ツール・ド・フランス2021 第5ステージ
第5ステージはシャンジェからラヴァルまでの27.2km個人タイムトライアル。ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏のマイエンヌ県を舞台とした中距離TTである。
全体的には平坦基調。総合勢にとっても大きな影響力を持ちうる重要なステージとなるこの日、昨年に続く「驚きの結末」が待ち受けていた。
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最初にトップタイムを叩き出したのはやはりこの男。9年連続のドイツ国内TT王者トニー・マルティン(ユンボ・ヴィスマ)が7番出走でそれまでのトップタイムのマルコ・ハラー(バーレーン・ヴィクトリアス)を11秒上回っての暫定1位となった。
意外な速さを見せたのが18番出走のセップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)。純粋なクライマーでTTは苦手というイメージのあった彼が、マルティンの記録を1分36秒更新する好走を見せて暫定1位に。
だが、やはりこの男は強かった。
世界選手権U23カテゴリで3年連続TT王者に輝いたミッケル・ビョーグ(UAEチーム・エミレーツ)。
クスの記録を1分近く上回るタイムを叩き出し、暫定1位に躍り出た。
その後、天候は急速に悪化し、路面をスリッピーな状態にしてしまう。
注目されていたオールラウンダー、ブランドン・マクナルティ(UAEチーム・エミレーツ)は落車して大きくタイムを失ってしまったほか、この日の優勝候補シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO)も落車こそしなかったもののタイヤを滑らせてタイムロス。
結果、ビッセガーはビョーグに21秒届かず暫定2位となってしまった。
このまま雨が止まなければビョーグがそのまま優勝してしまう可能性もあるかもしれない、と思っていたが、やがて天候は晴れ模様に。
勝負は後半戦。いよいよ、オールラウンダーたちによるステージだけでなく総合争いも白熱していく。
最初に恐るべき記録を叩き出したのはマッティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ)。
元アンドローニジョカトリの彼は元々はスプリント力に秀でたパンチャー系のイメージがあったものの、そこからかなり登れるようになり、今年はTTでも好成績を叩き出しつつある。
今年はUAEツアーで総合8位、ツール・ド・スイスで総合9位などオールラウンダーとしての才能を発揮しつつあるこの男が、まずはビョーグを6秒上回り暫定首位の座を奪い取る。
ただすぐさま、今大会最強のTTスペシャリスト、シュテファン・キュング(グルパマFDJ)の出番が訪れる。
期待通りの圧倒的な走りで中間計測を次々と塗り替え、最終的にはカッタネオを36秒上回る記録でフィニッシュ。
8.8㎞地点の第1計測地点こそカスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)やヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)に記録を塗り替えられたものの、17.2㎞地点の第2計測地点以降は圧倒的。
ユンボ・ヴィスマの「ダブルエース」ヴィンゲゴーも驚かせてくれる走りを見せてくれたが、結果的にはフィニッシュ地点でキュングに8秒届かず。
期待していたプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)もキュングから25秒遅れでのフィニッシュとなり、この日はもう、このままキュングの優勝で決まりか、という思いも漂っていた。
だが、やはりこの男は規格外であった。
タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)。
昨年の第20ステージ、ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ山岳TT決戦で、異次元の走りを見せて誰も想像しえなかった逆転総合優勝を果たした男。
この男が、第1計測地点でそれまでの暫定1位アスグリーンの記録を10秒塗り替える。
さらに、キュングが暫定1位となっていた第2計測地点の記録も17秒更新。
あとはもう、キュングも諦めるしかなかった。
最終的にフィニッシュに飛び込んできたこの「限界のない男」は、キュングのタイムを19秒上回り暫定首位に。
昨年のあの走りは奇跡ではなかった。誰もがその強さを認めながらもなお驚いてしまうような走りがそこにはあった。
だが、この男もまた、粘り強さを見せた。
この日の開始時点でタデイ・ポガチャルに対して総合タイムで39秒差をつけていたマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)。
これまではTTでの実績がほとんどない彼ではあったが、この日、マイヨ・ジョーヌを纏いながら出走し、これまでにはない走りを見せつけてくれた。
さすがに区間優勝はポガチャルに譲る結果にはなったものの、それでも、39秒というタイム差はギリギリで守り切った。
結論は、ポガチャルから31秒差の暫定5位。
十分に世界トップクラスと言える走りを見せてくれた彼は、また一つロードレースの世界における階段を登ったことを意味していた。
この結果を経て、総合首位はファンデルプールが維持したものの、最終的な総合優勝候補の中ではタデイ・ポガチャルが他を圧倒する位置に君臨することに。
総合勢といういうべき選手たちの中で彼に次ぐのは総合7位リゴベルト・ウラン。それでも1分29秒ものタイム差がすでについている。
リチャル・カラパスは1分44秒差の総合9位。ログリッチは1分48秒差の総合10位。ゲラント・トーマスは1分54秒差の総合12位。以下、ウィルコ・ケルデルマン(1分56秒差)、エンリク・マス(1分58秒差)、ヤコブ・フルサン(2分16秒差)、ダヴィド・ゴデュ(2分35秒差)などが続く。
このまま、今年もタデイ・ポガチャルの圧倒的総合優勝が確定してしまうのか。
いや、まだまだ、山岳ステージも1つも越えていない序盤も序盤。
何が起こるか分からないグランツールにおいて、まだ何も予見することなできはしないだろう。
とくに、第6ステージは平穏な集団スプリントステージの皮をかぶった、危険な横風ステージでもある。
以下のシミュレーションゲームでも強烈な横風による集団分裂が巻き起こる事態も引き起こされており、現実のレースでももしかしたら・・・
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