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ブエルタ・ア・エスパーニャ2022 第14ステージ

今大会最も厳しい2週目の週末、シエラネバダ山脈決戦が始まる。その1日目は1級シエラ・デ・ラ・パンデラ(登坂距離8.4㎞、平均勾配7.8%)山頂フィニッシュ。15%の超激坂区間が何度も登場する、非常に厳しいレイアウトだ。

果たして、ここまで絶大な力を発揮し続けてきているレムコ・エヴェネプールは引き続きここを耐えることができるのか。それとも4連覇を狙うプリモシュ・ログリッチの逆襲が始まるのか。


逃げ切りを狙い、ヴィンツェンツォ・ニバリを含む実力派クライマーたちが次々とアタックしては引き戻される激しい展開を続ける中、前半80㎞の平坦区間をほぼすべて消化したうえでようやく10名の逃げが形成された。

クレマン・シャンプッサン(AG2Rシトロエン・チーム)
アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・カザフスタンチーム)
ルイスレオン・サンチェス(バーレーン・ヴィクトリアス)
ブルーノ・アルミライル(グルパマFDJ)
リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)
フィリッポ・コンカ(ロット・スーダル)
マルコ・ブレンナー(チームDSM)
ケニー・エリッソンド(トレック・セガフレード)
マッス・ピーダスン(トレック・セガフレード)
ラウル・ガルシア(エキッポ・ケルンファルマ)

残り33.1㎞地点に用意された中間スプリントポイントを先頭通過したピーダスンは、その後エリッソンドのためにアシストしたうえで残り22㎞、最終山岳の手前に用意された2級プエルト・デ・ロス・ビラレス(登坂距離10㎞、平均勾配5.5%)突入と同時に脱落。

残った9名の中から、残り19.1㎞からルツェンコが加速。ここにサンチェスや少し遅れてカラパス、シャンプッサンなどが追いついてくると、次第に集団はバラバラに。

最終的に抜け出したサンチェスとカラパス、これを追いかけるシャンプッサンとコンカ、ルツェンコの合計5名だけが先頭に残り、最後の1級シエラ・デ・ラ・パンデラ(登坂距離8.4㎞、平均勾配7.8%)へと突入した。

突入と同時にルツェンコが脱落。シャンプッサンは登坂開始直後に先頭2名に追い付き、コンカも単独でなんとか追いかけながらも残り5.3㎞で先頭3名に追い付いた。

サンチェスもシャンプッサンもコンカも、すでに今大会1勝しているカラパスを警戒して積極的な牽引には加わらないことで、登坂突入時点で存在した3分半のタイム差はみるみるうちに減っていく。

そしてメイン集団の方ではユンボ・ヴィズマのアシスト、クリス・ハーパーが先頭を強力に牽引。2019年ツアー・オブ・ジャパン総合優勝。翌年にユンボ・ヴィズマ入りしたものの、なかなか一軍メンバーには選ばれずにいた実力者は、来年母国チームのバイクエクスチェンジへと移籍が決まっている。その彼が、セップ・クスを失ったユンボ・ヴィズマの中で、チームのための最後の仕事を完璧にこなしていく。

ハーパーの猛牽引はメイン集団の数を着実に減らしていき、彼の後ろにはエヴェネプールの最後のアシストであるイラン・ファンヴィルダー、エヴェネプール、ログリッチ、エンリク・マス、ミゲルアンヘル・ロペス、ベン・オコーナーなどが並んでいく。各チームのアシストはもうほとんど残っていない。

残り4.5㎞。3分半のタイム差を1分10秒にまで縮めたハーパーはここで仕事終了。集団先頭はファンヴィルダーへとスイッチする。総合10位テイオ・ゲイガンハートも遅れる。

そして残り4.3㎞。15%の超激坂区間に突入すると同時に、このメイン集団からプリモシュ・ログリッチがアタック! エヴェネプールは反応しない。第1週の山岳ステージも、決してアタックはせず、一定ペースで集団を引き千切ったエヴェネプールにとって、これは無理に追うわけにはいかない。ファンヴィルダーも、まだ若く、ログリッチを力で抑え込むだけの力はまだなかった。

着実に開いていくログリッチとエヴェネプールたちとの差。ファンヴィルダーも脱落し、エヴェネプールが先頭に。ここで、エヴェネプールも焦ったのかダンシングに切り替え追い始める。

これが、彼の崩壊の始まりだった。一気にペースを乱し始めたエヴェネプールを、エンリク・マスやミゲルアンヘル・ロペスなどが追い抜いていき、ログリッチへの追走を開始する。

一方、先頭の4名からも、残り3.5㎞地点でカラパスがアタックし、独走を開始する。

残り3㎞。先頭はカラパス一人。追走するログリッチにはマスとロペスが追いつき、3人でカラパスから25秒遅れ(距離でいうと100m差で)残り3㎞ゲートを通過。

残り2㎞。先頭カラパスとログリッチ集団は21秒差。エヴェネプールはそこから35秒遅れ。

残り1.5㎞。先頭カラパスとログリッチ集団とのタイム差が26秒に拡大。そしてそこからマスが一人、落ちる。追走するエヴェネプールは38秒差にまで広がっていたが、緩斜面に入ったことでやや復活。一度は追い抜かれたフアン・アユソーを再び追い抜く。

そして最後のダウンヒルを経て登り返しを独り駆け上ったカラパスは、そのままログリッチらを振り切って単独でフィニッシュラインに到達。

第12ステージに続く、立て続けの区間2勝目。総合では大きく遅れた2年前の総合2位が、シエラネバダ山脈決戦1日目にしっかりと実力を見せつけた。

年齢表記はすべて2022/12/31時点のものとなります。


エヴェネプールも何とかログリッチから48秒遅れに留め、この日終了時点での総合タイム差においては1分49秒差をいまだキープしている。

崩れたのは確かだが、その一因は、自分のペースを保つことをせずついダンシングで無理に追いかけようとしたところにもあるのかもしれない。後半、緩斜面で自分のペースを取り戻し復活したことは、彼にとっては希望となるかもしれない。

今大会の最も重要な決戦となる超級シエラ・ネバダ決戦となる第15ステージは、シエラ・ネバダこそ一定の勾配が続く「エヴェネプール向き」のレイアウトだが、問題はその手前の1級山岳。今日のフィニッシュにも似た厳しい勾配のこの1級山岳で早めの攻撃を仕掛けられたとしたら、エヴェネプールにとっては挽回不可能なビハインドを背負うことになるかもしれない。

いよいよクライマックス。重要な一戦が、今幕を開ける。


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