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アムステルゴールドレース2021

丘陵地帯のアップダウンが特徴とされるアルデンヌ・クラシック3連戦の1戦目は、オランダ南東部リンブルフ州を舞台とした丘陵レース。

「千のカーブ」と形容されることもある複雑なコースが特徴となるレースだが、今年は新型コロナウイルスの影響で周回コースに変更。

代わりに勝負所「カウベルグ」を計12回登らせるなど、ある意味厳しいコースへと変貌した今年のアムステルで、2年ぶりの勝者となるのは果たして?

コースプレビューなどはこちらから


逃げは10名。

エドワード・トゥーンス(トレック・セガフレード)
ジュリアン・ベルナール(トレック・セガフレード)
スタン・デウルフ(AG2Rシトロエン・チーム)
セバスティアン・グリニャール(ロット・スーダル)
マウリッツ・ラメルティンク(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
ロイック・フリーヘン(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
チャド・ハガ(チームDSM)
ライアン・ギボンス(UAEチーム・エミレーツ)
ケニー・モリー(ビンゴール・パウェルスソーセスWB)
アンドレス・スカールセス(Uno-Xプロサイクリングチーム)

集団はユンボ・ヴィスマ、アスタナ・プレミアテック、ドゥクーニンク・クイックステップ、モビスター・チームなどの優勝候補を抱えるチームが順にローテーションを回し、タイム差を4分~5分程度でキープし、しばらく平穏な時間を作り上げていた。


動きが起きたのは残り70㎞を切ってから。チーム・キュベカ・アソスのロバート・パワーやバーレーン・ヴィクトリアスのヤン・トラトニク、ユンボ・ヴィスマのヨナス・ヴィンゲゴーなど数名が飛び出す展開が作られるが、一旦これが吸収。

しかし残り60㎞からさらにフロリアン・セネシャルやリチャル・カラパス、ウィルコ・ケルデルマンなどが含まれる9名の選手が飛び出し、この中にはファンアールトやピドコックの姿もあった。

ほぼ同じタイミングで落車が発生。優勝候補のシャフマンも巻き込まれたこの落車では、AG2Rシトロエン・チームに移籍した元リエージュ~バストーニュ~リエージュ覇者ボブ・ユンゲルスの姿も。

血を流し立てない様子のユンゲルス。このまま、目の前のジロ・デ・イタリアなどに影響がなければよいのだが・・・。


ファンアールトたちを含む9名のアタックは結局捕まえられ、しばらくは集団も落ち着いた様子に。

ドゥクーニンク・クイックステップの有力選手、マウリ・ファンセヴェナントがメカトラで遅れるシーンもあったが、懸命に集団を追いかけ、やがて合流する。

残り43㎞でさらなるアタック。ソンニ・コルブレッリ、ディラン・ファンバーレ、フロリアン・セネシャル、ルイ・コスタ、サイモン・クラーク、トッシュ・ファンデルサンドといった強力な6名が抜け出す。

集団の先頭にはプリモシュ・ログリッチ、次いでサム・オーメンが出てきて、ファンアールトのためのアシストに全力を尽くす。

そして、残り35㎞。

最後から2番目のカウベルグ。

オーメンとロベルト・ヘーシンクが先頭に立って牽引する集団の中から、まずはイーデ・スヘリンフが強烈なアタックを仕掛ける。

これをファンアールトがきっちりと抑え込み、カウンターで今度はトム・ピドコックがペースアップ。その背後にはアレハンドロ・バルベルデがきっちりと食らいついてきた。

先頭は逃げから抜け出したロイック・フリーヘン。これをベルナール、デウルフ、ラメルティンクの3名が追いかけ、それ以外の逃げは先ほどのコルブレッリら6名と共に、集団からアタックしてきたピドコックたちによって吸収される。

さらに残り30㎞。一旦落ち着きを見せまた数を増やしたこの集団の中からイーデ・スヘリンフが単独で飛び出し、第2集団の3名に追い付く。

残り25㎞の段階ではフリーヘンらも集団に引き戻され、先頭はスヘリンフ単独に。

今シーズンのパンチャー向けレースで常に良い走りを見せている有望な男スヘリンフによる独走が始まった。


これを集団は10秒程度のギャップをキープしつつ淡々と牽引。集団の前の方にはUAEチーム・エミレーツの数が増えてくる。

さらに最後から2回目のベメレルベルグに突入すると集団の先頭にはログリッチ、モレマ、ファンセヴェナント、ファンデルサンドなどの有力勢が上がってきてペースアップ。

スヘリンフも捕まるのは時間の問題であった。


そして残り19㎞。

最後のカウベルグに突入。

ここでやはり決定的な動き。

最初に仕掛けたのはトレック・セガフレードのニコラ・コンチ。スヘリンフを追い抜いて先頭に躍り出る。

しかし直後に飛び出したワウト・ファンアールトとジュリアン・アラフィリップが、すぐさまコンチを追い抜いて先頭に。

ここにピドコックやマイケル・マシューズ、バルベルデ、マキシミリアン・シャフマンなどがバラバラと追いついてきて、強力な「先頭集団」が形成されていく。

そこにはミハウ・クフィアトコフスキとリチャル・カラパスの姿も。

一方、ファンアールトにとって最も頼りになるアシストとなるはずだったログリッチが、この重要なタイミングでメカトラ。

いつもどおり一人で戦わざるを得ない状況となったファンアールトに対し、イネオスは3名。

状況は、イネオス有利のように思われた。


しかしこれはファンアールトにとっても決してマイナスだけの状況ではなかった。

前回のブラバンツペイルではこの最終盤でひたすら前を牽かされる場面も多く、体力も消耗していたファンアールトだったが、今回はこの先頭集団にイネオスが3枚もいる以上、牽引の責任は彼らにあった。

もちろん、イネオスとしてもこのチャンスを無駄にするわけにはいかず、残り14㎞でクフィアトコフスキがアタックする。

集団もお見合い状態になり、まんまと抜け出したクフィアトコフスキは独走を開始。

しかし、やはり骨折明けということで思うような走りはできず、残り12㎞であえなく集団に引き戻されてしまう。


そして逆にここで飛び出したのがピドコック、ファンアールト、シャフマンの3名。

追走集団はマウリ・ファンセヴェナントが懸命に牽引し、ジュリアン・アラフィリップやマシューズ、モレマ、ウッズ、イギータ、フルサン、ギヨーム・マルタン、バルベルデなどの姿が。

とくにアラフィリップなどに追い付かれたくないのはピドコックも一緒なので、牽引するしかない。


逆に集団の方ではクフィアトコフスキとカラパスがうまくローテーション妨害を行ったこともあり、牽引はほぼファンセヴェナントが一手に担うことになり、さすがにタイム差は縮まらない。

そのファンセヴェナントもさすがに残り6.4㎞で力尽き脱落。

集団牽引の担い手は連携が取れず失速し、先頭3名の逃げ切りが確定的となった。


先頭のファンアールト、ピドコック、シャフマンは綺麗にローテーションを回す。

ファンアールトにとっても、ブラバンツペイルのときよりもずっと足を残した状態でこの局面を迎えることができていた。

スプリントでこの二人に対してはどうしても分が悪いと判断したシャフマンは残り2㎞でアタック。しかし平坦でのアタックではどうしようもなく、すぐさまファンアールトにその後輪を捉えられる。

残り1㎞。ピドコックが前に。残り700m。ファンアールトが前に。

残り400m。まだファンアールト前。集団も迫ってくるが、まだ10秒ほど残っている。

残り200m。ファンアールトが、スプリントを開始する。

前回のブラバンツペイルもこれくらいの距離からのスプリント開始だった。そのときはそれが自分にとっての勝利に近い距離であるとレース後に述べていた。だけどそのときは、突然足が止まった、と。


今回のファンアールトのスプリントは完璧だった。失速することなく、伸び続ける。

だが、ピドコックも負けてなかった。さすがの加速で横に並ぶ。やはり、ファンアールトは早すぎたのか? 同じパターンで負けるのか?

フィニッシュライン横のカメラでの映像でも判別がつかないような、僅差のフィニッシュ。

暫くの間、確認作業に時間を要し――最後の最後は、本当にわずかの差で、ファンアールトの勝利が確定した。

3.アムステルゴールドレース


ブラバンツペイルの借りを見事返した、ファンアールト。しかし最後の局面は本当に、ピドコックとどちらが勝ってもおかしくはなかった。


アルデンヌ・クラシックはよりクライマー向きのフレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュへと続いていく。今度は、今回ファンアールトを強力にアシストし、その足を温存させる大きな役割を果たしたプリモシュ・ログリッチたちをアシストする側に回り、チームの更なる勝利を求めていく格好となりそうだ。

そしてピドコックは、このまま敗北で終わるのか。それとも次戦フレーシュ・ワロンヌ、彼にはあまり向いていないレースだとは思うが、そこで驚きのリザルトを叩き出すのか。

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