ジロ・デ・イタリア2021 第6ステージ
イタリアを舞台に開催される今年最初のグランツール。サイモン・イェーツ、アレクサンドル・ウラソフ、エガン・ベルナル、レムコ・エヴェネプールなどが覇を競い合う、なかなか予想のつかない3週間。
第6ステージはフラサッシ鍾乳洞の近くからアスコリ・ピチェノ近郊のサン・ジャコモの山頂までの160㎞「丘陵」ステージ。
丘陵ステージとは名ばかりの本格的な山頂フィニッシュ。しかもその手前にも大きな登りが1つ。
総合が動いた2日か前の第4ステージ同様に冷たい雨が降る中、この日もまた、重要な総合争いが繰り広げられることが十分に予想された。
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この日の逃げは8名。
ジェフリー・ブシャール(AG2Rシトロエン・チーム)
ジミー・ヤンセンス(アルペシン・フェニックス)
シモーネ・ラヴァネッリ(アンドローニジョカトリ・シデルメク)
ジーノ・マーダー(バーレーン・ヴィクトリアス)
マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)
シモン・グリエルミ(グルパマFDJ)
ダリオ・カタルド(モビスター・チーム)
バウケ・モレマ(トレック・セガフレード)
2019年ブエルタ・ア・エスパーニャ山岳賞のブシャール、今大会区間優勝候補筆頭格のマーダーとモホリッチ、2019年にも区間優勝しているカタルド、そしてモレマと、かなり強力なメンバーが揃ってはいたものの、ステージ中盤の2級山岳フォルカ・ディ・グアルド(残り71.9㎞地点)の登りの時点ですでにタイム差は5分となっており、逃げ切りは難しいだろうと思われていた。
この2級山岳の山頂はブシャールが獲得。これまで山岳ポイントは一切なかった彼だが、この山頂通過で一気に18ポイントを獲得し、それまで16ポイントを持って首位に立っていたヴィンツェンツォ・アルバネーゼ(EOLOコメタ)を抜いて山岳賞ランキング暫定1位へと躍り出た。
2番手通過はラヴァネッリ(8ポイント)、以下、マーダー(6)、モレマ(4)、ヤンセンス(2)、モホリッチ(1)と続いた。
そしてこの2級山岳と続く3級山岳(残り59.6㎞地点)との間の短い「谷」の部分で、早くも総合勢による動きが巻き起こる。
すなわち、谷あいに吹き付ける強烈な横風と狭い道を利用して、イネオス・グレナディアーズが5~6名体制で集団先頭を牽引し、一気に分断作戦に出たのである。
これにより、マリア・ローザを着ていたアレッサンドロ・デマルキ(イスラエル・スタートアップネーション)は早くも脱落。
総合有力勢はほとんどが先頭で生き残ることができたものの、その数は一気に減り、多くの選手たちがここで足を削られた様子を見せていた。
その後もなお、懸命に牽引を続けるイネオス・グレナディアーズ。
この積極性はそれだけ、エースのエガン・ベルナルの足に自信があるということなのか?
最後のフィニッシュの2級山岳サン・ジャコモの登り口(残り15.5km地点)までの長い長い下り区間の中でメイン集団からはジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)、アルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・NIPPO)、ロマン・バルデ(チームDSM)の3名が抜け出して追走集団を形成するが、3名の中で最も総合成績が良くマリア・ローザ獲得のチャンスもあるベッティオル以外の2人はどこか消極的な姿勢を保ち続け、ベッティオルが苛立つ場面も。
彼らを行かせたメイン集団はフィリッポ・ガンナがひたすら先頭固定で牽き続け先頭とのタイム差も縮めていき、やがて残り16.7㎞でこの3名も吸収していく。
いよいよ最後の勝負の登りへと突入。すでに先頭ではモホリッチ、マーダー、カタルド、モレマの4名だけが残っており、モホリッチがチームメートのマーダーのために積極的にアシストする姿を見せている。
のこり13.6㎞でついにモホリッチが仕事を終えて脱落。先頭は3名だけに。
のこり9.8㎞でメイン集団の先頭を牽き続けていたガンナが仕事終了。残り60㎞過ぎから始まる長い下り以降常に先頭をほぼ一人で牽引し続けていた。凄まじい仕事ぶりで、その足を止めた直後は完全にオールアウト。
かつてのミハウ・クフィアトコフスキもそうだったが、とにかくイネオスは全力でアシストし、オールアウトしながら落ちていく姿が目立つ気がする。
そしてガンナがいなくなったあともなお、メイン集団の先頭は4名のイネオスの選手が。
先頭を牽くのはジャンニ・モスコンとジョナタン・カストロビエホ。
その後ろにはエースのベルナルが控え、その背後にはリタイアしたパヴェル・シヴァコフに代わりセカンドエースの座についているダニエル・マルティネスの姿がある。
カストロビエホは途中前輪をパンクしながらアシストする場面も。そのまま残り5㎞まで牽き続け、仕事を終えた。
このタイミングで今度はメイン集団の先頭にドゥクーニンク・クイックステップのファウスト・マスナダが、ジョアン・アルメイダとレムコ・エヴェネプールを引き連れて躍り出る。エヴェネプールも調子が良さそう。
すでにこの時点で先頭3名とのタイム差は1分半。逃げ切れるかどうか、かなり微妙なタイム差。
その先頭集団からは残り3.3㎞でマーダーがアタック。モレマもカタルドもまったく反応ができない。
残り3.1㎞。メイン集団からはマルティネスがアタック。アレクサンドル・ウラソフからは46秒遅れ、エヴェネプールからは42秒遅れ、サイモン・イェーツからは23秒遅れの総合20位。これを受けてアスタナ・プレミアテック、ドゥクーニンク・クイックステップが集団を牽引する。
残り1.5㎞。マルティネスが捕まえられそうになったタイミングで総合10位ベルナルがアタック!
ここに総合16位チッコーネ、総合7位エヴェネプール、総合19位ダニエル・マーティンが食らいつく。そして総合6位で総合優勝候補有力勢最上位にいたウラソフはギャップを作られてしまう。
その後ベルナル、チッコーネ、エヴェネプール、マーティンの抜け出した組は牽制状態に陥りウラソフや総合11位ダミアーノ・カルーゾらは一旦追いつくものの、残り1㎞でベルナルが再びアタックするとまた千切られていく。
完全にベルナル、チッコーネ、エヴェネプール、マーティンの4名の実力が抜き出ており、ウラソフもカルーゾも、そして総合優勝候補最右翼と見られていた総合14位サイモン・イェーツも、この日はまったく歯が立たなかった。
だが、ベルナルらの加速も、先頭を独走し続けるマーダーに追い付くことはなかった。
3月のパリ~ニースで同じく逃げからの独走勝利のチャンスが目の前にまで迫っていたものの、わずか50mというところでプリモシュ・ログリッチにその勝利を奪われていた24歳の若き才能。
「もっと強くなって帰ってくる」と宣言した彼が、わずか2か月後に成し遂げた有言実行、しかもより大きな舞台でのリベンジ。
いつか勝つと思っていた。だがまさかこんなにも早く実現するとは。
2018年ツール・ド・ラヴニール区間2勝・総合3位の約束された実力者の、渾身のグランツール初勝利となった。
そしてそれは共に逃げ、終盤まで彼を支え続けたチームメートのモホリッチによる勝利でもあった。
総合勢では先ほどから名前の挙げていた4名がそのまま抜け出して2位~5位でフィニッシュし、総合争いでも抜け出す形に。
ベルナル、エヴェネプールと、実力は認めながらもそれぞれの事情で戦前では不安視されていた彼らの、予想を超えた走りに驚く一方、彼ら2人にまだまだグランツール総合争いは未知数のチッコーネと、グランツールではやや不安定な走りが最近は目立つマーティンという4名。
この時点でのこの4名の抜け出しは、まだまだ総合優勝候補として注目するには早すぎるとは思える。
この日遅れたウラソフもカーシーもサイモン・イェーツも、まだまだ総合優勝候補であることには変わりない。
第7ステージは第5ステージに続く平坦スプリントステージ。ただし終盤に短い激坂やコーナーの連続、緩やかな登りフィニッシュなど、一筋縄ではいかなそうな要素が組み込まれている。