心が"古のオタク"だったあの頃に戻った話

これをご覧のみなさんにとって「象徴的なアニメ作品」というものは、存在するだろうか。
例えば、2010年代を象徴するアニメといってパッと思い浮かぶのは
社会現象にもなった「魔法少女まどかマギカ」なんかは、分かりやすい例ではないかと思う。
00年代で言えば「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」なんかも、その中に入ってくるだろうと思う。

ジャンル別に分けることもできるだろう。
バスケットボールといえば「スラムダンク」「黒子のバスケ」は、問答無用のツートップといえるし、
タイムスリップSFでいえば『世界線』という単語を一般化するまでに持ち上げた「Steins;Gate」なんかも、ひとつとして挙げることができるといえる。

たとえそれが未見の作品であったとしても。

象徴的、というのはそういうことなのではないかと考える。

私がオタク的な自我を持った2000年前後。
今や完全な死語、俗に言われていた「萌え系」とよばれるジャンル。
「萌え系」で「1990年代末期」を象徴する作品はいくつか存在していた。
ひとつは「カードキャプターさくら」。
夕方のNHKで放映されていたこともあり、その認知度は当時を知る人にとってはバツグンといえる。

ここからが本題の入り口。
深夜アニメというものの人気をじわじわとオタクの間で上げていった「ワンダフルアニメ」という枠で放送されていた、

Di gi Charat(デ・ジ・キャラット)

も、確実にそのうちのひとつである。
当時のインターネットに存在していた表現技法「アスキーアート」。
本作の主役の「でじこ」を中心に、そこかしこで見かけていたので、その時からもちろん存在は認知していた。
しかし、私は当時この作品を見ることは適わなかった。

先に挙げた「ワンダフルアニメ」という枠。
これは深夜バラエティ番組の「ワンダフル」の中のコーナーのひとつであり、製作はTBSであった。
この番組が、私の住む関西圏では全くネットされていなかったのである。
後に放映された、テレビ大阪製作の「デ・ジ・キャラットにょ」という作品も存在するのだが、第1作であるワンダフル版を抜かした状態で視聴するのもなぁ、と「一から楽しみたい」というオタクの特性がはたらいてしまい、視聴するには至らなかったのであった。

こうして、象徴的な作品としての認識は持ちつつも、その中身を一切知らないまま、自分はオタクとして過ごしていたのである。

大阪・日本橋に存在する店舗「ゲーマーズ」に掲げられている巨大な看板に描かれていた「でじこ」は、
私にとっては「知らないけどすごく有名なキャラクター」止まりであったのだ。

そうして20年以上の時が流れた2021年。
24周年を迎える2022年の10月から「令和のデ・ジ・キャラット」というリバイバル作品が放映されるという報せが私の耳にも入ってきた。
なぜ「24」で周年を祝うのかというと、本作の主人公「でじこ」は語尾に『にょ』とつけるため、そこから来ているからだそうだ。
公式YouTubeチャンネルも立ち上がり、Vtuberと化したでじこが、出資元であるゲーマーズやブシロードのために、せっせと宣伝活動を行っている。

そのチャンネルの中で、周年キャンペーンの一環であろうか
ワンダフルで放映されていた「デ・ジ・キャラット」が、なんと1話から期間限定で配信されだしたのである。

「あの時に見られなかったアニメだー!!」

衝撃が走り、即座に視聴を開始した。
監督・脚本はギャグアニメ作家の中でも特に有名な方のうちの一人、桜井弘明氏。
ホントは言ってないセリフ『シャミ子が悪いんだよ』でおなじみの「まちカドまぞく」の監督である人といえば、
そのセンス感を感じ取る事ができる人もいるかもしれない。
(個人的には未見です、すみません…)

「魁!!クロマティ高校」や「斉木楠雄のΨ難」などで、その確かな手腕を見てきていたのだが、この作品でのギャグセンスは特にナンセンス寄りに爆発しており
「あぁ、この頃のギャグアニメってこんなんだったなぁ~」と、未見の作品であるにもかかわらず、謎の懐古感を味わうことができた。
特に、現代の自分にも知識としてだけは耳に入っていた、非常に人気の高いと噂の
第15話「PARTY☆NIGHT」には、かなり"ウキウキ"させられた。
ちなみに「令和のデ・ジ・キャラット」でも、同じく桜井弘明氏が監督を務めることが発表されている。

…ここでちょっとした小話をひとつ。
この「デ・ジ・キャラット」は、当時のブロッコリーというブランドを代表する作品のひとつなのだが、
このブロッコリーというブランドが持っていた、もうひとつのシリーズ作品「ギャラクシーエンジェル」というものが存在した。

本流はゲームなのだが、アニメ版も存在している。
が、このアニメ版がゲーム本編の美少女アドベンチャー要素とRTSゲーム要素が融合したシリアスな雰囲気を一切合切排除した上での、
これまたスーパーナンセンスギャグアニメなのである。

学生だった私は当時、このアニメが放送されていた曜日を迎えるのが楽しみで楽しみでしょうがなく、
あまり楽しくない話で申し訳ないが、学校のクラス内で"そういう扱い"を受けていた自分にとっては、大事な大事な心の栄養補給の手段のひとつであったのだ。
この作品の存在も、先に述べた「未見なのに懐古感を味わえる」ための下地として、確かにそこに内在していたようにも思う。

配信されている「デ・ジ・キャラット」を見ていると、今よりもどギツメのオタクであったあの頃のことを、ほんのりと思い出すのである。
当時のネット友達と集合場所のCGIチャットで

「付き合うなら烏丸ちとせかなー」
「蘭花(ランファ)もかわいいよね」
「蘭花の声優さんのラジオ聞いてる?めちゃくちゃおもしろいよ」

なんてことを、キーボードに乗せてワイワイと夜な夜な交流を深めていた。


閑話休題、ここからが本題の本丸。
上述した「デ・ジ・キャラット」のアニメ配信。
全16話を5回に分けた配信を終え、これを書いている段階では
放送終了後にも不定期に放送されていたスペシャル版の配信も期間限定で開始されている。

思えば、バラエティ番組のコーナーのひとつでしかなかった作品が
放送終了後にも新作が放映され続けていたというのは、なかなかの異常事態なんじゃないかなとも思う。

そんな中配信された「お花見すぺしゃる」。
その中のエピソードのひとつ「ラ・ビ・アン・ローズと呼ばないで」
「ラ・ビ・アン・ローズ」というのは、本作に登場するレギュラーメンバーのうちの一人「ラ・ビ・アン・ローズ」その人のことである。

主人公の「でじこ」たちが居候している秋葉原のゲーマーズに、アルバイトとして通勤しているのだが、
実はこの「ラ・ビ・アン・ローズ」というのは仮の姿。
本名を「うさだヒカル」といい、中学校に通う至ってまじめな学生なのである。
「でじこ」からは、この「ラ・ビ・アン・ローズ」という呼び名ではなく、本名の名字を呼び捨てにされてイジられながらも、
高飛車なその性格で「でじこ」とバチバチにやりあっている。
そんな、この「ラ・ビ・アン・ローズ」初登場回である第2話のサブタイトルは「ラ・ビ・アン・ローズと呼びなさい」。

先に挙げたサブタイトルとは対比の関係にあるのは明白だろう。
そこに登場する、メガネをかけた制服姿の「うさだヒカル」、
これがもう、とにかく可愛くて可愛くてしょうがないのである。
画像を勝手に拝借していいものか、少し危うげなところなので
詳細な姿をご覧になりたい方は、ぜひとも検索窓に「うさだヒカル 制服」と打っていただきたい。

当方、メガネ少女大好き人間であるため、あの完璧な黒ぶちメガネ姿には感動すら覚えてしまった。
学生の時分に放送されていたこと、またその時の雰囲気をバリバリに感じられる作風であること、
そして、そんな自分はこれまた死語である「キモヲタ」であったこと……。

ありとあらゆる要素が噛み合い、不覚にもこのキャラクターにどハマリしてしまったのである。

不覚も不覚。不意打ちとはまさにこのことであり、これを書いている段階でもかなり当惑しているのが、正直な感想だ。
なぜなら、アニメ・マンガ・ゲームなどのキャラクターにここまで心からハマるなんてことは、少なく見積もっても15年以上は体感していなかったからだ。

大人になり、社会人となり、ある程度は色々と経験しながら、齢三十もとうにこえた段階で、
わたくしスザン門の心は、あの頃の"古のオタク"に、まんまとすっかり戻ってしまったのでした……。

「そらぁ人気の作品にもなりますわなー」なんてことを俯瞰で捉えつつも、
とは言え、せっかく10月から新作アニメも始まることですし、
ここは思う存分に、楽しんでいきたい所存であります、はい。