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ストラーデ・ビアンケ2022

「白い道」を意味する、トスカーナの丘陵地帯と未舗装路を使用したサバイバルレース。例年、アルデンヌ・クラシックにも強いパンチャー/クライマーたちを中心にトップライダーたちが集い、歴史は浅いが「6番目のモニュメント」とも呼ばれることもあるレースだ。

今大会、ワウト・ファンアールトやマチュー・ファンデルポールなどは不在ではあるが、ジュリアン・アラフィリップ、タデイ・ポガチャル、アレハンドロ・バルベルデといった若手からベテランまで集い、どんなドラマが描かれるのか、なかなか予想がつかない。

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女子レース

男子レースに先駆けて行われた女子レースは、全長136㎞。但し、残り20㎞を切ってからの「ピンズート」「レ・トルフェ」「サンタカテリーナ通り」といった勝負所は男子と全く同一。女子レースとしてはかなり過酷な部類に入るレースであり、例年実力者だけが生き残る、紛れのない戦いが演出される。

この「ピンズート」突入直前に集団からロッテ・コペッキー(SDワークス)がアタック。独走を開始する。リブレーシングから移籍してきたベルギー王者。2年前のロンド・ファン・フラーンデレンで3位にも入っているクラシックスペシャリストだ。昨年の東京オリンピックロードレースでも4位に入るなど、登りへの適性もそこそこある。

メイン集団ではカタジナ・ニエウィアドマ(キャニオンスラム・レーシング)が先頭に出てペースアップを仕掛け、残り18.8㎞でコペッキーを捕える。

ロッテ・コペッキー(SDワークス)
アシュリー・ムールマン(SDワークス)
カタジナ・ニエウィアドマ(キャニオンスラム・レーシング)
アネミエク・ファンフルーテン(モビスター・チーム)
マリアンヌ・フォス(ユンボ・ヴィズマ)
セシリーウトラップ・ルドヴィグ(FDJヌーヴェルアキテーヌ・フチュロスコープ)

優勝候補が集まる先頭6名に対し、後続集団からはシリン・ファンローイ(トレック・セガフレード)がブリッジ。そこにデミ・フォレリング(SDワークス)がチェックに入り、2名が先頭に合流して8名に。

そして残された追走集団は次の8名。

リアヌ・リッパート(チームDSM)
フローチェ・マッカイ(チームDSM)
シャンタル・ブラーク(SDワークス)
エリーザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード)
グレース・ブラウン(FDJヌーヴェルアキテーヌ・フチュロスコープ)
エリーズ・シャベイ(キャニオンスラム・レーシング)
シルヴィア・ペルシコ(ヴァルカー・トラベル&サービス)
ヤラ・カステライン(Plantur-Pura)

残り17㎞。グラベル区間の終了と共に集団は1つに。

「最強チーム」SDワークスが4枚。数においては圧倒的有利であった。


その数の有利を活かして、SDワークスは波状攻撃を仕掛ける。

まずは残り15.5㎞。キャニオンスラム・レーシングのエリーズ・シャベイがアタックするのをフォレリングがしっかりと抑え込む。

残り14.3㎞。シャンタル・ブラーク(SDワークス)がアタック。得意の独走に持ち込む。昨年もこういった動きでブラークが逃げ切り勝利を決めている。

当然、集団はキャニオンスラムやFDJなど、数を残しているチームが牽く必要がある。FDJはブラウン、キャニオンスラムはシャベイ。それぞれのチームのアシストがしっかりと前を牽く。


残り13㎞。最後の勝負所「ル・トルフェ」に突入。集団がブラークを捕まえる。そして一旦下ってからの登り返しで、ファンフルーテンが先頭に飛び出してきて加速。すぐさまコペッキーが反応してその後輪にしがみつく。そしてフォレリングが前に出てきてペースを抑えにかかる。

だが残り12.2㎞。再びファンフルーテンが前に立って加速。コペッキーは食らいつくが、フォレリングはじめ残りの選手たちは全員突き放される。

先頭ファンフルーテンとコペッキー。コペッキーは積極的には牽かない。1週間前のオンループ・ヘットニュースブラッドでも、ファンフルーテンのフォレリングの2人で逃げる展開に。フォレリングも監督のアンナ・ファンデルブレッヘンの指示を受けながら一切牽かない戦略を取ったが、最後はスプリントでファンフルーテンに敗れてしまっていた。

今回もひたすら貼りつくコペッキー。最後のスプリントまで持ち込めれば有利だが、問題はその前の「サンタカテリーナ通り」の激坂。そこではさすがにファンフルーテンに引き千切られそうなので、できれば後続に追い付いてきてもらってSDワークスの数の有利を活かしたい。

追いかける追走集団はアシュリー・ムールマンとフォレリングのSDワークスが2名、そしてカタジナ・ニエウィアドマ、セシリーウトラップ・ルドヴィグ、マリアンヌ・フォス、エリーザ・ロンゴボルギーニの合計6名。

そしてこの追走集団はニエウィアドマとルドヴィグが牽く。SDワークスは牽かない選択肢を取る。
最終的に残り7.7㎞。ニエウィアドマとルドヴィグの牽引が功を奏して、先頭二人を引き戻した。


そして、セオリー通りのムールマンによるカウンターアタック。ファンフルーテンとがこれを抑え込んだ。
そしてこの一撃でマリアンヌ・フォスが落ちる。フォレリングがフォスの背後について牽制する。

残り6.2㎞。牽制し合う先頭集団にフォスが追いつく。その瞬間、反対側からフォレリングがカウンター。これもファンフルーテンが反応し抑え込んだ。

さらなるカウンターでニエウィアドマ。これも引き戻されると、フォレリングが一度落ちかけるが、先頭集団のペースが落ちたことで再び合流。

そしてさらなるカウンター。フォレリング。

フォレリングのアタックはさすがにもうキレがない。だが、その度にファンフルーテンが足を使わされている。

SDワークスの波状攻撃は、今大会最強のファンフルーテンを確実に苦しめていた。


ここからラスト1㎞のサンタカテリーナ通りの登りまでは平坦中心の落ち着いた展開に。ペースが落ちた先頭集団に、落ちていたグレース・ブラウンやエリーズ・シャベイ、シリン・ファンローイといった各チームのアシスト陣も復帰してきてストラーデ・ビアンケの終盤としては意外なほど大きな人数に膨れ上がっていく。

そしてグレース・ブラウンを先頭、2番手にシャベイといった形で集団がラスト1㎞、フラム・ルージュを通過する。

そして残り900m。3番手にいたファンフルーテンが加速を開始! すぐさまロッテ・コペッキーがその後輪に貼りつく。残り20㎞のピンズートで一度アタックしたものの、その後はル・トルフェでのファンフルーテンのアタックに反応した以外は、大きな動きはなく、チームメートのブラーク、ムールマン、フォレリングが主にアタックを繰り出していた。
コペッキーはこの日のチームの最終エースであったのは明確だった。そして今、ファンフルーテンの2回目のアタックに、しっかりと食らいついていった。

さらにムールマンもここに食らいつく。先頭は3名。エリーザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード)がここにブリッジしようとするが、届かない。

残り600m。最大勾配16%の超激坂区間が始まる。一度ムールマンが加速しようとするが、すぐにペースを上げたファンフルーテンに並び立つこともできず、そのままずるずると落ちていく。

だが、コペッキーは離れない。先頭ファンフルーテン。腰を上げ、全力のダンシングが40秒間に渡り続く。
その間、コペッキーはわずかにギャップを開きかける瞬間もあったが、だが、最後の最後まで、しっかりと耐え抜いた。

そして最後のカンポ広場へと向かう下りフィニッシュ。

残り250mからの右カーブではファンフルーテンがさらに加速してコペッキーと並び立つ。サイドバイサイド。まだどうなるかわからない。

だが残り100mの右カープではコペッキーが先頭に躍り出る。

そのまま、フィニッシュに突き進むコペッキー。最強ファンフルーテンに対し、チームメートの力もうまく活用しながら、見事、ストラーデ・ビアンケ初制覇を果たした。

ラストの超激熱「サンタカテリーナ決戦」の様子はこちらから

ル・トルフェ、そしてサンタカテリーナ通り。

2つの勝負所できっちり仕留めに来た最強ファンフルーテンをしっかりと抑え込んだコペッキーがひたすら強かった。

そしてそんなファンフルーテンの足を削るために、昨年覇者シャンタル・ブラーク、アシュリー・ムールマン、デミ・フォレリングといったSDワークスの「アナザー・エース」たちの見事な波状攻撃。

まさに、「女子界のウルフパック」。アンナ・ファンデルブレッヘンという最強を失った中で、決して個の力ではファンフルーテンやロンゴボルギーニには敵わない部分もあるかもしれないが、その分をチームワークを活かしながら見事勝ちきってくれたと言える。

今後の彼女らの活躍に更なる注目だ。


男子レース

逃げは9名。

リリアン・カルメジャーヌ(AG2Rシトロエン・チーム)
ダビデ・マルティネッリ(アスタナ・カザフスタンチーム)
サミュエーレ・ゾッカラート(バルディアーニCSF・ファイザネ)
エドアルド・ザルディーニ(ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)シモーネ・ベヴィラクア(EOLOコメタ)
セルヒオ・ガルシア(EOLOコメタ)
タコ・ファンデルホールン(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
マルコ・ブレンナー(チームDSM)
レオン・ハインシュケ(チームDSM)

中継開始直後に大落車が発生。ティシュ・ベノートも即時リタイアとなったこの落車で、きっかけとなったアルペシン・フェニックスの選手のすぐ後ろにいたジュリアン・アラフィリップは宙に舞う。
見事な前転を見せ受け身は取れていたようですぐに復帰し、一度はメイン集団に1分以上のタイム差をつけられたものの、ミケルフローリヒ・ホノレらアシストの活躍もあり、残り76㎞地点で集団に復帰する。

そして残り55㎞から始まる最初の勝負所「モンテ・サンテ・マリエ」に突入。すでに4名になっていた逃げ集団も残り52.4㎞ですべて吸収。そしてアラフィリップが前に出てペースアップを仕掛ける。その後ろにはティム・ウェレンス、そしてイスラエル・プレミアテックのサイモン・クラーク。

残り51㎞でポガチャルが加速。この勢いで集団がバラバラに。この時点ではまだ、ポガチャルは抜け出せない。

だが、残り50.2㎞のテクニカルな下りの部分で再びポガチャルがアタック。

そして、この瞬間、ポガチャルの独走が始まった。


じわじわと集団とのタイム差を広げていくポガチャル。イネオス・グレナディアーズのカルロス・ロドリゲスが単独で追走を仕掛けるが、残り43㎞時点で先頭ポガチャルと追走ロドリゲスとのタイム差は32秒。メイン集団とのタイム差はすでに1分6秒。

メイン集団では数を残しているクイックステップが、ピーター・セリーを中心に牽いていく。トレック・セガフレードもトムス・スクインシュが積極的にローテーションを回す。
だが、残り30㎞で先頭ポガチャルと追走ロドリゲスとのタイム差は1分10秒。メイン集団は1分33秒にまで広がる。

残り23㎞の「モンテアペルティ」が近づいていく中、いよいよ危機感を持ち始めたメイン集団はカスパー・アスグリーンとクイン・シモンズという、クイックステップとトレックのそれぞれのエース級が自ら先頭を牽いて追走を開始する。ロドリゲスも吸収される。

そして残り22.6㎞。先頭ポガチャルとメイン集団とのタイム差は1分2秒。着実に縮まっていくが、このモンテアペルティで、メイン集団からはアラフィリップが脱落。

やはりアラフィリップ、あの落車の影響が残っていたようだった。


そしてモンテアペルティではメイン集団から5名の選手が抜け出す。

カスパー・アスグリーン(クイックステップ・アルファヴィニル)
クイン・シモンズ(トレック・セガフレード)
アレハンドロ・バルベルデ(モビスター・チーム)
ティム・ウェレンス(ロット・スーダル
ヨナタン・ナルバエス(イネオス・グレナディアーズ)

大集団よりも、こういった強力な小集団が抜け出すことが、ポガチャル追走にとっては重要。
あとは、最後の勝負所「ピンズート」&「レ・トルフェ」で追い付けるかどうか。

残り19㎞。「ピンズート」。
追走5名からウェレンスがアタック。残り4名は一度見逃すが、すでにウェレンスはかなり苦しい状態だったようで、すぐさま失速し引き戻される。
そしてカウンターでアスグリーンがアタックし、抜け出した。
残り17.3㎞。先頭ポガチャルとアスグリーンとのタイム差は57秒。
残りの追走4名は1分4秒差。メイン集団は1分36秒差。


残り13㎞。「レ・トルフェ」。最大勾配18%の超激坂。

追走4名からアレハンドロ・バルベルデが抜け出して単独2番手のアスグリーンに追い付く。
だが、このレ・トルフェでポガチャルとのタイム差を縮められない以上、彼らに勝利の可能性はなかった。


最後のサンタカテリーナ通りの登りを、完全にウイニングランで駆け抜けていくタデイ・ポガチャル。
昨年のマチュー・ファンデルプールvsジュリアン・アラフィリップ、そして今年の女子レースのアネミエク・ファンフルーテンvsロッテ・コペッキーの激戦が嘘であるかのような、非常に落ち着いたポガチャルの登り。

やはりこの男は、不可能を可能にする男。
どんな常識も、彼の前ではいとも簡単に塗り替えられる。


タデイ・ポガチャル。ストラーデ・ビアンケ史上に残る? 50㎞独走勝利を見事に成し遂げた。(これまでの最長は19㎞だったらしい)

最後のサンタカテリーナ通りの登りでアスグリーンを突き放したバルベルデが2位フィニッシュ。相変わらず底知れぬ強さを持つ男である。
そして4位にヴァルテルが入ったこともまた驚き。昨年はジロ・デ・イタリアでマリア・ローザ着用も果たしている彼は、今年は母国開催のジロで、今度は最初から総合エースとして戦い結果を残すことができるか?


白熱した激戦を繰り広げた女子レース。

そして新たな歴史を創った若き才能の恐ろしさを感じさせた男子レース。

いずれにせよ、今年も激熱な展開を生み出してくれたレースであった。

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