「ナポリの男たち」とよばれる四人

ゲーム実況というジャンルにはそこまで明るくなかった。

どちらかといえば「配信」というものが好きで、そればかりを追いかけているようなライフスタイルだった。

しかし、何事にも転機というものは訪れるもので、ある日にニコニコ動画においてひとつの動画タイトルが目に入ることになる。

攻略本を越えた超やりこみゼノギアス

動画投稿者「shu3」による、題字のごとくとてつもないやりこみでもって進んでいくこの動画シリーズ。とにかくその「根気」に圧倒されながらも、僕は彼をフォローしていた。

ほどなくして、そんな彼が実況グループに所属していることを知る。

それが「ナポリの男たち」である。名前の由来は女子ウケを狙ったことであったり、グループ名決定放送で視聴者も交えての相談の上で名付けられた。コンセプトは「介護疲れに効く動画」。

「ジャック・オ・蘭たん」「すぎる」「hacchi」「shu3」が所属メンバーだ。

「shu3」の活動を追いたいと考えた僕は色々な彼らの動画を見漁っていたが、そんな中で彼らが開設している有料のチャンネルページが存在することを知った。ページ内の動画欄や生放送欄を閲覧するだけなら無料だったので覗いてみると、彼らは週一回のペースで生放送を行っている様子だった。

そして、その中ではメンバー一人ずつが企画を持ち寄り、放送内で披露しているらしきことが見て取れた。その当時の最新回は「shu3の爽やかシモネタ回」というタイトルのもの。僕にとっては、とてつもなく見たいと思わされるタイトルだった。

放送開始から一年半ほど経ったある日「よし、入会しよう」と会費の月額540円(現在は消費増税に伴い550円)を払う日々がはじまった。

過去の放送が動画化されたアーカイブを見ていくと、初期の頃はお互いのぎこちなさが目立つような回も多かったが、徐々にその関係性に変化が現れ始めていき、現在となってはおじさん四人が仲睦まじく放送を繰り広げている。その過程のドラマは、四人がそれぞれに真剣にお互いに向き合ったからこそ起こり得たものだろうと容易に推察できる。

当時はshu3目当てで入ったが、動画や放送を追っていくうちに他の三人にも興味が湧き、それぞれの個人実況の視聴にも手を出すようになった。今回はそれぞれ四人の実況をある程度追ってみて見えてきたものを、僕なりの言葉で記していきたいと思う。

前置きが長くなってしまったが、今回のテーマは「ナポリメンバー四人に対する所感」だ。


ジャック・オ・蘭たん

グループのリーダー的存在である彼は実はメンバー最年少。

それでありながらニコニコ内においては2007年から実況を続けているなど、なかなかシブい経歴の持ち主。

実況スタイルはツッコミやキャラクターいじり、モノマネやシュールなボケを駆使したりしながらゲームプレイを華やかに彩っている。彼の放つ「例えツッコミ」の的確さや秀逸さは、ぜひ一度耳にしてほしい。

近年では主人公たちに友達感覚で接するように喋りながら彼なりに愛情を注いでおり、実況プレイならではの感情移入法を見せている。

その例が特に顕著なのは「ファイナルファンタジー15」の実況。ノクティス率いるクセのある四人組に対して時にイジり、時に諌め、時に悩みに同調するなどしながら徐々に親睦を深めていく様子が見て取れる。結果としてPart1にもついた「五人旅」というタグは、実にしっくりくる彼の実況の「らしさ」を表した言葉であるといえよう。

また、キングダムハーツシリーズにおいて登場するディズニーキャラクターたちに対する深い愛情をのぞかせたり、女性ファッションに対する知見、女性向けコンテンツの男性キャラクターたちにハートを射抜かれたりする場面が散見されるなど、乙女なモードも同時に持ち合わせていることも伺える。少女漫画原作の「12歳。」の実況プレイにおける、彼氏役の高尾優斗くんに対する彼のリアクションは必見だ。

普段の飄々とした立ち振舞いからは想像もつかないほど、ホラーに対しての耐性だけは異常に低いのも、なんともアンバランスで面白い。


すぎる

ナポリの設立にあたってメンバーの召集を担当した彼のグループ内での立ち位置はかなり自由自在といえる。

自前の関西弁を駆使しながらボケたりツッコんだり、他のメンバーとの立ち位置を見てバランスをとったり、かと思えばボケが迷子になってしまい「ごめん」と申し訳無さそうに謝罪していたりと、彼のハートはフィールドを縦横無尽に駆け巡っている。

そんな彼の実況の華はなんといっても、その感情の爆発っぷりといえるだろう。

表面だけで捉えるなら、コテコテの関西弁からくるひょうきんな性格や、特に初期の頃に目につきやすいキャラクターに対する傍若無人な言動、プレイングの拙さ等からくる「絶叫」のリアクションかもしれないが、心の奥底にある彼の「人情深さ」には、鼓膜のみならず目頭をも揺さぶられる。

不器用ながらにもキャラクターたちの心にできる限り寄り添いながら物語を読み解いていき、主人公と一心同体となりながらゲームを進めていく。そんな彼の心の動きは実にダイナミックで見応えがあり、近年は特にその傾向が顕著であるように思える。

「ドキドキ文芸部」シリーズにおけるキャラクター一人ひとりとの詩を通した対話は、そんな彼のどでかい声量にも負けず劣らずの大きな器の一端を垣間見ることができるだろう。

hacchi

メンバー内では唯一、個人の実況からは退いている(2020年2月現在)彼だが、その圧倒的な「バランス感覚」は今なお衰えてはいない。

かつて、実況プレイのジャンルにおいて初めてランキングで一位を獲得したという経歴を持つ彼は、視聴者の中に起こるであろう反応にはとても敏感である。

過去に行われた全体放送(通称「夜会」)において、ナポリの通話会議での彼のアドバイスが的確に視聴者の反応をとらえていたという発言がすぎる氏からあったことからも、その確かな手腕はグループの作品のクオリティの維持にも繋がっているといえる。

あくまで2017年当時の発言からの引用であるため、現在のそういったプロデュース面での立ち位置がどうなっているのかは不明だが、設立当初から今に至るまで動画の再生数が安定しているのは興味深い。

しかし、彼自身が持つ魅力はその言語IQの高さであると僕は考える。

「憤懣(ふんまん)やる方(かた)ない」という言葉を口語で発言したことのある人物を、現代において彼以外に僕は見かけたことがない。

四人がひとつの3DSを使い、それぞれの単独収録をひとつの作品にまとめた「どうぶつの森」シリーズ内において開かれたポエム大会では、彼の文豪的なセンスを垣間見れるシリーズとなっている。

また、非会員向けのチャンネル放送ハイライト集においては、第60回に開かれた「hacchiのわっしょいモリモリ作詞(詩)発表回」での彼の詩を一部ご覧に入れることができる。

闇の深いヘタウマなイラストも多数手掛ける彼の芸術性はとどまるところを知らない。数々の名キャラクターを生み出しては、暴力的なキャラクター設定を付加していき、メンバーや視聴者を恐怖と笑いの渦に飲み込んでいく。


shu3

グループ内のIT担当といえば彼だろう。

チャンネル放送は毎回彼のエンコーダーを通じて行われ、シーン切り替えやBGMを敷いたりなどラジオでいうところのディレクターのような役回りを担っている。笑いの沸点の低さも「作家笑い」のような作用を引き起こしており、放送や動画においても和やかな雰囲気を保たせてくれる。

そんな彼の実況スタイルは、ゲームに対する深い愛情からくる情念たっぷりのやりこみプレイといえるだろう。冒頭で紹介したゼノギアスおいても

「人生に影響をあたえたRPGの一本、それがゼノギアスである」

という彼の発言で始まることからもそれが伺える。

近作の動画においては、ゲームの解説パートを設けていたりするなど、知識面の豊富さやその情報収集の能力、更にそれを自分なりに噛み砕いて発信するなど「嚥下力」の高さも伺える。

ネットリテラシーも高いためミステリアスな部分も多い(素性を明かすことが美徳だとはいわないが)が、その部分を蘭たんの想像力でもってイジり倒され、ペンチマンのような文字通り妙な肉付けがおこなれていたりする。

軽妙なトークから突如、急角度で放り込まれる下ネタも特徴的であり、柔和な雰囲気とは裏腹な過激な一面も併せ持つ。


と、四人の所感を語ってきたものの、ハッキリ言ってこれだけではまだまだ彼らの魅力を表現しきっているとは到底いえないレベルの文章だが、あまり長くなりすぎてもと思うので、ここらへんにしておく。

あの岡崎体育や米津玄師をも巻き込んで徐々にその人気をあげており、ついには昨年「スーパーマリオRPG」(SFC)や「moon」(PS)のキャラクターデザインを手掛けた倉島一幸氏をメインビジュアルに起用した「ナポリテン」も東京・大阪で行われ盛況のうちに幕を閉じるなど、今後も彼らの動きを追う日々からは、まだしばらく離してはくれなさそうだ。