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オーストラリア国内選手権2021 男子エリートロードレース

2/3(水)の個人タイムトライアルから開催され、本日2/7(日)まで続いたオーストラリア国内選手権。新型コロナウイルスの影響により、例年よりも1ヵ月遅れでの開催となった。

本日2/7(日)は女子エリートのロードレースと、男子エリートのロードレースが開催。女子の方は残念ながら見られなかったため、男子の方だけレポートしていく。


舞台となるのはメルボルンから105㎞西に位置するビクトリア州の街バララット。カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース(そして2010年の世界選手権)の舞台であるジーロングの街からは北西80㎞に位置する。

バララット郊外に位置するブニンヨン山(登坂距離3km・平均勾配5.3%)を登らせる小周回(1周11.5km)を16周回させる全長186.5kmのコースで、総獲得標高は2,977mと例年通り結構厳しいコースレイアウトが用意されている。

序盤に生まれた12名の逃げの中には、チーム・バイクエクスチェンジもダミアン・ホーゾンや先日のクリテリウム選手権で優勝したケイデン・グローブスなどが乗っており、のちにここにアレックス・エドモンドソンも加わり総勢16名の逃げ集団となった。

しかしこれはレースの中盤に差し掛かるころには一旦吸収され、新たに2名の逃げ——元クリテリウム王者で先日のサントス・フェスティバル・オブ・サイクリング最終日のクリテリウムでも優勝しているサム・ウェルスフォードと、オーストラリア国内リーグ戦総合優勝者のブレンダン・ジョンストン(CCSサイクリングチーム)——が生まれ、エドモンドソンも一度はこの2名にブリッジを仕掛けようともがくが、これはうまくいかなかった。


そして残り64㎞。

ここで、今シーズンひたすら強さを見せつけている今最も注目すべき若手オージーライダー、ルーク・プラップ(インフォーム・TMXメイク)がアタックした。


あっという間にウェルスフォードとジョンストンに追い付き、やがて残り55㎞までにこれらを突き放したプラップは、その後彼の得意とするタイムトライアルモードへと移行する。

メイン集団はもちろん、バイクエクスチェンジが中心となって集団を牽引するも、なかなかそのタイム差が縮まらない。バイクエクスチェンジも序盤から積極的に動きすぎてしまった結果、元々の数は多かったにも関わらず、この局面で十分に動ける選手が少なくなってしまった。


そうこうしているうちに、残り30㎞。

先頭プラップとのタイム差がようやく動き始め、1分40秒差にまで縮めたところで、集団からクリス・ハーパー(チーム・ユンボ・ヴィズマ)がアタックした。

2019年ツアー・オブ・ジャパン総合優勝者のハーパーの攻撃に、集団はバラバラになり始める。

さらにハーパーがもう一度アタックすると、ここについてくることができたのはプラップのチームメートであるケランド・オブライエンただ一人。

さらにのちにここに集団からブリッジを仕掛けてジョインできたのは、昨年のヘラルドサン・ツアー総合2位で今年イスラエル・スタートアップネーションに昇格したセバスティアン・バーウィック。

やがて先頭のプラップも捕まえたこの先頭4名集団はハーパー26歳、オブライエン22歳、バーウィック21歳、プラップ20歳とかなりの若手揃い。

対する追走集団はこれまたプラップとケランド・オブライエンのチームメートであるインフォーム・TMXメイクのマーク・オブライエン、チーム・ブリッジレーンのニコラス・ホワイト、チーム・サプラサイクリングのジェシー・エワート、Bourg-en-Bresse Ain Cyclisme(フランスのアマチュアチーム)所属のスコット・ボウデン、そしてバイクエクスチェンジのキャメロン・マイヤーで計5名であった。

必勝のはずのバイクエクスチェンジがたった1人しか追走に入れられていないという危機的状況。しかも追走集団の先頭をマイヤーが牽かされ続けている中で、絶体絶命の状況であった。


そこを救ったのが、今年、個人TT王者の座をプラップに奪われてしまったルーク・ダーブリッジ。その借りを返すかのように、先日のクリテリウム選手権ではケイデン・グローブスのために立ちまわり、見事これを勝たせた彼が、今回もまた、危機に陥るマイヤーのために、颯爽とこの追走集団に復帰してきた。

すかさず、集団の先頭を強力に牽引し始めるオーストラリア最強格のTTスペシャリスト。先頭とのタイムギャップが徐々に縮まっていき、先頭から千切れたバーウィックやプラップを吸収。

ハーパーもやがて千切れ、先頭にはケランド・オブライエンただ一人に。

ここで、追走集団からもう1人のインフォーム・TMXメイクの選手、マーク・オブライエンがアタック。

数の利を活かした波状攻撃。非UCI登録チームではあるものの、トラックナショナル代表選手を集めたこのチームは、その実力においては間違いないことは明確だった。

二人のオブライエンに、同時についていったブリッジレーンのニコラス・ホワイトを加え、先頭は4名に。

ここでもまた、ダーブリッジが全力の牽引。遅れかけていたマイヤーを必死で牽き上げ、なんとか先頭集団に追い付くことに成功した。

先頭8名。

残り4.2㎞。

ここで、積極的な攻撃を仕掛け続けていたクリス・ハーパーが落車。

マーク・オブライエンもこれを避けようとして失速。先頭集団からは実質的に脱落してしまった。

最後のカードも失ってしまったインフォーム・TMXメイク。

サントス・フェスティバル・オブ・サイクリングではプラップに次ぐ登りでのセカンドエースであったケランド・オブライエンが、残り2㎞で決死のアタック。

だが、ダーブリッジがこれを許さない!

さらに、ラスト1㎞を目の前にして、先頭集団にいなかったはずのジェームズ・ウェーラン(EFエデュケーション・NIPPO)が突如現れ、一気に加速。そのまま吹っ飛んでいくような勢いでフィニッシュに向かう。

だが、あまりにも危険なこの不意打ちですら、ダーブリッジは全力で牽引し、捕まえる。

残り500m。もう一度、ケランド・オブライエンがアタック。

これを後続からニコラス・ホワイトが追いかける。そして、ダーブリッジに託されたキャメロン・マイヤーは、冷静にこのホワイトの背中に貼りついていた。


オブライエン、なかなか垂れない。勢いが凄まじい。

これを追いかけ続けていたホワイトも諦めたかのように項垂れ、足が止まる。

ここで、マイヤーが飛び出した。

オブライエンもいよいよ、残り200mくらいで足を使い切る。失速。

さあどうだ、マイヤーは届くのか――。

そして・・・

ごくわずか、車輪1個分の差でもって、マイヤーが勝利を右手を掲げた。


キャメロン・マイヤー​

 ルーク・ダーブリッジは信じられない男だ。僕たちは奇跡を起こした! 僕たちは集団の中に埋もれてしまい、もう終わったと思っていたのに、こんなことが起きてしまった。そのわけを言葉にすることなんてできないよ!

 これは本当に難しいレースだった。チームメートは僕を信頼してくれていたけど、正直僕は最後の4周回においてあんまり調子が良くなかったんだ。それでも僕たちはそのチャンスを掴もうと探り続けて、ついに奇跡を引き起こすことができた。

 最後の瞬間は正しい選択を行うことが最も難しい瞬間の1つだ。みんな足がなく、疲れていて、僕もまた同様だった。おそらく最後のスプリントも、僕が経験した中で最もワット数の少ないスプリントだっただろう。でも、僕は正しい車輪を見つけ、正しいタイミングでアタックし、そして正しいタイミングでフィニッシュに到達できたんだ。

 もう1年このジャージを着れるなんて! 信じられないよ!

 ラスト150mでまだチャンスがあると分かっていた。2年前に僕は、ラスト200mでフライベルグに抜かれて目の前にあった優勝を奪われたことがあるから、その痛みはよく知っている。だから最後の最後まで僕はフィニッシュに到達することを諦めるつもりはなかった。みんな足がなかったし、僕はそれをなんとか、引き上げることができた。


ルーク・ダーブリッジ

 それはとてもストレスフルなレースだった。僕たちは途中までレースを支配していたつもりだったが、そこでプラップが行って、これはやばい、と思った。そこでスポーツディレクターノマット・ウィルソンがやってきて言ったんだ。「さあ行け」って。

 僕は1周全力でもがき続けた。そのあとは一旦、プロトンからは脱落したものの、それでも僕は休むことなく走り続け、おそらく2周ほど使って再び前に戻ってきた。最終ラップはひたすら仕事し続け、本当につらい時間だった。

 そのとき僕は、まさかこのレースをわずか100mで逆転して勝つなんて思ってもいなかった。マイヤーは洒落た男だ。僕は彼のために走ることが大好きで、僕たちは本当にうまくやってのけた。

 勝てるかどうかなんてわからなかった。ただ、諦めることだけは絶対にしなかった。このチームにおいて一番重要なことは、決して諦めないこと。ただ戻ってきて、戻ってきて、戦い続けること。そして僕たちは今日それをやってのけたんだ。


サントス・フェスティバル・オブ・サイクリングでは4ステージ中1勝と総合優勝しか成し遂げることができず、国内選手権個人タイムトライアルでも敗北。

クリテリウム選手権では何とか勝利するも、このロードレースにおいても、終盤まで劣勢に立たされ続けてきたこのバイクエクスチェンジ。


彼らは「最強」ではない。勝って当たり前のチームとは言えない。

だからこそ彼らは我武者羅に、「決して諦めず」、戦い続けることで勝利を掴む。

今年も「弱体化」してしまったこのチームが、さらに栄光を掴んでいくことを期待している。

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