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ツール・ド・フランス2021 第10ステージ

激動の第1週を終え、最初の休息日を過ごしたプロトンは、第2週初日となるこの第10ステージで、実に平穏な時間を過ごした。

アルベールヴィルからヴァランスまでの190.7km平坦ステージ。終盤に横風による混乱はあったものの、概ね順当な集団スプリントが繰り広げられ、今大会4回目の「最速決定戦」が行われた。

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落車や山岳ステージでの熾烈なアタック合戦と大規模逃げ集団など、とにかく激しい展開の続いた第1週を終え、最初の休息日を超えた選手たちはしっかりとした休養を望んでいた。

アクチュアルスタート後に2名の逃げが確定すると集団はすぐさま落ち着いた雰囲気が形成され、まったりとしたサイクリングモード。アルプスで苦しんだ面々にも笑顔を浮かべる余裕さえできた。

2名の逃げの内訳は以下の通り。

トッシュ・ファンデルサンド(ロット・スーダル)
ユーゴ・ウル(アスタナ・プレミアテック)

残り108.4㎞地点の中間スプリントポイントでは3位以下を巡る争いがプロトン内で勃発。小さな登りの頂上にあることもあってマーク・カヴェンディッシュは少し後退気味でポイントを取れなかった一方、アルプスで積極的な動きを見せていたソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)が集団内先頭通過で15ポイントを獲得。次いでマイケル・マシューズ(チーム・バイクエクスチェンジ)が2位通過で13ポイントを獲得し、カヴェンディッシュとのポイント差を詰めにかかる。

その後も暫く落ち着いた展開が続いていくが、残り40㎞前後から段々と横風や登りでの動きが激しくなりかけていき、一時はバイクエクスチェンジの面々が集団を引っ張ってカヴェンディッシュを引き千切ろうとしたり、集団が縦に長く伸びているときにコルブレッリがパンクしてしまったりという瞬間もあった。

そんな中、大きな動きが巻き起こるのは残り16.3㎞地点以降。

横風が吹き付ける中、ダニエル・オス(ボーラ・ハンスグローエ)が先頭を牽いてやや集団が分裂し始める。

このときマイヨ・ジョーヌを着るタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)が一旦後ろの集団に取り残されたこともあり、前の集団では新人賞ジャージを着るヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)ワウト・ファンアールト(同)などが積極的に前を牽く場面も。

すでに周囲にアシストが残っていないポガチャルは自ら後続集団の先頭を牽いてブリッジを仕掛け事なきを得て、その後は常に集団の先頭付近で陣取ることで、続く横風区間も無事に過ごすことができたものの、やはり重要な局面でアシストが周りにあまりいないという状況は、このチームの付け入る隙になりつつあるようだ。

残り12㎞を切って集団の先頭をティム・デクレルク(ドゥクーニンク・クイックステップ)が全力牽引するなどの動きもあり、集団は完全に崩壊。

それでも、総合上位勢やトップスプリンターたちは基本的には前の集団に残れていたことで、数は絞られたものの大勢に影響がない形で、最後の集団スプリントへと突入した。


圧倒的に有利な形を作り上げたのはやはりドゥクーニンク・クイックステップ。先頭を世界王者ジュリアン・アラフィリップが牽き、その後ろにはロンド・ファン・フラーンデレン覇者のカスパー・アスグリーン、オンループ・ヘットニュースブラッド覇者のダヴィデ・バッレリーニ、世界最強のリードアウターであるミケル・モルコフ、そしてカヴェンディッシュという最強のトレイン。

残り1㎞を切ってもなお、アスグリーンを先頭に3枚のアシストが残っているという敵なしの状態。当然集団は先頭を縦に長く引き伸ばされ、カヴェンディッシュのライバルたちは誰も主導権を握れない状況となっていた。

これが第1週であれば、マチュー・ファンデルプールによってこの最強トレインに並ぶ形でアルペシン・フェニックスが上がってきて、最後はエース級のティム・メルリールが、モルコフすら凌駕する勢いで先頭を奪い取るのだが、その2人はすでにリタイアしており、ジャスパー・フィリプセンをエースに据えるアルペシン・トレインは存在感を喪失している。

結局、最も完璧なタイミング(100m未満)から完璧な位置でカヴェンディッシュが放たれ、そのカヴェンディッシュ自身もコンディションは十分だったため、その背後にいたワウト・ファンアールトも彼を抜き去ることはできず、かなり後方からスプリントを開始せざるを得なかったフィリプセンも勢いは良かったものの届くことはできず、マーク・カヴェンディッシュがメルクスの記録にあと1勝まで迫る33勝目を記録した。

第10ステージ


第4ステージでは荒れた展開の中でトレインが崩壊したものの、自らの判断力と力とで勝利を掴み取った。

第6ステージではアルペシン・トレインがモルコフのリードアウトすら凌駕して先頭を奪い取るも、巧みな「乗り換え」を行いフィリプセンの背後から勝利を奪い取りに行った。

そして今回の第10ステージは、最強トレインの力を存分に発揮し、勝利を我が物とした。

あらゆる勝ち方ができるドゥクーニンク・クイックステップとマーク・カヴェンディッシュは、ある意味でタデイ・ポガチャル以上に「手のつけられない」強さなのかもしれない。

最終日シャンゼリゼ含め、平坦ステージはまだ4つも残っている。

1週間前までは絶対にありえないと思われていた「メルクス超え」が、唐突に現実的なものへとなりつつある。

参考リンク:ツール・ド・フランス2021第4ステージーーマーク・カヴェンディッシュはいかにして「31勝目」を成し遂げたのか


第11ステージは今大会の目玉となる「モン・ヴァントゥ2回登坂」ステージ。

またもポガチャルが圧倒的な力を見せつけるのか。それとも。




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