ブレーデネ・コクサイデ・クラシック2021
2018年まで「ハンザーメ・クラシック」と呼ばれていたレース。
その名の通りベルギー・ウェストフラーンデレン州にある北海沿いの街ブレーデネから、海沿いに西に突き進み、フランス国境にほど近いコクサイデの街へと向かうレースとなっている。
レース前半は海から吹き付ける強い横風がプロトンを襲い、内陸に入る中盤以降は、ケンメルベルグなど北のクラシックでお馴染みの厳しい登りが連続する。イメージとしてはヘント~ウェヴェルヘムに近いタイプのレースである。
例年は集団スプリントで決まることが多く、過去の優勝者もジャンニ・メールスマンやエリック・バシュカ、クリストファー・ハルヴォルセン、アルバロホセ・ホッジ、そしてパスカル・アッカーマンなど、純粋なスプリンターたちが多い。
しかし今年は例年にはない大混乱。スタート後の最初の1時間は海からの横風により集団が分裂しエシェロンが出来上がる事態が巻き起こり、それが一つにまとまったあとも、そのときの疲労が原因だったのか、中盤の(まだ残り110㎞以上も残している段階の)ケンメルベルグから始まる一連の登りの連続の中で集団が崩壊。
以下13名の逃げが出来上がる。
ニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)
ルーカス・ペストルベルガー(ボーラ・ハンスグローエ)
フロリアン・セネシャル(ドゥクーニンク・クイックステップ)
ルイ・オリヴェイラ(UAEチーム・エミレーツ)
アンドレアス・ルクネスンド(チームDSM)
マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
アレックス・キルシュ(トレック・セガフレード)
エドワード・プランカールト(アルペシン・フェニックス)
ベンジャミン・デクレルク(チーム・アルケア・サムシック)
マックス・ワルシャイド(キュベカ・アソス)
ラッセノーマン・ハンセン(キュベカ・アソス)
レイナルト・ヤンセファンレンスバーグ(キュベカ・アソス)
トム・ファンアスブロック(イスラエル・スタートアップネーション)
さらにまもなくして、18名の追走集団も形成される。
ヨセフ・チェルニー(ドゥクーニンク・クイックステップ)
ミッケル・ビョーグ(UAEチーム・エミレーツ)
マルコ・マルカート(UAEチーム・エミレーツ)
ミハウ・ゴワシュ(イネオス・グレナディアーズ)
アレクサンダー・カンプ(トレック・セガフレード)
ジェイク・スチュアート(グルパマFDJ)
ハリー・スウィーニー(ロット・スーダル)
ティム・メルリエ(アルペシン・フェニックス)
ヨナス・リッカールト(アルペシン・フェニックス)
クリスオフ・ノッペ(アルケア・サムシック)
ブラム・ウェルテン(アルケア・サムシック)
エドゥアルド・グロス(デルコ)
デュサン・ラヨヴィッチ(デルコ)
シリル・ルモワンヌ(B&Bホテルス・p/b KTM)
スタニスワフ・アニョコフスキ(ビンゴール・ワロニーブリュッセル)
クリストファー・ハルヴォーシュン(UNO-Xプロサイクリングチーム)
アンドレス・スカールセス(UNO-Xプロサイクリングチーム)
ジョルディ・ワーロップ(スポートフラーンデレン・バロワーズ)
残り50㎞を切って先頭とこの追走集団都のタイム差は40秒。
そして先頭とメイン集団とのタイム差は3分を超えており、集団スプリントでの決着が定番のこのステージでは珍しく、この先頭2集団計31名による勝負が繰り広げられることとなった。
先頭集団に3名も入れているキュベカ・アソスにとってはチャンスであった。しかし残り30㎞地点における選手たちによる大コースミス。その時先頭を積極的に牽いていたキュベカ・アソスのメンバーが最も被害を受け、足を使ってしまったことで、その後の存在感を失ってしまった。
追走集団に追い付かれると不利になるのは先頭に2名を置いているボーラ・ハンスグローエも同じ。残り28㎞地点でルーカス・ペストルベルガーがアタック。独走を開始した(このタイミングでアレックス・キルシュは脱落)。
当然のことながらニルス・ポリッツがペースをかき乱し撹乱する追走集団は思うようにスピードが上がらずにペストルベルガーとのタイム差を縮められずにいる。
一方の追走集団はティム・メルリエによる必勝態勢を築くため、チームメートのヨナス・リッカールトがひたすら牽引し続ける。
開きも縮まりもしない膠着状態が長い間続いたのち、やがて中継映像が途切れたタイミングでいつのまにか追走集団が(元)先頭集団に合流。
残り11㎞の時点で映像が回復するが、そのときもまだ先頭はペストルベルガーのままで、これを追う集団は20名ちょっとの人数となっていた。
ペストルベルガーはすでに限界を迎えていたが、それでもひたすら顔をゆがめ、全身を左右に振りながら、今にも倒れそうな様子で懸命にペダルを回し続けていた。
集団の先頭はヨセフ・チェルニー。優勝候補のフロリアン・セネシャルのための献身的な牽引でタイム差をじわじわと縮めていく。
そして残り1.4㎞。頑張り続けたペストルベルガーもついに吸収。
20名ちょっとによる中集団スプリントが幕を開ける。
ここまで素晴らしい牽引を見せてくれていたリッカールトは最後の局面でも完璧な仕事をやってのけた。
ラスト300mまで猛牽引し、集団を縦に長く引き伸ばしたリッカールト。
残り300mという絶妙な距離で、この位置で集団の先頭に残ったのはセネシャルのためのリードアウター、チェルニー。
ただ元々発射台専属というわけではない彼にとって、ここで前を任されても限界があった。結果、残り300mから200mまで、その背後にいるメルリエにとって最適なタイミングまでそこまで厳しくないペースで前を牽くというアルペシンにとっては最適なアシストをしてくれるだけに終わった。
よって、最も得意とするタイミングで発射することのできたメルリエはその後、背後から追随するピーダスンやセネシャルに一切並ばせることがないままフィニッシュラインへと突き進んだ。
3/2のル・サミンも3/7のフロートプライス・ジャンピエール・モンセレも快勝しているティム・メルリエが、マッズ・ピーダスンとフロリアン・セネシャルという、ワールドツアーでも屈指の北のクラシック系スプリンターたちを真正面から力でねじ伏せて勝利する。
やはりこのチームはマチュー・ファンデルプールだけのチームではない。その他のエース級もまた当たり前のようにワールドツアークラスの、エリート軍団であると証明して見せてくれた。
メルリエがジロ・デ・イタリアに出場するのかツール・ド・フランスに出場するのかはわからない。
しかしいずれにせよ、そのどちらかでステージ優勝を成し遂げたとしても何も驚くことはないだろう。
・・・ジャスパー・フィリプセンもうかうかしていられないぞ。
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