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リエージュ~バストーニュ~リエージュ2022

シーズン4つ目のモニュメント。ベルギー南部ワロン地方の丘陵地帯を舞台に、グランツールで活躍するようなトップクライマーたちも入り混じり競う世界最古のクラシックレース。

前年覇者タデイ・ポガチャルも、2年前の覇者プリモシュ・ログリッチもいない中、誰が勝つのかわからない春のクラシック最終戦を振り返る。


逃げは11名。

ブルーノ・アルミライル(グルパマFDJ)
シルヴァン・モニケ(ロット・スーダル)
ハーム・ファンフッケ(ロット・スーダル)
ヤコブ・ヒンスガウル(Uno-Xプロサイクリングチーム)
バプティスト・プランカールト(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
ファビアン・ドゥベ(トタルエナジーズ)
ポール・ウルスラン(トタルエナジーズ)
ケニー・モリー(ビンゴール・パウェルス・ソーセスWB)
マルコ・ティッツァ(ビンゴール・パウェルス・ソーセスWB)
ルク・ヴィルトゲン(ビンゴール・パウェルス・ソーセスWB)
パウ・ミケル(エキッポ・ケルンファルマ)

最大で6分以上のタイム差を許したプロトンだったが、残り76㎞のコート・ド・ストック直前でクイックステップ・アルファヴィニルとバーレーン・ヴィクトリアスが隊列を作って加速。激坂かつ非常に狭いコート・ド・ストックに向けての位置取りの故だろうが、これでタイム差は一気に3分を切り、先頭11名からも5名が脱落し、6名に。

だが、悲劇はそのあと起こった。残り59.5㎞。森の中の細い道で、それを塞ぐかのような大落車が、比較的集団の前の方で発生。

これによりジュリアン・アラフィリップが即時リタイア。ほか、EFエデュケーション・イージーポストの選手がほぼ全員巻き込まれたり、散々な被害が巻き起こることとなった。

集団も一時期40名ほどに絞り込まれるが、やや後続を待つようなペースダウンもあり、残り50㎞を切るころには80名ほどに回復。

そして残り43.5㎞のコート・ドゥ・デニエ前後あたりから、バーレーン・ヴィクトリアスのミケル・ランダやダミアーノ・カルーゾなどが波状攻撃を仕掛けるなど集団が活性化し、その中でイネオス・グレナディアーズのトム・ピドコック、あるいはローレンス・デプルスなども落ちていく。


だが、決定的な動きは残り30㎞。「PHIL, PHIL, PHIL」で有名なコート・ド・ラ・ルドゥットにて巻き起こる。

登坂距離2㎞、平均勾配8.9%というこの非常に強烈な登りで、まずは先頭の逃げ集団からブルーノ・アルミライルが抜け出す。

さらにメイン集団では、不意を突くような形で、アシストの牽引でペースアップした集団の先頭から、レムコ・エヴェネプールが猛烈な勢いで抜け出した。

異様なほどに鋭いアタックだった。EFの選手が食らいつこうとしたが、すぐさま突き放され、ここからエヴェネプールの独走が始まった。


女子レースの方でも、このラ・ルドゥットでアネミエク・ファンフルーテンが最初のアタックを繰り出した。

これはSDワークスのマーレン・ローセルがすぐに貼りついてやがて引き戻されたが、その後残り22㎞から抜け出した逃げ巧者グレース・ブラウンが、独走を開始した。

だが、残り15㎞地点の最後の勝負所コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンは、アタック一発で30秒程度のタイム差は潰してしまうほどの最大難所。

実際、女子レースでもここでファンフルーテンが2度目のアタックを繰り出し、すぐさまブラウンを捕まえたかと思うと突き放し、そのまま独走を開始してしまった。


だから、エヴェネプールも、このラ・ロッシュ・オ・フォー・コンの登り口までの間に、最低でも30秒は大きく超えておく必要はあった。

残り25㎞地点で先頭アルミライルに追い付き、彼がツキイチでついてくるのも気にせず、まったく振り返ることなく先頭を突き進み続けるエヴェネプール。

だが、彼とメイン集団とのタイム差は33秒程度を上限とそれ以上開くことはなく、残り15㎞のラ・ロッシュ・オ・フォー・コンに突入。

きわどいタイム差であった。


コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン。登坂距離1.3㎞とラ・ルドゥットよりは短いものの、その平均勾配は11%とかなり厳しい。

今年激坂で弱みを見せているエヴェネプールにとっては、決して得意なタイプの登りではなかった。

もちろん、逃げていたアルミライルは敵ではなかった。一回も前を牽かせなかったが、ラ・ロッシュ・オ・フォー・コンに入るなり、ダンシングで懸命に食らいつこうとするアルミライルを、シッティングのまま淡々と振り切ったエヴェネプールは独走を開始した。

彼がデビュー初年度に成し遂げたクラシカ・サンセバスティアンでの勝ち方を思い出す。あのときもセオリー通りの位置よりもずっと早い段階で飛び出し、同伴者トムス・スクインシュを無慈悲に引き千切っていった。


だが、タイム差は30秒。もし、集団の中のワウト・ファンアールトやアレハンドロ・バルベルデなんかが、牽制などせず自らの力を信じて一気にアタックを仕掛ければ、そのタイム差は一瞬で埋まりかねないものであった。


が、メイン集団は動かなかった。数を揃えているバーレーン・ヴィクトリアスも消極的で、アシストに任せている始末。アタックすべきポイントを失い。集団のまま、この最後の勝負所を消化していった。

タイム差は30秒のまま。エヴェネプールの勝利がほぼ確定した。


もちろん、ラスト11㎞地点には、カテゴリのついていない「名もなき登り」が待ち構えている。例年、このラ・ロッシュ・オ・フォー・コンに続く密かなドラマの舞台として用意されたこの登りは、たとえば昨年の女子レースにおいて、ラ・ロッシュ・オ・フォー・コンで遅れたマリアンヌ・フォスが一度追いつきそうになったところで、この「名もなき登り」にて再び突き放された、という事態を招いていた。

だが、できてそれくらいである。結局はラ・ロッシュ・オ・フォー・コンほどの破壊力はなく、この登り単体で30秒差を埋めることは難しい。

実際、この「名もなき登り」にて、メイン集団からマイケル・ウッズ、そしてアレクサンドル・ウラソフが立て続けに加速し、ワウト・ファンアールトとアレハンドロ・バルベルデが脱落し、エヴェネプールとのタイム差も20秒にまで縮めることができたが――それだけだった。


あとはもう、長いエピローグだけである。フラムルージュが見えるずっと前からエヴェネプールはガッツポーズを見せ、勝利を確信したまま、フィニッシュラインへと飛び込んでいった。

いつも独走勝利するときはクールな表情を見せることも多いエヴェネプール。だが、この日ばかりは非常に感情的な仕草、表情でフィニッシュ。「本来のエヴェネプールを取り戻せた」とフィニッシュ語に語っていた彼は、昨年のジロや世界選手権、今年のティレーノ~アドリアティコなどで見せた「失敗」に、色々と言われることの多い立場だったのだろう。

そのすべてを吹き飛ばし、彼はチームに今年最初のクラシックワールドツアーレース勝利をもたらした。雑念など気にせず、このまま、彼らしい走りを続けていってほしい。そしてまた、世界を驚かせ続けてほしい。

おめでとうレムコ。

年齢はすべて2022/12/31時点のものとなります。


2位争いの集団スプリントでは最後、ワウト・ファンアールトを差してクエンティン・ヘルマンスが先着。2021-2022シーズンはこれまで以上に好調なシクロクロスシーズンを過ごしていたヘルマンスだが、昨年のラ・フレーシュ・ワロンヌなどでも好成績を残しており、たしかにアルデンヌ系のレースは得意な方ではあった。

しかしまさか、モニュメントで2位に入り込むほどとは・・・。そもそも、「シクロクロッサーがロードレースでも強い」ブームの先駆け的な存在だった彼がここまで登り詰めていることに割と感慨を覚える。


これにて、春のクラシックは閉幕。クイックステップの苦戦、ユンボ・ヴィズマの栄光と転落。そしてイネオス・グレナディアーズの強さ・・・今年のクラシックも、多くのドラマが描かれていた。その最終幕に、こうしてクイックステップの勝利で締めくくられるというのは、なかなかに面白いものである。

このあとはいよいよグランツールシーズン。まずは火曜日からツール・ド・ロマンディ。そして再来週には、ジロ・デ・イタリアが開幕する。

引き続き、自転車ロードレースの熱いシーズンを突き進んでいこう。

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