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UAEツアー2021 第3ステージ

アラブ首長国連邦全域を舞台として開催される、今年最初のワールドツアーレース。平坦ステージと山岳ステージ、そしてTTとがバランスよく配置された7日間のステージレースである。

第3ステージはアブダビ・ツアー時代からの定番クイーンステージ、ジャベルハフィート山頂フィニッシュである。

登坂距離10.8km・平均勾配6.6%の今大会1つ目の本格的な山頂フィニッシュで、総合争いがどう動いていくのか。

注目の一戦である。

※記事中の選手名は最新のシクロワイアードの記事での表記に従い修正しております。例)ホアン・アルメイダ→ジョアン・アルメイダ等

↓プレビュー記事はこちらから↓


この日はラスト10㎞の山岳登坂開始までは平坦基調の動きのほとんどないステージということで、スタート直後に生まれたトニー・ギャロパン(AG2Rシトロエン)とトーマス・デヘント(ロット・スーダル)の2人逃げ以外は、とくに大きな動きが起きることはなかった。一応残り90㎞付近でイネオス・グレナディアーズが集団の前に出てきて横風分断作戦を仕掛けようとしていたらしいが、それが成功することはなかった。

登坂開始直前にギャロパンがデヘントを切り捨て独走を開始。デヘントは残り9.8kmで集団に捕まえられる。

登り開始と共に集団はあっという間に千切られていき、イネオス・グレナディアーズもアシストが2枚千切れる。注目されていたクリス・フルームも力なく集団の後方に追いやられていき、ツール・ド・ラ・プロヴァンスで活躍していたワウト・プールスも、2018年・2019年のツアー・オブ・オマーンで総合優勝しているアレクセイ・ルツェンコも、早々に遅れていってしまう。


集団の先頭は総合リーダーのタデイ・ポガチャル率いるUAEチーム・エミレーツが牽引。ポガチャルの前にはアシストが3名。

これに対抗するのがイネオス・グレナディアーズで、エースのアダム・イェーツの前には同様に3名のアシストが残っている。

一方、ドゥクーニンク・クイックステップはあまり前方に姿を見ることができず。5秒差でポガチャルを追う総合2位ジョアン・アルメイダにとって、状況はあまり良くなさそうだ。


UAEチーム・エミレーツのアシストがかなり早いペースでアシストを脱落させていく中、残り6㎞でイネオス・グレナディアーズが集団の支配権を奪う。

先頭を牽くのは今年からイネオス入りしたダニエル・マルティネス。ここから始まったペースアップによって、集団からはアルメイダにとって最も頼りになる存在だったはずの昨年ジロ総合9位ファウスト・マスナダが脱落。あとはマッティア・カッタネオだけになった。

さらにUAEチーム・エミレーツも残り5.6㎞で最後のアシストであるダヴィデ・フォルモロを失う。

集団の数は一気に13名ほどにまで絞り込まれ、元々マルティネスの後方に控え次の牽引役だったはずのイバン・ソーサまでも仕事をしないままに脱落する。

マルティネスの絶好調ぶりが際立つ局面であった。ツール・ド・ラ・プロヴァンスでもカルロス・ロドリゲスの強烈な牽引など、イネオスの「最強山岳トレイン」の復活を感じさせるような走りを披露していたが、それはこのUAEツアーでも同様であったようだ。

【ツール・ド・ラ・プロヴァンスでのイネオスの走りは下記を参照】


そんな中、残り5㎞でユンボ・ヴィズマのセップ・クスがアタック。

ここについていったのが、アダム・イェーツとタデイ・ポガチャルの2人だけ。ジョアン・アルメイダはここで一旦、遅れてしまう。

クスがリードして抜け出した3名は、一旦アダムが前に出てペースを落としたことで後続から数名が追いついてくる。EFエデュケーション・NIPPOのニールソン・ポーレス、セルジオ・イギータ、ボーラ・ハンスグローエのエマヌエル・ブッフマンなどが含まれる。

そこから再びクスとアダムとポガチャルの3名が抜け出し、残り4.2㎞でアダム・イェーツがアタック。クスはここで千切れてしまい、先頭はアダム・イェーツとポガチャルの2人だけになった。


ひたすらダンシングで先頭を牽き続けるアダム・イェーツ。ポガチャルはシッティングのまま冷静にその後ろに貼りつき、前に出ることはしない。

すでにアダム・イェーツとポガチャルとの総合タイム差は39秒ついており、ここでポガチャルが危険を冒す必要はない。

もちろん、後続に取り残された5秒差のジョアン・アルメイダとのタイム差を決定的なものにするという意味では牽く理由もあったが、すでに一度登坂で突き放しているアルメイダよりも、十分に登れているアダム・イェーツを優先して対処するべきと判断したのだろう。

タデイ・ポガチャル。まだネオプロ3年目の22歳にも関わらず、恐ろしい判断力である。

アダム・イェーツもそのことは十分に承知しており、ゆえに後ろに先頭交代を要求するような愚を犯すことなく、ひたすらダンシングでペースアップを仕掛け続ける。ここでは、力で千切れさせるほかに方法はない。

だが、ポガチャルもしっかりとシッティングのまま集中して引き離される様子を見せないため、アダム・イェーツも残り3㎞を手前にしてようやく腰をサドルに落とし、水を飲み始めるなどして小休止を入れる。


その間にこの先頭2名とのタイム差を20秒程度にまで縮めた追走集団は6名。アルメイダ、イギータ、ポーレス、ブッフマンにロット・スーダルの若手有望クライマーのハーム・ファンフック、そしてチームDSMのネオプロ3年目、フロリアン・ストークである。

先頭2名に一度突き放されたセップ・クスは、この追走集団からも遅れてしまった総合4位クリス・ハーパーを助けるために後退。ハーパーのところにまで戻るとこれを牽引し、追走集団6名への復帰を試みる。

そしてこの追走集団6名からはハーム・ファンフックがアタックしてここにアルメイダとポーレスが食らいつき、3名が抜け出す格好に。

アルメイダがここで全力の牽引を見せるも、先頭2名とのタイム差は再び40秒程度にまで広がっていった。


先頭2名はラスト800mでアダム・イェーツが最後のアタック。しかしこれでもポガチャルは突き放されることなくツキイチ。

残り500mで一度アダムとポガチャルとの間の隙間が開くが、これはポガチャルが次の瞬間にアタックするために、わざと空けたギャップであった。

そして案の定、繰り出されるポガチャルのアタック。2年前もこのタイミングでアレハンドロ・バルベルデがスプリントを開始して、プリモシュ・ログリッチを振り切った。

今回もまた、フィニッシュ直前に繰り返されるタイトなコーナーの連続でポガチャルがスプリントを開始し、アダム・イェーツはすぐさま反応するも、その背中に食らいつくのがやっと。

すでに削り切られてしまった足では、ポガチャルの横に並び立つことすらできなかった。


タデイ・ポガチャル、今期初勝利。

昨年のツール覇者が、今年も期待通りの強さを見せつける1勝となった。

【UAEツアー第3ステージ リザルト】

第3ステージ

結局アルメイダを含む6名の追走集団は48秒遅れでフィニッシュ。先頭はスプリント力のあるイギータが獲ることに。

セップ・クスによって助けられ続けていたクリス・ハーパーはこの追走集団においつくことはできなかったものの、なんとか区間9位には入り込む。

この結果を踏まえた総合順位は以下の通り。

第3ステージ終了時点の総合リザルト

クスの尽力のおかげでハーパーはギリギリで総合4位を死守。今後はポーレスとの間でこの順位を奪い合う形となるだろう。

アルメイダが脱落したことで、ポガチャルは総合優勝の可能性を飛躍的に高める結果に。

とはいえ、まだまだ油断できない。個人の戦いとしてはポガチャルに軍配が上がった今回の山頂フィニッシュではあったものの、チームとしての力ではUAEよりもドゥクーニンクよりも遥かにイネオスが上手であった。

残る山頂フィニッシュは1つ。第5ステージのジャベルジャイス山頂フィニッシュ。

総合争いはまだまだ、最後までどうなるかわからない。

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