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ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第3ステージ

ブルゴスを開幕地とした今年のブエルタ・ア・エスパーニャ。そのブルゴスにおける最終戦は、ブエルタ・ア・ブルゴス定番の1級山岳ピコン・ブランコ山頂フィニッシュ。

過去、ミケル・ランダやミゲルアンヘル・ロペス、レムコ・エヴェネプールなどが勝利し、今年は山頂フィニッシュではなかったもののロマン・バルデが勝利しているこの登りで、今年最初の山岳総合争いが繰り広げられる。

レースプレビューはこちらから


逃げに乗ったのは8名。

リリアン・カルメジャーヌ(AG2Rシトロエン・チーム)
トビアス・バイヤー(アルペシン・フェニックス)
イェツ・ボル(ブルゴスBH)
フレン・アメスケタ(カハルラル・セグロスRGA)
アントニオ・ソト(エウスカルテル・エウスカディ)
レイン・タラマエ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
ケニー・エリッソンド(トレック・セガフレード)
ジョセフロイド・ドンブロウスキ(UAEチーム・エミレーツ)

非常に良い面子が並ぶが、とはいえ、まだまだ総合タイム差も少ない第3ステージの山頂フィニッシュ。

普通にメイン集団がこれを吸収し、総合系の選手がステージ優勝するだろう。そして勝者が山岳賞を獲るため、途中の山岳ポイントを意味をなさないだろう・・・そんな風に思っていたが、タイム差は順調に開いていき、残り40㎞の時点でそのタイム差は8分を超える。

メイン集団を牽引するのはマイヨ・ロホを保持するユンボ・ヴィスマ。

奢らないことをよく知っているログリッチも、初日から最終日までマイヨ・ロホを守り続けることはリスクもあると理解してか。今年のグランツールでは定番となりつつある「序盤からの逃げに総合リーダージャージを開け渡す」儀式が執り行われようとしていた。


だが、残り20㎞地点に用意された3級山岳アルト・デ・ボコス(登坂距離2.7㎞、平均勾配6.4%)を越える頃には、そのタイム差は4分を切るほどにまで縮まっていく。

確実と思われていた逃げ切りに黄色信号が灯る中、先頭集団では残り15㎞でリリアン・カルメジャーヌがアタック。

これが一度引き戻されたのち、残り14㎞で再びカルメジャーヌがアタック。

この動きに、残り7名は静観の構え。

カルメジャーヌの独走が始まる。


リリアン・カルメジャーヌ。

元ディレクトエネルジー。プロ初年度の2016年にブエルタ・ア・エスパーニャをいきなり逃げ切り勝利し、翌年にはツールも勝利。同じディレクトエネルジーに所属していた「社長」トマ・ヴォクレールの後継者と目されていたが、その後はその期待に反して伸び悩む。

今年は方向性を大きく変えたAG2Rシトロエン・チームに移籍し、本人にとって初となるワールドツアーチームに所属することになったが、果たしてかつての勢いを取り戻せるか――といったところで訪れたチャンス。

このままフィニッシュまで逃げ続けられるか?


だが、残り7.8㎞で最後の登りピコン・ブランコに突入すると、追走集団の先頭をケニー・エリッソンドとレイン・タラマエが猛烈な勢いで牽引していく。

2013年にアングリルで勝利しているエリッソンド、そして2011年に同じくブエルタで勝利しているタラマエ。

2人の実力者のペースアップに、逃げ集団からはボル、ソト、バイヤーが遅れていき、UCIプロチームで残っているのはアメスケタだけとなった。

そして残り6.6㎞でカルメジャーヌはついに捕まえられ、入れ替わりで今年のジロ・デ・イタリアでも勝利しているジョセフロイド・ドンブロウスキーがアタック。

溜まらず遅れそうになるカルメジャーヌ。その表情は苦悶に満ちている。それでも、残る力を振り絞って、残り5.2㎞で3度目のアタック。

だが、この最後の攻撃でライバルたちを引き千切ることはできなかった。

逆に、残り4.5㎞。

15%の超激坂ゾーンでドンブロウスキーが先頭を牽き、一気にペースアップ。

まず、アメスケタが。そして、カルメジャーヌもここでついに、脱落してしまった。

4年ぶりのグランツール勝利は、そして彼の復活は、ひとまずお預けとなった。


残り4㎞。先頭はタラマエ。落ち着いてシッティングでペースを刻んでいく。随分余裕そうだ。

その後ろにはひたすらダンシングでついていくドンブロウスキー。ジロ・デ・イタリアでも、アレッサンドロ・デマルキをマークし続け、その隙をついてアタックして勝利を掴み取った策士は、ここでも冷静にチャンスを窺っている。

そして残り3.3㎞。ドンブロウスキー、アタック。ここでエリッソンドが少し遅れる。

しかしタラマエはやはり問題なくついていく。逆に残り3.2㎞でカウンターアタック。だがドンブロウスキーも離されずについていく。

一旦、緩斜面。エリッソンドもなんとか追いついてきて一息をつく。

メイン集団はこの時点で2分34秒差。逃げ切りはなんとかできそうだ。


そして残り2.8㎞。

先頭で再びタラマエが加速。エリッソンドは完全に突き放される。そしてドンブロウスキーも、今度はついていけない!


レイン・タラマエ。カチューシャ・アルペシン所属時代の2016年のジロ・デ・イタリア第20ステージで、前日の激しいクラッシュで総合5位のままジロを去らざるをえなかったチームのエース、イルヌル・ザカリンのために「Z」ジェスチャーを見せながら山頂フィニッシュ出勝利した男。

プロ生活15年。15回のグランツールに出場した経験を持つ大ベテラン。

ブエルタ・ア・エスパーニャでは実に10年ぶりの勝利。エストニアの老将が、3回目のグランツール勝利と共に、初の総合リーダージャージを掴み取った。

第3ステージ


アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオにとっては、ジロ・デ・イタリアのタコ・ファンデルホールン勝利に続く今期グランツール2勝目。

昨シーズン中盤で突如のワールドツアー入りを果たし、正直、すでに有力どころが決まり切ってしまった移籍市場での「あまりもの」をかき集めた印象のあった急拵えチームで挑んだ2021シーズン。

その中で5月まで1勝もできないという苦しい状況の中から、蓋を開けてみればグランツールで2勝。

来シーズンに向けて早速補強を始めつつある中で、さらなる進化を期待したくなるチームである。


そして、総合争いにおいては、残り12㎞あたりからイネオス・グレナディアーズが先頭牽引を開始し、ペースを上げていく。

登りが始まると途端に、昨年総合2位の東京オリンピック金メダリスト、リチャル・カラパスが遅れ始める。

メイン集団の先頭ではUAEチーム・エミレーツの昨年総合7位ダビ・デラクルスがアタックし、これに前日落車の影響かタイムを失っているアダム・イェーツがついていく。

バーレーン・ヴィクトリアスは前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴス総合3位、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも2勝しているマーク・パデュンがミケル・ランダの前を牽き続け、デラクルス、イェーツを引き戻す。

あっという間に集団の数も30名程度に。


一度は落ち着いたメイン集団にカラパスも復帰しかけるが、残り2㎞あたりでブルゴスBHのオスカル・カベドがアタックし、ここに再びデラクルスやアダム・イェーツが反応してペースを上げるとカラパスがまた遅れ始める。

そして終盤でアレハンドロ・バルベルデがミゲルアンヘル・ロペスとエンリク・マスを引き連れて加速すると、一団となった先頭集団は8名ほどの小集団でフィニッシュに雪崩れ込んでいく。

最後はマスがアタックし、ログリッチたちから3秒を奪い取ることに成功。

一方、この集団からデラクルスが結局12秒遅れ、カーシーは21秒、バルデとウラソフは29秒、カラパスに至っては1分もログリッチから遅れてしまった。

あとフェリックス・グロスシャートナーもさらにそこから27秒失っているので、前日のシャフマンの遅れと合わせ、ボーラ・ハンスグローエは早くも終戦モードである。


イネオスのトリプルエース体制からのまさかのカラパス脱落。逆に昨日トラブルで30秒失ったアダム・イェーツが今日は好調。

果たしてログリッチに対抗できるのはベルナルか、アダム・イェーツか、はたまたランダやマスやロペスなのか。


総合を巡る争いはまだまだ、始まったばかりである。

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