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ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第7ステージ

バレンシアの内陸部を走り、全部で6つの山岳ポイントを登っては下ってを繰り返すジェットコースターステージ。

最後はラスト3.5㎞の平均勾配が10%近い激坂1級パルコン・デ・アリカンテが待ち受け、総合勢にとっての洗礼となるステージだ。

一方、序盤から登りが多くあるということで、逃げ切り向きのステージでもある。

果たして、勝つのは逃げ切りか、総合勢か。

コースプレビューはこちらから


アクチュアルスタート直後に1級プエルト・デ・リャクナ(登坂距離9.4km・平均勾配6.2%)の登り。ここで、前日も横風区間で遅れる姿を見せていた昨年総合2位ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO)が早速遅れ始める。

その後もペースを取り戻すことができずリタイア。今年のジロ・デ・イタリアも総合8位と悪くなく、リゴベルト・ウランに続くこのチームのエース候補として期待されていただけに、悔しい結果に終わった。


その後も前日同様に何度もアタックが繰り出されて抜け出す選手が現れては引き戻されるという展開が続く。

そのまま30㎞ほど消化したところで6名ほどの逃げ集団が生まれる。さらにそこに次々と新たな逃げが合流し、最終的には以下の29名が先頭集団を形成した。

セップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)
ジョフリー・ブシャール(AG2Rシトロエン・チーム)
スタン・デウルフ(AG2Rシトロエン・チーム)
ジェイ・ヴァイン(アルペシン・フェニックス)
アレックス・アランブル(アスタナ・プレミアテック)
ゴルカ・イサギレ(アスタナ・プレミアテック)
ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス)
フェリックス・グロスシャートナー(ボーラ・ハンスグローエ)
ジョナタン・ラストラ(カハルラル・セグロスRGA)
フェルナンド・バルセロ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
ヘスス・エラダ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
ディエゴ・カマーゴ(EFエデュケーション・NIPPO)
ローソン・クラドック(EFエデュケーション・NIPPO)
パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)
シモーネ・ペティッリ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
アンドレアス・クロン(ロット・スーダル)
ステフ・クラス(ロット・スーダル)
ハーム・ファンフック(ロット・スーダル)
ネルソン・オリヴェイラ(モビスター・チーム)
カルロス・ベローナ(モビスター・チーム)
アンドレイ・ツェイツ(チーム・バイクエクスチェンジ)
ロマン・バルデ(チームDSM)
テイメン・アレンスマン(チームDSM)
クリス・ハミルトン(チームDSM)
マイケル・ストーラー(チームDSM)
マーティン・トゥスフェルト(チームDSM)
ケニー・エリッソンド(トレック・セガフレード)
ヤン・ポランツ(UAEチーム・エミレーツ)
マッテオ・トレンティン(UAEチーム・エミレーツ)

総合タイム差が最も小さいのは1分42秒遅れのヤン・ポランツ。次いで2分9秒遅れのフェリックス・グロスシャートナー。

さらにクス、ヘイグ、アランブル&イサギレ、オリヴェイラ&ベローナなどはそれぞれのチームのエースのための「前待ち」的な役割も担うことになるだろう。

そんな中、残り91.5㎞地点の3級プエルト・デ・ベニリョーバ(登坂距離3km・平均勾配3.5%)で5名も逃げに乗せているチームDSMのエース、ロマン・バルデがアタック。第6ステージでステージ勝利を狙いつつも果たせず、しかし山岳ポイントは手に入れることができていたケニー・エリッソンドもこれに追随するが届かず、バルデが先頭通過の3ポイント、エリッソンドが2ポイントを獲得する。

さらに続く残り72㎞地点の2級プエルト・デ・テュードンス(登坂距離7.1km・平均勾配5.2%)はマイヨ・ロホも狙っていきたいポランツが抜け出して先頭通過。次いでバルデ、エリッソンドの順で通過し、それぞれ5ポイント、3ポイント、1ポイントを獲得。

これでエリッソンドは第6ステージ最後の1級山岳を先頭通過したレイン・タラマエとこの日の最初の1級山岳を先頭通過したジャック・ヘイグと同じ10ポイントで山岳賞ランキング首位タイに躍り出る。これを追うバルデはシヴァコフ、ポランツと共に6ポイント。

山岳賞争いも白熱してきた。


残り39㎞地点の2級プエルト・エル・コリャオ(登坂距離9.5km・平均勾配4.6%)の長い登りの途中で先頭集団から少しずつ脱落者が出てくる。アランブル、ゴルカのアスタナコンビに、山岳賞争いに参戦中だったはずのエリッソンドまで。

そして3分57秒差で追いかけるメイン集団の方でも動きが。総合4位アレハンドロ・バルベルデが、ホセ・ロハスに率いられてアタック。すぐさまこれを総合18位リチャル・カラパスと総合11位アダム・イェーツがチェックに入り、UAEチーム・エミレーツも総合17位ダビ・デラクルス、バーレーン・ヴィクトリアスからは総合22位マーク・パデュンがブリッジを仕掛けて追随する。

非常に強力なメンバーが抜け出し、プリモシュ・ログリッチはこれを静観。その後ろにはチッコーネ、マス、ロペス、ランダ。

現在総合2位~4位を独占するモビスター・チームは今回こそトリプルエースが功を奏するか――と思っていたところで、バルベルデがまさかのコースアウト。路面にある段差に足を取られたか? あやうく崖下に落ちかける危険なクラッシュから起き上がり再びバイクにはまたがるが、間もなくリタイアを決断した。

ブエルタ・ア・エスパーニャ15回出場。今年で41歳の大ベテラン。間もなく、地元ムルシアへの凱旋が控えている中での、あまりにも悲しいリタイアであった。


この混乱の中で抜け出したカラパスたちも一度引き戻されたメイン集団を尻目に、3分42秒先を進む先頭集団からはバルデ、シヴァコフ、クラドックの3名が抜け出し、その順で2級山岳を通過。

これで5ポイントを獲得したバルデは合計11ポイントとなり、山岳賞暫定単独首位に。

前日悔しい落車によって総合争いから脱落してしまった彼が、翌日にすぐさま山岳賞争いに切り替えての奮闘。決して平坦ではないキャリアを、常に前向きに変化を受け入れながら戦い続ける男である。


2級山岳からの長い下りで一人抜け出したクラドック。メイン集団とのタイム差は再び拡大傾向に進み、逃げ切りがかなり濃厚になっていく。

残り28㎞地点で先頭のクラドックにパヴェル・シヴァコフとマイケル・ストーラーが合流。3名に。追走集団とのタイム差は48秒差。そしてメイン集団とのタイム差は4分37秒。

追走集団からは暫定総合首位だったヤン・ポランツが脱落。暫定総合2位となっていたグロスシャートナーにチャンスが回ってきた。


残り12.7㎞地点、この日5つ目の山岳ポイントとなる3級プエルト・デ・ティビ(登坂距離5.3km・平均勾配5.3%)の登りでさすがに平坦寄りのクラドックは突き放され、先頭はストーラーとシヴァコフの2人だけに。

20秒差で追いかける追走集団もセップ・クス、アンドレアス・クロン、ジェイ・ヴァイン、ジャック・ヘイグ、フェリックス・グロスシャートナー、ステフ・クラス、カルロス・ベローナ、ロマン・バルデと強力な面子が揃う。

メイン集団はモビスターが積極的に牽引するが、すでにタイム差は5分近くにまで広がっていた。


そして残り8.4㎞から始まる最終山岳、1級バルコン・デ・アリカンテ(登坂距離8.4km・平均勾配6.2%)。ここで追走からクロンとベローナが抜け出して先頭2人と合流。

残り4㎞でベローナがアタックしクロンが脱落。ストーラーとシヴァコフがここに食らいついていく。

残り3.2㎞でストーラーがアタック。ベローナはシヴァコフの様子を窺う。余裕さが見える。

残り2㎞。独走するストーラー。シヴァコフはついに力尽きて脱落し、一人になったベローナがストーラーを追いかけるが、タイム差はすでに20秒。

残り1㎞。ベローナの勢いが良い。先頭のストーラーはすでに限界が見えている様子。

しかし、それでも、先頭のストーラーを捕まえることは、できなかった。


マイケル・ストーラー。ジュニア時代は国内ロード王者やオセアニアTT王者に繰り返し君臨し、2016年にはオセアニアU23ロード王者になると共に、ロバート・パワー、ジャック・ヘイグ、ダミアン・ホーゾン、ルーカス・ハミルトンらと共にJayco-AIS World Tour Academyに所属。

2017年には現チーム・バイクエクスチェンジの下部育成チーム(当時はミッチェルトン・スコットという名の中国籍チーム)に籍を置き、ツアー・ダウンアンダーにもUni-SAオーストラリアの一員として走り総合15位で終えている。このときはルーカス・ハミルトン、ジャイ・ヒンドレーらと共に走っていたが、ベテランのネイサン・アールを除くとチーム内最高順位であった。

そして、同じくオーストラリア若手のヒンドレー、クリス・ハミルトンらと共に2018年からはチーム・サンウェブ(現チームDSM)に。

まさに、ルーカス・ハミルトンやヘイグ、ヒンドレーらと共に期待されて育てられてきた、オージーの未来のグランツール総合ライダーを生み出す「コース」に乗っていた選手だった。


しかし、その後はなかなか、伸び悩んだ。プロ勝利は1度もなく、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャの山頂フィニッシュステージで区間3位というのはあったが、それでも届かなかった。

その中で掴み取ったのが今年のツール・ド・ランでの逃げ切り勝利&総合優勝。期待されていた男の、プロ4年目で掴み取った初勝利。

そこから1ヵ月後。まさかこの、グランツールの大舞台で、早くも3勝目を掴み取ることになるとは。

来年からはグルパマFDJ。こちらも総合系ではゴデュ、アッティラ・ヴァルテルなど若手のエース候補が主導権を奪い合う舞台であり、この勢いで乗り込めばエースの座も夢ではない。頑張れ、ストーラー。

第7ステージ


なお、最後に区間3位に入り4ポイントを追加で手に入れたシヴァコフがこの日の山岳賞を最終的にゲット(16ポイント。ストーラーが12ポイントでこれを追い、ヘイグとバルデが11ポイント)。

ベルナルが新人賞、シヴァコフが山岳賞をそれぞれ着て走ることとなった。2017年ラヴニール覇者とベイビー・ジロ覇者である。


総合勢ではラスト1㎞を前にしてアダム・イェーツがアタックし、そこにログリッチ、マス、ロペス、ベルナル、デラクルス、メインチェスがついていき、塊のままストーラーから3分33秒遅れでフィニッシュする。

総合6位ウラソフはそこから13秒遅れ、ギヨーム・マルタン、ジュリオ・チッコーネ、ファビオ・アル、リチャル・カラパス、そして総合9位ミケル・ランダはログリッチたちから30秒遅れでのフィニッシュとなった。

逆に逃げ集団に入り込んでいたフェリックス・グロスシャートナーはマイヨ・ロホこそ掴み取れなかったもののログリッチから8秒遅れの総合2位に急浮上。一度総合争いから脱落したと思われていた昨年総合9位が復活。今年の傾向から言えば、このまま上位をキープし続けられる可能性も。

その他、ポランツや、ランダとのエース交代もありうるヘイグなども浮上し、現在の総合TOP10は以下のような形に。

第7ステージ後の総合リザルト


いい感じに混沌としてきた中で、第8ステージは今大会4回目のオールフラット集団スプリントステージ。

総合争いの行方は第9ステージ、総獲得標高4,500mの超級山岳ステージに委ねられることに。


やはりブエルタは面白い。そんな可能性を感じさせてくれる展開だ。


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ツアー・オブ・ノルウェー第2ステージ

終盤にかけて標高700m超の高台へと登っていくステージ。最後は登坂距離1㎞・平均勾配7%の登りフィニッシュとなっており、残り6㎞でチームDSMのマーク・ドノヴァンやこれを追いかけるスポートフラーンデレンのジュリアン・メルテンスらが抜け出す場面もあったが最終的には集団でフラムルージュへ。

厳しい勾配にすぐさま集団は縦長になり、スヴェンエリック・ビストラムを先頭に3名が抜け出すような恰好となったが、前日勝利し総合リーダージャージを着るヘイターはかなり余裕そうな様子でその後ろの集団に身を潜めていた。

そしてスローペースのまま訪れるラスト100mでヘイターがきっちりとギアをかける。ロット・スーダルのトッシュ・ファンデルサンドも加速するがこれも軽々と抜き去り、ヘイターが大会2勝目を飾った。

第2ステージ

これでヘイターは2位スヘリンフに15秒差をつけての総合首位に。翌第3・第4ステージも彼向きのステージであるため、このまま総合優勝は固いか?


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