニスのタイムを3秒更新するクラーウアナスン。

このクラーウアナスンに迫る走りを見せたのが、この日の優勝候補の1人であり、今大会の総合優勝候補筆頭であるプリモシュ・ログリッチ。

6.5㎞地点に用意された中間計測地点ではクラーウアナスンのタイムから2秒遅れではあったログリッチだったが、フィニッシュの登りでは明らかにログリッチ有利。

実際に平均6%超えの手ごたえのある登りを、他の選手たちとは比べ物にならない軽快さで駆け上がっていくログリッチは、最終的にクラーウアナスンのフィニッシュでの記録をさらに4秒上回った。


このままログリッチが優勝なのか――そんな風に思っていた中で、さらなる強さを見せつけたのがフランスTT王者、レミ・カヴァニャだった。

「クレルモン・フェランのTGV」の異名で知られる超特急ライダーは、中間計測でまずはクラーウアナスンの記録を3秒上回る快進撃を見せる。

さらに最後の登りも、昨年のツール・ド・フランス第20ステージのラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山岳TTでも区間6位に入るさすがの登坂力で乗り切り、最終的にもログリッチから6秒差をつけての暫定首位に立った。


だが、そんな中、圧倒的と思われていたカヴァニャの中間計測の記録をさらに3秒上回る男が現れる。

彼の名はシュテファン・ビッセガー。昨年の8月からEFエデュケーション・NIPPOでプロデビューを果たしたばかりの22歳のスイス人。

元トラック選手でTT能力とスプリント力には定評があり、今年のUAEツアー第2ステージのTTではフィリッポ・ガンナに次ぐ2位。

だが今回はそれよりももっと登りもあるし・・・と思っていたが、思えば彼は丘陵ステージでも軽々とこれを乗り越えて最後のスプリントで勝ってしまうような男だった。

驚異の独走力は最後まで続き、前半戦でカヴァニャから稼いだ貯金を使い果たす形にはなったものの、フィニッシュラインをカヴァニャから0.8秒上回るギリギリの勝利を掴み取った。

第3ステージ

前日までの中間スプリントポイントでのアグレッシブさと第2ステージの区間3位とで集めたボーナスタイムによってこの日マイヨ・ジョーヌを着用することのできていたマイケル・マシューズも、ビッセガーから23秒遅れの17位と健闘はしたものの、そのアドバンテージを本日のTT上位勢によってがっつりと奪い取られ、最終的には総合5位に沈んだ。

そして、ビッセガーがステージ勝利だけでなく、マイヨ・ジョーヌも獲得。まだ「ネオプロ1年目」のこの男の、偉大なる戦績となった。


想像を超える勢いで進化しつつあるこのビッセガー。そしてまた、カヴァニャも。

今後が楽しみな若者たちである。

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