ザンビ展 会場用ボイスドラマ原稿
下記の原稿は2021年10月末に開催された、『ザンビプロジェクト』ファンアート展の会場にて流したボイスドラマの収録用原稿となります。
『ザンビ』の二次創作ですので、本家のストーリー・設定を詳しく知らないという方にも伝わるよう、ガイド的な台詞も盛り込みました。
YouTubeの方でフル音源を聴けますので、ぜひ原稿と合わせてお楽しみいただければと思います。
【登場人物】
北条 純
…フリージア学園の三年生。学園の惨劇に巻き込まれザンビ化、神人にまでなったが、とある出来事から人間に戻る。
温厚な性格で、正義感があり度胸が据わっている。
ギャラリーに辿り着いた生存者(=来場者)をナビゲートする。
笠松隊長
…自衛官。沢野(※)が率いる部隊の一人。封鎖された東京に潜む生存者を救出するため派遣された小部隊の隊長。
自衛隊として活動することに強い誇りを情熱を持っている。
個より全体のために動ける視野があり、物事を俯瞰して見ることができる冷静さも併せ持つ。
雄介
…生存者の男。武器・食料が貰えると聞いて、妹のさやかを連れて取引場所の根津美術館(※)に向かう。しかし、それがアキレアス(※)の罠だと知らず窮地に陥る。助けを求めて無線に呼びかけ、笠松と繋がる。
妹・さやかとは10歳離れており、高校生の頃に両親を失ってからは自らが働いて養っていた。
美術館で妹がザンビ(※)に噛まれ、彼女を置いて逃げてしまったことの罪悪感に苛まれる。
さやか
…女子高生。生存者の男・雄介の妹。アキレアスの罠にハマり、ザンビに噛まれてしまう。
幼い頃に両親を亡くし、たった一人で育ててくれた兄のことを非常に慕っている。気弱な性格もあってか、一人では何もできない。
自衛隊に救出されていく兄を追い、ザンビ化してもなお、避難所であるギャラリーまでついて来てしまう。
【用語解説】
※ザンビ(残美)
…ある女の呪いから生まれた不死の怪物。噛まれると”感染”し、ゾンビのように次の獲物を狙って活動する。
噛まれてから発症するまでの時間や症状に、かなりの個人差がある。自らがザンビ化していると自覚があり人間になりすます者もいれば、自覚がないまま発症まで普通に生活している者もいる。
※アキレアス
…ザンビ惨禍の東京に現れた荒くれ者集団。髑髏が描かれた海賊のような旗を掲げ、人々を暴力で支配しようとする。(『ザンビTHEGAME』に登場)
※沢野
…ザンビ惨禍を治めるために奔走する、宮内庁の要人。(『ザンビTHEGAME』に登場)
※根津美術館
…『ザンビプロジェクト』ファンアート展の会場近くに実際にある施設。
【あらすじ】
ザンビに支配された東京。政府は巨大な”壁”を建造し、生存者もろとも都市を完全封鎖した。そんな東京都内の、とあるギャラリー。笠松隊長ら小部隊はここを簡易避難所とし、探索の拠点にした。
新たに生存者(=来場者)を迎え入れた直後、助けを求める無線を傍受し……。
※物語の舞台は、都内のギャラリー。
一人喋りのシーンは基本、来場者に向けて語りかけている。
最初はしばらく、北条のナビゲートパート。
北条「……誰?そこにいるのは誰?……人間、なの?
どこも噛まれてない?……なら、その鏡の前に立って。
もしザンビだったら、あなたの姿は歪んで映るはず……。
(安堵の溜め息)……うん、大丈夫みたい。
ノックもしないでいきなり入ってくるから、ザンビだと思って危うく撃つところだった。
疑って悪かったよ、ごめんなさい……。
もしかして、あなた武器も持たずに外を歩いてたの?信じられない……。
しかも、そんなボロボロになるまで……。
あなたさえ良ければ、少しここで休んでいけば?
私もちょうど話し相手が欲しかったし。
探索に出てる仲間を待ってるとこで、なんだか退屈してたんだよね。
それに見た感じ、あなたはザンビのことも、東京が今どうなっているのかもよく分かってなさそう。
……よし、生き延びていくための知識、私が色々教えてあげる。
私、北条 純っていうんだ。
ここで会ったのも何かの縁だろうし、よろしくね」
※外からザンビ達の声が聞こえてくる。
北条「しっ!扉の向こうにザンビがいるみたい……」
※ザンビの声が徐々に遠のいていく。
北条「……良かった、どこか行ってくれたね。
あなたも見たと思うけど、あれが”ザンビ”。生と死の狭間にいる存在。
だからナイフや銃で攻撃しても、簡単に倒すことができない。
厄介なのが、ザンビに襲われると、その襲われた人もまたザンビになるということ。
そしてザンビ化して何日か経つと、さらに狂暴な”神人”に変化する。
そうなると、もう止めを刺すのは不可能。
伝染病の類いか、あるいはバイオテロだなんて言う人もいたけど……そんなんじゃない。
あれは呪いなの。それも、とっても強力な……」
北条「その風車、気になる?
風も無いのにどうして回ってるのか……。
近くにザンビがいるとね、それが回って知らせてくれるの。
今はまだ大丈夫だけど、回転が激しくなったら……その時は用心して」
北条「元々ここはギャラリーだったようだけど、こんな状況になってからはザンビから逃れる為のセーフルームとして使われてるみたい。
扉のすぐ横の壁を見て。
……そこの貼り紙は全部、誰かの安否情報。
ここに立ち寄った人達が、書き残して行ったんだろうね。
残念だけど、私が探してる名前は無かった……。
まあ、生きてればそのうち会えるよね。
……あなたにも、今すぐ会いたい人はいる?」
北条「”フリージア学園”……聞いたことあるかな?私はそこの生徒。
東京がこうなる前は、普通の女子高だったんだけど。
今は生存者の人がたくさん集まってきて、避難所として校舎で暮らしてる。
私ら生徒はそこを拠点にして、他の生存者を助けるために活動してるんだ。
武器や弾薬はドローンが落としていくから、私でもなんとかザンビと戦えてる。
それでね、このギャラリーにも人が集まってるって噂を聞いて、みんなで来てみたんだけど…………間に合わなかった。
私達が来た時、生き残ってたのは一人だけ。
その人は全てを見ていて、このギャラリーで何があったかを教えてくれたの。
その人もね、あなたみたいにザンビから逃げ回ってここに辿り着いた。
中に迎え入れてくれたのは、自衛隊の人で……」
※以下、ボイスドラマに続く。
笠松「(ギャラリーに入ってきた来場者に向けて)よくぞ無事で……!検査は済んだみたいですね。ここには食料も寝床もあります。少しでも体を休めてください。
警備は、我々自衛隊にお任せを」
♪BGM1~Safe Room
※雑音、何者かからの無線が入る。
雄介「……れか!誰か!聞こえたら応えてくれ!おい!!」
※雑音混じりで、男の声は聞き取りづらい。
笠松「なんだ?近くに生存者がいるのか……?
(無線に向かって)こちら、自衛隊の笠松だ。無線を傍受した、どうぞ」
雄介「……」※雑音。
笠松「おい!どうした、聞こえるか!?」
雄介「自衛隊……?本当か?だったら助けてくれ……妹が……」
※無線から銃の音、それに混じってザンビの声が聞こえてくる。
笠松「場所は?すぐ向かう!」
雄介「根……術館……だ……」
笠松「よく聞こえない……もう一度頼む!」
雄介「アキレアスの罠だ……。タダで食料を貰えると思った俺が馬鹿だった……」
さやか「お兄ちゃん!待って……!助け……て……!」
雄介「さやか!さやかぁぁぁっ!」
※無線から男女の悲痛な叫び。それをかき消すように、ザンビの群れの声が大きくなる。無線が切れる。
笠松「くそっ……!美術館と言ってたか……?たしか、この近くに”根津美術館”があったはず。
(ギャラリー内の生存者に向けて)我々は、彼の救出に向かいます。皆さんはここで待っていてください」
♪BGM2~rescue
※扉の外から、階段を上がってくる数人の足音が聞こえてくる。
扉を開ける音。笠松率いる自衛隊と、さきほど無線で話していた男・雄介が入ってくる。
笠松「救出が間に合って良かった。アキレアス……一体何を企んでいるんだ?」
雄介「うぅ、足が……」
笠松「(他の隊員に)ひとまず、彼の検査と傷の手当てを。
(生存者に向けて)あの化物……ザンビはご存知ですね?
こちらがどんなに攻撃しようと、何度も立ち上がり襲いかかってくる。……殺しきることが出来ないのです。
しかし、頭部を破壊できれば、彼らの動きは止まる。
いいですか、襲われたら頭を狙ってください。その相手が、かつての仲間や最愛の人であろうと……どうか躊躇わないように。
迷いが生まれれば、すぐ貴方も死ぬことになる。
……そこに銃があるでしょう?宜しければ、正しい使い方をお教えしますよ」
♪BGM3~survival
※雄介、来場者に話しかける。どこかうわ言のように、つらつらと。
雄介「……あんた、ここには一人で来たのか?家族はどうした?…………そうか。
俺は……俺は、妹と一緒だったんだ……。たった一人の家族だ。
両親が早くに死んで、俺が親代わりみたいな感じでな。
やっぱり歳が離れてるのもあってか、可愛くて可愛くて仕方なくてなぁ……。歳は、10コ下だ。
一人娘が出来たら、こんな気持ちなのかな~とか、彼氏連れてきたらどうしよう~だなんて思ってた。
……幸せだったよ。親はいないし、金も無くて生活も仕事も大変だし……けど、さやかがいれば幸せだった。
めちゃくちゃ優しいやつなんだよ。
東京がこうなる前、あいつの18歳の誕生日でさ『私一人で頑張ってみるから。私のことは気にしないで、お兄ちゃんは自分のことを大事にしてって』って言われてさ……。
……でも、ダメだったんだよ。さやかの手を、俺はまだ離しちゃいけなかったんだ……!なのに……なのに俺は、ここに来て自分のことを優先した……。
あの時、ザンビに囲まれて……俺は、さやかを……」
※外から、ローファーの靴音が聞こえてくる。雄介の妹・さやかの足音だ。
さやかが扉を叩く。(会場の扉は金属製)
さやか「……お兄ちゃん……ねえ、お兄ちゃん……いる?開けて、お願い……!」
雄介「……!?さやか、さやかか?
(笠松ら自衛隊が銃を構える音)……おい、やめろ!銃を下ろせ!俺の妹だ!」
さやか「(弱々しく扉を叩き)お兄ちゃん、早くここを開けて……あいつらが来る……」
雄介「大丈夫だ、心配すんな。今開けるからな」
笠松「いけません!彼女はもう噛まれてる……!」
雄介「何言ってるんだ?俺の妹なんだぞ!?頼む、中に入れさしてくれ!」
※笠松、再び銃を構える。
雄介「なあ頼む!たった一人の家族なんだ……頼む……」
さやか「寒い……体中が痛い……。怖いよ、お兄ちゃん……私どうなるの?」
雄介「さやか……ごめんな、俺……何もできなかった……」
さやか「うぅ……お願い、お兄ちゃん助けて……(苦しそうに呻く声が、徐々にザンビのものに変わっていく)。
ひどいよ、お兄ちゃん……私一人置いていくなんて……ひどいよ……!
一人にしないで……!一人にしないで……!」
雄介「(少し後退り)さやか、お前……もう……」
さやか「(扉を激しく叩きながら)行カナイデ!オ兄チャン!私ヲ一人ニシナイデ!オ願イ!」
雄介「さやか……!」
笠松「扉から離れてください!妹さんは既に……」
雄介「うるせえ!やめろ!だから銃を下ろせ!下ろせっつってんだろ!
……お前らに撃たれるくらいなら……俺がさやかを……!(近くにあった拳銃を手に扉へ近づく)」
笠松「おい、何をする気だ?やめろ、戻れ!」
雄介「(うわ言のように)さやかがこうなったのは……俺の責任だ……」
※雄介、扉を開けて、妹のさやかと対峙する。
さやか「ウ、ウゥ……」
雄介「さやか……?顔を上げてくれ、こっちを見てくれ……」
さやか「オ兄チャン……」
※さやか、雄介を見て微笑んだ次の瞬間、大口を開け首元に噛みつく。
雄介「ぐああっ!?ごめんな……ごめんな……!」
※激痛を堪えながら、さやかの喉元を撃つ。銃声、さやかが倒れる音。
雄介「はあっ……はあっ……!もう、一人にはしないからな……」
笠松「やめろ!」
※銃声。
ドラマパート終了。北条パートに戻る。
北条「笠松さんはその後、二人の仇を取るつもりで、もう一度外に飛び出して行った。アキレアスのいる美術館に。
……けど、しばらく経っても戻ってこなかったって。
私達は話を聞いた後、(このギャラリーで出会った)その人を学園に連れ帰った。
それからまた、笠松さんを探す為にギャラリーに戻ってきたの。それに、アキレアスがしたことも許せなかった。
いや……一番許せなかったのは、二人を助けられなかったことかもしれない。
私達が、もっと早くここに来てたら……?さやかを元に戻して、お兄さんも死なずに済んだ……!
仕方のないことなら、簡単に諦めがつくかもしれない。
だけど、こんなに悔しいのは……二人を助けられる方法を知ってたから……!
ごめんなさい、急にこんな……気持ちが昂って……。
でも、あなたは最後まで話を聞いてくれた。ありがとう。
出会ってまだ間もないけど、あなたになら……打ち明けていいかも。
……実は私、一度ザンビになってしまったの。だけど、ザンビ化した私を元に戻してくれた子がいて。
その子は、”祈りの力”でザンビの呪いを祓うことができる。
……こんなオカルト的な話、今はまだ信じられないと思う。私も最初はそうだった。でも、その子に会えばきっと分かるはず……。
彼女の名前は、山室 楓……」
♪BGM4~despair
【to be continued……】