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クラシカ・サンセバスティアン2021

現地の言葉ではドノスティア・サンセバスティアン・クラシコア。

スペインで最も自転車熱が熱いと言われているバスク地方の美しき街サン・セバスティアン(現地語でドノスティア)を発着し、バスク地方ならではの激しいアップダウンがコースに組み込まれたワンデーレース。

過去にもアダム・イェーツやバウケ・モレマ、ジュリアン・アラフィリップといった多くのクライマーたちが勝者に名を連ね、前回大会となる2019年はレムコ・エヴェネプールが伝説的な独走勝利を遂げたレースでもある。

今回はツール・ド・フランス閉幕から2週間、そして東京オリンピックロードレースから1週間。ツール~オリンピックからの連戦をする選手も数多くいる中、勝つのは果たして誰か。

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逃げは16名。

リリアン・カルメジャーヌ(AG2Rシトロエン・チーム)
ミカエル・シェレル(AG2Rシトロエン・チーム)
ヴァレリオ・コンティ(UAEチーム・エミレーツ)
アレクサンドル・リアブシェンコ(UAEチーム・エミレーツ)
ハビエル・ロモ(アスタナ・プレミアテック)
ヨハン・ヤコブス(モビスター・チーム)
ホセ・ロハス(モビスター・チーム)
ジェレミー・カボ(チーム・トタルエナジーズ)
スガブ・グルマイ(チーム・バイクエクスチェンジ)
ヨン・バレネチェア(カハルラル・セグロスRGA)
ヨキン・ムルギアルダイ(カハルラル・セグロスRGA)
ミケル・ビスカラ(エウスカルテル・エウスカディ)
オスカル・カベド(ブルゴスBH)
ダニエル・ナバーロ(ブルゴスBH)
クサンドロ・フェルムールセン(ロット・スーダル)
ロマン・アルディ(アルケア・サムシック)

ユンボ・ヴィスマなどが牽引するメイン集団は4分以上のタイム差を広げていたが、残り70㎞を切ったあたりから登り始めるハイスキベル(登坂距離7.9㎞、平均勾配5.6%、最大勾配12%)からレースは本格化。

先頭16名の中からは22歳のスペイン人、ネオプロのハビエル・ロモ(昨年のU23スペインロード王者)が単独で抜け出して、ハイスキベルの頂上を通過していく。

一旦は1分20秒近くまで縮まったタイム差もまた少しずつ開き始め、天候も雨模様。サバイバルな展開が始まっていく。


残り50㎞を切ってエライツ(登坂距離3.8km、平均勾配10.6%、最大勾配13%)の登りが始まると、メイン集団はUAEチーム・エミレーツ、次いでEFエデュケーション・NIPPOによって牽引される。先頭ロモとのタイム差も30秒近くにまで迫る。

そして山頂まで残り2.8㎞。ジロ・デ・イタリアでの落車以降の復帰戦となるバスク人ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)がアタック。そこにサイモン・カー(EFエデュケーション・NIPPO)も食らいつき、2名は一気にロモを躱して先頭に躍り出る。

さらにカーはランダを突き放して単独先頭に。昨年はNIPPOデルコ・ワンプロヴァンスに所属し、同じバスクのレース「プルエバ・ビリャフランカ・オルディシア・クラシカ」で勝利している22歳のイギリス人。

最後のムルギル・トントーラへと向かうサン・セバスティアン街中の平坦区間にて、集団から抜け出してきたミケルフローリヒ・ホノレ(ドゥクーニンク・クイックステップ)ニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・NIPPO)マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)ロレンツォ・ロタ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)の4名がカーを捕まえ、その46秒後方で迫るメイン集団の数はかなり絞り込まれており、トレック・セガフレードのジャンルカ・ブランビッラが先頭を懸命に牽引している。

集団はすでに30名程度か?

人数を揃えているドゥクーニンク・クイックステップがミケルフローリヒ・ホノレが先頭にいることでローテーションを回そうとしないため、ペースが上がらない。残り13㎞でタイム差が1分を超える。


残り10㎞前後から始まる最後の、そして例年の勝負所となるムルギル・トントーラ(登坂距離2.1km、平均勾配10.1%、最大勾配19%)。その登りに入る直前で集団の前の方で落車が発生し、千切れる。

タイム差はさらに広がって1分10秒。

これはもう、先頭5名で決まってしまうのか?


そして山頂まで残り1㎞。最も厳しい勾配区間で、先頭集団からニールソン・ポーレスがアタック。

この一撃でしっかりとライバルたちを突き放し、単独先頭に。例年のムルギル・トントーラの、必勝パターンだ。


しかし、モホリッチとホノレも、粘りを見せた。頂上間際で、なんとか先頭のポーレスを捕まえた2名。

頂上を越えた先の短い平坦区間でロタも追いつき、先頭は4名。タイム差はまだメイン集団から1分以上の差が残っている。


勝負は先頭の4名に委ねられた。



が、まだまだトラブルは終わらない。

雨のムルギル・トントーラの下りで、先頭を突っ込んでいっていたモホリッチが、カーブでバランスを崩す。

モホリッチ自身は立て直したものの、その直後にいたホノレがハンドルを切ってしまい、落車。さらにそこではじかれたバイクがロタに絡み、ロタも落車。ホノレはすぐさまバイクに乗り直し再スタートするも、ロタだけはここで完全に遅れる形に。

サンセバスティアンの街中に戻ってくる頃には、先頭は3名に戻り、いよいよ最後のスプリントへ。


下馬評で言えばモホリッチ、もしくはホノレが有利と見られていた。だからこそポーレスは登りで彼らを突き放す必要があった。

モホリッチも自分が一番警戒されていることは分かっているのか、先頭に出て一気にペースを上げるが、二人を突き放すことはできない。

モホリッチの後ろにはポーレス、その背後にホノレ。

残り100mでモホリッチがスプリントを開始。

だが、ここでポーレスが全力で踏み込み、モホリッチに並び――そして、最後、これを追い抜いた。

ニールソン・ポーレス。元アクセオン・ハーゲンスバーマン。当時チームメートだったルーベン・ゲレイロやテイオ・ゲイガンハートと共にツアー・オブ・カリフォルニアで新人賞TOP3を独占し、その頂点に立ったのがこの男だった。

しかし、その後はゲレイロやゲイガンハートから(1歳年下だったこともあり)1年遅れてのワールドツアー入り。

ジロ山岳賞や総合優勝など結果を出していく2人に対し、ポーレスはなかなか、勝利を掴むことができないまま過ごしていた。


が、ここでついに掴み取ったプロ初勝利。

それもこの、リエージュ~バストーニュ~リエージュやイル・ロンバルディアに並ぶ世界最高峰のクライマーズクラシックで。

おめでとう、ニールソン。

クラシカ・サンセバスティアン


ホノレはさすがに落車の影響があったのか。

また、集団先頭はアラフィリップを下してUAEチーム・エミレーツのプロ2年目、コーヴィが奪い取る。今年、ジロでもその存在感を示し続けていた次代の注目選手。2年前のクラシカ・サンセバスティアンで集団2番手に入り込んでいたマルク・ヒルシが翌年のツールで大ブレイクしたように、彼もまた、来年、きっと大きな勝利を飾るはず。


そしてバウケ・モレマはギリギリでTOP10入り。これで2012年以来、(中止の2020年を除き)9回連続でTOP10入り。

ツール・ド・フランスを完走し、1週間後の東京オリンピックで上位に入り、さらにそこからまたトンボ帰りしてのこの成績は、十分に驚嘆に値する。


昨年のエヴェネプールに続き、「ムルギル・トントーラ前の平坦路」で勝負が決まった今年のクラシカ・サンセバスティアン。

しかも優勝候補とは言えない選手たちによる意外な結末。来年も、そんな予想のつかない展開を期待したいところだ。

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