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ジロ・デ・イタリア2022 第1ステージ

ついに開幕した、今年最初のグランツール、ジロ・デ・イタリア。

2020年に予定されていながらもCovid-19流行の影響で延期となっていたハンガリー開幕が実現し、第1ステージはその首都ブダペストから北方の古き街ヴィシェグラードまでの195㎞。

そのヴィシェグラード城の鎮座する高台へと登る本格的な登りフィニッシュを制し、初日マリア・ローザを手にするのは一体、誰だ。


アクチュアルスタート直後、ファーストアタックで飛び出したのはドローンホッパー・アンドローニジョカトリの2名。

マッティア・バイス(ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)
フィリッポ・タリアーニ(ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)

そして、これに続く選手は誰もいない。プロトンはすぐさま横に広がりスローダウン。アルペシン・フェニックスはこの日、マチュー・ファンデルプールで勝利を狙うだろうから驚かないが、それ以外のプロチーム、すなわちバルディアーニCSF・ファイザネやエオーロ・コメタまで逃げに乗らないのは正直、驚きである。

確かにこの日は道中に山岳賞ポイントもなく、「うまみ」は少ないかもしれない。最近では逃げが一人もできないままフィニッシュにまで到達する日も珍しくなくなってきているとはいえ、さすがに驚きのグランツール開幕日となった。


そして、何かと混乱しいきなり総合優勝候補が巻き込まれることもざらにあるグランツール初日とは思えないくらい、平穏なまま1日が過ぎていく。落車もゼロではなかったが、致命的なダメージが残る落車は道中には存在しなかった。

残り119㎞地点に用意された中間スプリントポイントではタリアーニ、バイスの順で通過し、3番手争いを制したのはジャコモ・ニッツォーロ(イスラエル・プレミアテック)。過去2回ポイント賞を獲得している今大会チクラミーノ候補がまずは6ポイントを獲得し、次いで2020年チクラミーノのアルノー・デマール(グルパマFDJ)が4位通過で5ポイント。

マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファヴィニル)フェルナンド・ガビリア(UAEチーム・エミレーツ)がそれぞれ3、2ポイントを獲得していくなど、このあたりが今大会のチクラミーノ争いに興味を持っている選手たちなのかもしれない。


その後も平穏な旅路は続き、最大で11分差あったタイム差も徐々に縮小。

最終的には残り13.7㎞と、実に理想的な残り距離数で逃げ続けた2名をプロトンが吸収。

最後の登りに向けた、各チームのトレイン勝負が幕を開ける。


最終的に残り5㎞、登りの直前で主導権を握ったのはロット・スーダル。その隊列の最後尾にはもちろん、カレブ・ユアン。今年、パンチャー向けとも言われる母国オーストラリアでの世界選手権制覇も狙う彼は、今年例年にも増して登りへの適性をつけてきているということで、この日も自信満々である。

登りが始まると今度はジロ・デ・イタリア特別カラーのジャージを着用したアルペシン・フェニックスの隊列がマチュー・ファンデルプールの前に4枚のアシストを並べて集団先頭を支配していく。ロット・スーダルもしっかりと先頭付近をキープしており、グルパマFDJも存在感を見せている。イネオス・グレナディアーズも上がってきた。

そして残り3.7㎞。集団からAG2Rシトロエン・チームのローレンス・ナーセンがアタック。北のクラシックの名手でブルターニュ・クラシックも制しているオリヴェル・ナーセンの弟で、終盤でのアタックは比較的得意な選手。

とはいえ、さすがにルーラータイプの彼にこの日の登り(登坂距離5.6㎞、平均勾配4.2%)は厳しすぎたか。最大で9秒差をつけたこのナーセンが足を止め始めた残り2.4㎞。メイン集団からレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)が異様な勢いでアタック。一気にナーセンを追い抜いて先頭に立った。

直近の前哨戦ツアー・オブ・ジ・アルプスでも山岳逃げ切り勝利を決めている絶好調のケムナ。この勢いが続けば逃げ切りも・・・と思った中で、メイン集団ではビニヤム・ギルマイのためにアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオのアシストが全力で集団を牽く。そのアシストの背後にはウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ)、3番手にギルマイ、4番手から6番手はイネオス・グレナディアーズのトレインが連なる。

残り1㎞。7秒差。しかしケムナの足は限界に来ている。このタイミングで集団からはUAEチーム・エミレーツのダヴィデ・フォルモロが加速する。ここでアルノー・デマールが脱落。

ケムナを追い抜いたフォルモロが戦闘。その背後にはペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)、そしてユアンがここで3番手!

残り500m。先頭はフォルモロ、ユアン、ビルバオ、カラパス、ギルマイ、バウケ・モレマ(トレック・セガフレード)、そしてマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)

役者は揃った。いよいよクライマックス。

残り400mで先行したのはカレブ・ユアン。その背後からウィルコ・ケルデルマンとマウヌス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)が先頭に躍り出て残り200m。

残り150mでコルト先頭。その背後にユアン。横にはギルマイが並び、ギルマイの後輪にはファンデルプールが貼りついている。

失速するコルトの左手からギルマイが抜け出してファンデルプールもその横に並ぶ。コルトの右手からはユアンがさらにもう一段階加速。

残り100m。先行したのはわずかにギルマイ。だが一踏みごとに、着実に前に突き出ていくのはマチュー・ファンデルプール!

ギルマイに進路を塞がれたユアンは、しかしもう、彼らのパワーに追い付くだけの足は残っておらずふらふらに。その結果、彼は目の前のギルマイ後輪に自らの前輪をハスらせてしまい、そのまま左肩から激しく転倒。

昨年のツール第3ステージ同様、序盤での手痛い落車を経験してしまった。

そして、その目の前では、ビニヤム・ギルマイとマチュー・ファンデルプールの、新たな時代のライバルとも言える2人による白熱のマッチスプリントが展開。

これを制したのはやはりこの男、マチュー・ファンデルプール。

昨年ツールに続き、初参戦のこのジロ・デ・イタリアでも、初日からいきなり、総合リーダージャージを奪い取ってしまった。

年齢はすべて2022/12/31時点のものとなります。


マチュー・ファンデルプールの「予想通り」の開幕ステージ優勝もさることながら、ビニヤム・ギルマイの末恐ろしさを思い知らされたステージとなった。

彼はこの後もまだまだ伸びる。来年あたり、ロンド・ファン・フラーンデレンのフィニッシュでこのマッチスプリントを再現していても、全く驚くに値しない。


そして最後は落車と残念な結果に終わったが、カレブ・ユアンが明確に登れていることも確かだった。

今回は無理せず、最悪リタイアしてでもいいので体を休め、ある意味今年の最大の本命であるはずの母国開催の世界選手権に向けて調子を整えていってほしい。


明日はブダペスト市内で繰り広げられる9.2㎞の個人TT。ラストに短いながらも登りが用意された、一筋縄ではいかなそうなタイムトライアルステージである。


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